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4-1

いつものように、エリアスは王宮内を歩いていた。

別部署からの書類を預かりレオナードの執務室に戻る途中だ。

夕刻の風が吹き抜ける中庭を横切ろうとした時、不意に名前を呼ばれる。


「エリアス様ーっ!」


振り返ると、駆け寄ってきたのはハルトだった。


「……御子殿」

「いやいや!普通にハルトでいいですよ!」


人懐っこい笑顔を浮かべるハルトは、相変わらず屈託がない。

御子として正式に王宮に迎えられて数日が経ったが、相変わらずその態度に気負いは感じられなかった。


「おひとりで散策ですか?」

「はい!王宮内で迷わないように探検中です!エリアス様はお仕事の帰りですか?」

「もう少しですかね。少し片付けがありまして」

「そっかー」


ハルトは隣を並んで歩き始めた。

その距離が妙に近いことにエリアスはわずかに目を細めたが、気付かないふりをして足を進める。


「エリアス様って、本当に綺麗ですね」

「……はい?」

「レオナード殿下が惚れ込むのもわかる気がします」


突然の屈託ない言葉にエリアスは歩を止めかけたが、ハルトは気にする様子もなくにこにこと笑っている。


「いや、その……?」

「村でもね、エリアス様の噂は聞いてましたよ。あ、これこの前も俺言ったかな……?」

「……ええ、まあ」


そういえば、とエリアスも思い出してわずかに肩をすくめる。


「レオナード殿下が恋人として大事にしている方だって。みんな言ってましたし、会って納得しました」

「それは光栄ですが……あまり言いふらさないで頂けると」

「えー、なんでですか?」

「私の立場は、それほど強くはありませんから」


エリアスは淡々と答えたが、ハルトはふっと表情を曇らせた。


「立場とかいろいろとあるんだ……いや、あるんですね」

「当然です。王宮では、それがすべてですから」

「でも……レオナード殿下はそんなこと気にしてなさそうじゃないです?」

「……そう見えるだけです」


エリアスは苦笑を漏らした。


(あれがレオ様の本心であればいいが……ああいやだな。レオ様が絡むむとどうも女々しい)


「……なかなか難しいっすね……」

「ハルト様が無邪気すぎるんですよ」


唸るハルトに向かってそう言いながら、少しだけエリアスの心は和らいでいた。


「ねえ、エリアス様。明日、時間……ええと、お時間ありますか?」

「……明日?」

「はい。俺、剣術の稽古があるんですけど、見ててもらえると嬉しいなって」

「私が?」

「ですです!ここに来てからの一番初めの友達はエリアス様なんで!」


ハルトは明るい笑顔でエリアスを見る。


「だからエリアス様に見ててもらえたら嬉しいなーって思ったんです」


(これは……懐かれたかな……)

エリアスは内心でため息をつきながらも、断りきれず小さく頷いた。


「……わかりました。少しだけならお付き合いしますよ」

「本当ですか!やった!」


無邪気に喜ぶハルトを見て、エリアスは再びため息をつく。

(これが後々、面倒なことにならなければいいが……まあ、大丈夫か)

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