南ケイラノス中央部――そこにあるクォード城塞において、一つの会議が持たれていた。
空気は奇妙に弛緩しながら、同時に殺意と戦意が入り混じっている。用を言付かるための番兵など会議場の扉横で直立しながら、氷水にでも浸かったように震えていた。
そこにいるのは六色の騎士達。団長級ではなく現場の者達だが、彼らこそ強さという尺度においてケイラノス最強という栄誉を賜りし“一剣”。個人で集を破る怪物達だ。1人、2人ならともかくとして、全員揃った部屋の中に凡人を入れることは獅子の檻の中に入れるに等しい。
当の本人達は至って普段どおりの態度である。彼らは自分の役割は生きた剣である自覚があるゆえに。
「ツコウとシャルグレーテ様が失敗するとはな……そのアルゴフとやら、よほどの知恵者らしい」
「いや、追わせる人選間違ってるでしょ。
「一言もない。シャルはともかく、俺は探索経験がありながらこの始末だ」
「へっ! 作戦どうこうより、目標を間違えてるんだよ。一切被害が無いように立ち回って、本命に逃げられてちゃあ片腹痛しだ。アラゴン領を見捨てていれば良かっただけだ。二人で広げられる手の広さなんざ、たかが知れている」
青の甲冑を着た初老の男が重苦しく述べると、黄色と緑色が混ぜ返す。“青”の騎士コーディアは長年にわたって“一剣”を努めた最古参の騎士であり、“一剣”のみの集会では事実上の隊長を務める。その発言は重みが違う。
“緑”の軽装姿のテーズは口は悪いが、事実を述べているだけだ。
“黄”の甲冑を着たヘリオは
“赤”の重甲冑を着込んでいる大男はアルマンという名だが、室内でも兜をかぶっている。寡黙な性質で、必要なら普通に喋るものの雑談には加わらない。
ツコウは彼らの言を黙って受け止めるが、シャルグレーテは反論を辞さない覚悟だ。
自分よりツコウに文句が行くのに多くの意味で耐え難いのだ。
「だからといって、無辜の民を犠牲にする道を我らは選べなかった。元々、死体が動き回るなどという話を国全体に広げないために動かざるを得なかった。そこに文句を付けられてもな」
やいのやいのと文句を飛ばすテーズと、それに反論するシャルグレーテ。それをヘリオが時折混ぜ返してはツコウを巻き込もうとする。“一剣”の若者4人は顔を揃える度にやかましい。
「現場での対応を協議するために設けられた席だが、我々だと雑談にしかならんな。はぁ……」
コーディアは頭を振ってよくある言葉を頭に浮かべた。“最近の若いものは……”という考えだ。
その考えどおり、ツコウを弁護するシャルグレーテを見てヘリオがニヤついた笑いを浮かべている。からかおうという魂胆が見え透いているが、どこか猫のように見えるのは彼女の愛嬌だろう。
「……個人的には、殿下とツコウの距離が妙に近い方が気になるねー」
興味津々、あるいは既に答えが分かっている調子でヘリオがからかうように尋ねるとシャルグレーテは胸を張った。
「フフン。さて、なぜかな?」
「なにがフフンだ。しばき倒すぞ」
「ちょっと、貴様! 私のモゴッ……モゴ……」
ろくでもないことを口にしようとしたとして、ツコウはシャルグレーテの言葉を封じた。
しかし、シャルグレーテのツコウに対する好意は張本人たるツコウ以外は以前から気付いていたため呆れたように首を振るばかりだ。
脱線した話題を元に戻すべく、寡黙なアルマンがくぐもった声で話題を振る。アルマンは寡黙ではあるが無口ではないので、真面目な話題ならばしっかりと参加する。
「確認するが、我々
「あんたは外にまで名前が知れてるからな。まぁ仕方ねぇな。
「
「
各騎士団の行動方針を確認し合う。王都から動けない
分けても
「結局は“一剣”任せになるわけだ。ま、日頃がお飾りな分働きはするが……個人に頼りすぎじゃないかね」
「
テーズのぼやきに対しても律儀に反応するツコウだが、その態度が気に入らないテーズは嘲りの声を出す。
「はっ! 初めから
「言い過ぎだぞ! 無用のいさかいなぞ起こすな!」
「ちっ……」
コーディアの一喝にはさしものテーズも黙る。この場の全員がコーディアの教えを受けたことがあり、ある意味では全員の師匠とも言える男に逆らおうとする意気は起きない。
気まずい沈黙の中で、アルゴフ捜索の団員を確認し合う。
ツコウ、シャルグレーテ、ヘリオ、コーディアが点による追跡を行うこととなる。従者はコリンのみ。
個性が濃い面子による会議はこれにて閉幕した。