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2-3 ※R18

「ひあっ……あ、あっ……レオさまっ」


エリアスの舌足らずな嬌声が二人しかいない執務室の中に響いていた。

レオナードの膝の上で対面となりながら、下から穿たれる。

乱された襟元から覗くエリオスの白い肌の上にはレオナードによってつけられたキスマークが散乱している。

腰を揺すられるたびに、レオナードから教え込まれた快感が身体の中で次々と爆ぜていくようでたまらなかった。

そうして熱に酔わされる中でもほんの少しだけの理性が自分に教えてくる。


(──こうして愛されていても、俺はこの人の部屋にすら入ったことがないじゃないか……)


エリアスが抱かれるのは決まって、この執務室の中だ。

初めての時も、この場所で押し倒されて、そのまま──レオナードの熱意に負けて全てを許した。

その後も共に長くいる時間はこの部屋が多く、結果的にこの部屋でだけ求められるようになっていた。

レオナードはまだ王宮内に自室がある。

そちらは別棟となっており、王族とその家族とそれに仕えるものが入れる場所だ。

側近とはいえ、一介の文官で恋人でしかないエリアスには足を踏み入れることは難しい。


(外で会ったことすら……ない……)


それも難しいことは、エリアスの立場上、よく分かっている。

王族が個人的な用向きで外に出ることだって容易ではない。

ましてや相手は王弟であり継承権さえもつような人間だ。

本来は触れあっていいようなものでもない。そう考えると……。


(欲を発散するための一時的な関係……なのかもな……)


──そう考えてしまうのは、どれだけ快楽を与えられても、心の奥底で拭えない不安があるからだ。


(本当に、俺はレオ様に必要とされているのだろうか)


そんな弱気な考えが浮かぶたび、エリアスは首を振って消そうとする。

好きだというのも本当だろう。

けれど結局はそこにいつも行きついてしまう。


「……エリアス、なにを考えている?」


甘い声を出しながらも意識を集中させてない恋人に、レオは不満げに呟く。


「……っあ、な、にも……っ」

「嘘をつくな」


言葉とともに、レオナードがエリアスの腰を強く掴んで動かないようにしてから、思いきり腰を打ち付けた。責められるように強く欲望で叩かれて、エリアスは、


「……ひっ、や……だ、めぇ……っ」


背中を思いきりのけ反らせる。

剥き出しになっている薄い皮膚を纏った鎖骨に、レオが強く噛み付いた。


「知っているか?エリアス。お前、宮廷内では白銀の君、なんて呼ばれて人気なのを」

「あふっ……あ、なにをいって……」


噛み付いた場所を吸い上げながら、レオナードが言う。

実際、エリアスは自身がどれほど目を引く存在であるかに気付いていなかった。

その怜悧で儚げな風貌は、王宮で男女を問わず憧れの的となっていたにも関わらず。

銀糸のように繊細な髪に、宝石を溶かしたかのような碧眼。

伏せられた睫毛が影を落とせば、そこに佇むのは白皙の佳人。

寄せられる視線も、かけられたアプローチの数も数え切れない。

だが、エリアスはそれに一切気付くことなく過ごしてきた。

恋愛に興味を持つこともなく、ただひたすらに己の役目を果たしていただけだ。


──そんな彼を、レオナード・グレイシアだけが手に出来た。


「……私だけを見ろ、エリアス。私だけの氷華」

「あうっ……レオさま、レオさまぁ……あ、あ、あ、あ」


強く、早く、レオナードはエリアスを上下に揺らす。

そのたびに銀髪は揺れてレオナードの目を愉しませた。

終わりが近くなった頃、レオナードがエリアスの耳元に唇を寄せる。


「……どこに欲しいか、言えるか?」


レオナードの声は甘く、けれどどこか意地悪だった。

エリアスは耳まで真っ赤にしながら、息を乱して言葉を探す。


「……っ、あ、なかに、くださ……いっ……」

「……上出来だ、エリアス」


レオナードが満足そうに笑うのが、恥ずかしくて仕方なかった。

エリアスが両方の手をレオナードの逞しい首に巻くと、動きを更に早くした後、その柔肉の奥底へと、自身の欲望をどくりどくりと溢れさせていく。

それと同時に、エリアスも男としての達し方でなく、中のみで気をやっていた。


(……身体だって、とっくに戻れない気がする……)


必死でレオナードに抱き着きながら、エリアスはそんなことを思った。



──とくんとくんと響く鼓動だけが、静かな執務室に満ちていた。


レオナードはエリアスを抱き寄せたまま、上着をそっと肩にかける。

後始末は手早くされて、お互いの衣服の乱れは最小限にまでなっている。

いつもと同じ、けれどどこか名残惜しさを感じる余韻が肌に残っていた。


「……少し眠るか?」


レオナードの低く優しい声が降ってくる。

その空いている片手は先ほど自身が欲望を満たしたエリアスの薄い腹を撫でていた。

これもいつも終わった後に行われる行為で、手からはじんわりと温かさが伝わってくる。

そこには自身が吐き出したものをエリアスの中で馴染ませて害をなさないような魔力が込められていると、エリアスは聞いたことがある。

エリアスは額を彼の肩に預けながら、ゆるく首を振った。


「大丈夫です。……少しだけ休めば、戻れます……」

「戻る必要なんてない。今日の仕事は終わりにする。明日に回しても大丈夫なものばかりだ」

「そういうわけにはいきませんよ……」


エリアスはわずかに身を起こして、レオを見上げた。

金色の瞳は、どこまでも真っ直ぐで、揺るぎないものを映していた。


──こんなにも愛されているのに、なぜ不安が消えないのだろう。


自分でも理由はわかっている。

「王弟の恋人」という立場が、いかに儚いものか。

それが「今だけの関係」なのではないかという不安は、どれだけ抱かれても消えなかった。


「レオ様……あなたはずっと、変わりませんね」

「当然だ」


レオナードはためらいなく言うと、エリアスの頬に軽く口づけを落とす。

エリアスがここへと配属になったその日から、レオナードは愛を囁き続けている。

戸惑ったまま1年が過ぎ、疑いの2年目、そして3年目になった頃に漸く、エリアスはその言葉を受け入れて今に至る。


「私は、ずっとお前だけを見ている。お前が気付いていないだけだ」


しかしどれほど深く愛を注がれても、未来が確約されるわけではない。

それがわかっているからこそ、エリアスはそっとレオの肩に額を押し付けた。


「……いつまで、続くでしょうね」


つい零れた独り言に、レオナードは少しだけ目を細める。


「その言葉、何度目だ?」

「……さぁ、覚えてませんね……」

「お前が心配しなくなるまで、私は答え続けよう」


小さく囁かれた言葉に、エリアスはレオナードの肩に額を押し付けた。


「……レオ様はずるいです」

「そんな心配をしている暇があるなら、少しは私に甘えろ」

「十分甘えていますよ。今だって……」

「……いや、まだ足りないな」


そう言ってレオナードは、エリアスの指先に唇を落とす。

名残惜しいように何度も。


──これ以上、甘やかさないでくれればいいのに。


けれど、そんな言葉は、どうしても口にできなかった。

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