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7-3 ※R18

「も、やぁ……っ」


エリアスは小さく声を上げながら、ベッドの上を這うようにして上に逃げる。

既に数えきれないほどの絶頂を味合わされ、レオナード自身もエリアスの中に熱を二度ほど放っている。

いつもならばエリアスの体力を慮り、ある程度のところで切り上げられる行為だが、今日はまるで違った。

レオナードは自分から遠ざかろうとするエリアスを許さず、その細い腰を掴むと引き戻す。


「ひ、ぁああっ……!」


抜けかけていた剛直がまた勢いよく埋まり、エリアスは背中をしならせた。

何度味わっても受け入れるときの感覚は、神経が焼き切れそうに熱い。


「どうして逃げる……?エリアス」


その背ごと、抱きすくめてエリアスを捉えると、耳元で甘く囁く。

すると、レオナードを包む柔らかい肉がきゅうきゅうと締まった。

おかしなくらいに感じていてエリアスは言葉を紡ぐ余裕もなく、ただ、首を振る。


「エリアス、エリアス……」


何度もレオナードに名を呼ばれる。

それさえも快感を引き起こさせる、一種の愛撫でしかなく、エリアスは身体を戦慄かせた。


(なぜ、今日はこんな……)


エリアスは霞がかかるような頭で考えるが、まるで分からない。

恐らく、自分の落した何かしらの言葉でレオナードの感情に火を点けたのだろうということはわかる。

けれどその感情が怒りなのか、はたまた別の何かなのか……全く見当がつかなかった。

とはいえ自分の名を呼び、この身を抱く相手には、まだ自分への愛情はあるように見える。

そう思うと心がほんの少し解放されるようだったが、男というものが愛情だけに性欲を見出すものじゃないと、男であるエリアスが一番知っている。

こういう時、本当にエリアスは自分がいやになる。ただただレオナードを信じて、抱かれて感じていれば良いものを。


(どうして、こうも……うまくいかないんでしょうね……)


身を焼くようなレオナードの熱に喘ぎながら、エリアスは心の中でだけそんな言葉を落とした。

逃げられないように回されたレオナードの腕の力が強くなる。

その力にエリアスは心までもが囚われそうだった。

……いや、エリアスの心はとっくの昔に囚われている。

だから、苦しくてたまらないのだ。捨てられそうな未来が。


(レオナード様……あなたは……俺をどうするつもりなんですか……)


そう問いかけることさえできず、エリアスはただ、目を閉じるしかなかった。



エリアスが目覚めたのは、既に月が空に浮かび上がっている頃だった。

隣にレオナードの気配はなく、室内も静まり返っている。

ゆっくりと起き上がると、身体が重だるく、衣類の類はまとっていなかった。

しかし、肌はさっぱりとしており、べたつくような感触はない。

レオナードが後始末をしてくれたのだろう。

ふと視線を向けると、脱がされた衣類は椅子の背に綺麗にかけられていた。

乱雑に放置されていないのが、なんともレオナードらしい。小さく笑いが漏れる。


「……レオ様……」


囁くように名を呼ぶと、彼の顔が浮かぶ。

思い出せば思い出すほど、心の奥が熱を持つ。

確かに、自分はレオナードが好きなのだと思う。

こんなにも執着して、惹かれて、離れられなくなっているのだから。


(……もし、叶うなら……ずっとこのまま……)


一瞬、そんな甘い考えが頭をよぎる。

しかし、次の瞬間、それをかき消すように強く目を閉じた。


(でも、そんなことは、決して──)


エリアスは、過去を思い返す。


レオナードを初めて目にしたのは、まだアカデミーに在学していた頃だった。

アカデミーの周年式典で案内係として傍についたとき、その存在感に息を呑んだのを覚えている。

あの時から、きっと何かが始まっていたのだ。

憧れは少しずつ形を変え、側で仕えるようになってからは恋情へと移り変わった。

彼の囁く愛に応え、身を捧げることにも抵抗はなかった。


だが──


(こんな恋は、するべきではなかった……)


エリアスの唇が、かすかに歪む。


レオナードを疑っているわけではない。

だが、悲しいくらいに現実が迫ってくる。


──妾。


(そんな立場で、満足できるほど俺は器用じゃない……)


たとえ妾として迎えられたとしても、正妃は別に選ばれる。

そして、あの優しいレオナードのことだ。正妃も、きっと大切にするのだろう。


(それを、許せるはずもない……)


嫉妬に苦しむ自分の姿が、ありありと目に浮かぶ。

そして、それはプライドの高い自分が許せるものじゃない。

だからこそ──この関係は、いずれ終わりを迎える。

どれほど愛を囁かれても、結局「最後まで隣にいる者」にはなれないのだから。


「レオ様……」


窓から見える月を見上げながら、エリアスは名前を呼んだ。

その声は、冷えた室内に小さく落ちる。

そして、静かに響く鼓動の音だけが、彼の耳に残った。

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