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第1話:25歳までデキないって嘘!?

 意識がぼんやりと覚醒し、あたしは重い瞼を持ち上げる。見覚えのない天井。窓から差し込む優しい光。部屋全体に漂う、どこか厳かな空気。


 病院ではなさそう。じゃあ、天国? ……ここはどこだろう。


 布団の肌触りも違う。いつもの安物の化繊じゃなくて、柔らかくてふかふか。


 しかも、なにこれ、あたしの手……白くて、細くて、やたら綺麗じゃない?


 あたしは布団を跳ね飛ばし、バッと体を起こす。すると、ベッドのすぐそこに立っていた男の人が振り向いた。


「……トウマ?」


 そこには、あたしの推しホスト、トウマがいた。


 相変わらずの綺麗な顔。アッシュブラウンのサラサラな髪。深い青色の目(カラコンかな)。

 今やっていた、指先で唇に軽く触れながら考える仕草も、見慣れたものだった。


 あたしのトウマ。


 ――いや、違う。


 服が違う。黒い礼服のような服装に、金の刺繍。胸元には黄金の太陽(?)の首飾りが下がっている。


「マナシア、大丈夫ですか?」


 低く、穏やかな声。


 ……え?

 え、ちょっと待って。

 今、なんて言った?


「マナシアって……誰?」


 あたしの問いに、トウマ(にそっくりな男)は眉をひそめた。


「あなたの名前です。マナシア・フェルヴェイン、私の妻。あなたが階段の下で倒れていたので、心臓が止まるかと思いました」


 妻。

 その言葉に、頭が真っ白になった。


「ちょっと待って、どういうこと? あたし、死んだはずじゃ……?」


 自分の手を見てみる。刺されて倒れたときにアスファルトで擦った傷がない。お腹を押さえても、痛みひとつない。


 まさか、あたし……別人に生まれ変わったっていうの?


「記憶が混濁しているようですね。頭を打ったのかもしれません。あとでお医者様に診ていただきましょう」


 心配そうに言いながら、トウマ(にそっくりな男)はあたしの頬にそっと手を添えた。

 優しい。

 ホストのトウマとは口調も雰囲気もまるで違うけど……優しいところと顔はそっくり。


 これは……神様からの贈り物?

 転生したら、推しホストと結婚してました、なんて、都合が良すぎる話――最高じゃん!!


「うふふ、えへへ、あたしの愛しい旦那様ぁ」

「あの、その呼び方は……いつものようにセラディスと呼んでください」

「うん、わかった! じゃあセラディス、生還祝いにチュウして、チュウ~」

「……はい?」


 セラディスは明らかに固まった。


「あの……マナシア、私は神に仕える身。たとえあなたと夫婦であっても、その……制約がありますので」

「制約?」

「ああ、やはり頭を打ったせいで……マナシア、我々夫婦は、婚姻の儀でアレオン神に誓いました。あなたが25歳になるまで、キス以上の行為はしないと」


 ……は???

 25歳まで、デキない……???


「ちょ、ちょっと待って! あたし、今何歳?」

「22歳です」

「ってことは、あと3年、キスもエッチもできないの!?」

「エッ……慎んでください!」

「待って待って! ホントにデキないの?」

「そうです。それがアレオン教の教義のひとつですから」

「嘘でしょ!?」


 最高の転生生活が、いきなり崖から突き落とされた瞬間だった。


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