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第5話 いざ挑む

 洋館のロビーには予想通り誰も……いや、誰かソファーで寝っ転がって寝てる。

 なんという大胆さなのだろう。中央の円形ソファーで寝るなんて。俺にはとてもじゃないができねえぞ。

 誰が寝ているのかは一目みて分かった。山田さんだったよ。制服姿のままでパンツが見えそうだった。

 ……ともあれ、彼女が起きることもなくいよいよ地下へ続く階段を下る。

 ええと、マップウィンドウのチェックからはじめるのがいいんだったか。自分を知り敵を知ればとか長ったらしい講釈をイルカから受けたのだが、常に現在位置を確認しろって言いたかっただけだった。

『*50階にいる*』

「え、えええ、イルカ情報が本当だった」

 最初は1階からはじまるもんじゃないの? イルカから事前に情報を得てなかったら、モンスターとのファーストコンタクトで即死していたところだぞ。

 イルカの情報は多岐に渡る。外へ繋がる出口のある階段は広場になっていることや、その広場にはエレベーターがあることも。ダンジョンはモンスターが多数徘徊しているのだが、聖域と呼ばれる箇所があり、聖域にはモンスターが侵入してこない。広場も聖域になっていて、ここにいる限り安全なのだ。

 広場の床は大理石のような素材でピカピカであったが、ツルツルではなく滑らないようにできている。天井は高く、ぼんやりと光を放っているから灯りは必要ない。

「エレベーターはっと」

 広場を壁に沿って歩き、目印を探す。こいつか。赤いアルファベットを崩したような見たことのない文字。

 こいつに手を近づけると――。

 ゴゴゴゴゴゴ。

 壁が開き、上下の三角形のボタンが出てきた。

 ここで注意です。ダンジョンは上から下に降りるもの。ビルだと1階が一番下で、上に登ると2階、3階と数字が増えていくよな。

 ディープダンジョンの場合は一番高いところが1階で、どんどん下に降りていく仕様である。

 まあ、間違えて下に行こうとしても行くことはできないんだけどね。

 エレベーターには使用条件がある。ボタンを押したプレイヤーの行ったことのある階層より浅い(上の階)にしか行くことができないのだ。

 これもまあ、ゲームにはよくある仕様だよね。続きをプレイするためにクリアした階層をスキップできるってやつさ。

 ただ、エレベーターは5階層ごとに停止するため、5階進まないとエレベーターで次の停止階まで行くことができない。

「んじゃま、上ボタンをぼちっと」

 上の三角ボタンを押す。何も変化がない。

 このまま待つこと1分と少し。

 うおおおおお。

 と低い男の叫び声が聞こえてきて、肩がビクリと上がる。

「モ、モンスターはいないんだよな……聖域、聖域だぞ、ここ」

 縋るような目でイルカを見るも、奴は無表情のままふよふよ浮き、「何について調べますか?」と呑気に聞いてきやがる。

 それどころじゃないってのにい。

 うおおおおおおお。

 ま、ますます声が大きく。

 ガガガガガガ。

 今度は崖が崩れるような音がして、壁が左から右に開き、奥はトイレの個室くらいの広さの小部屋になっていた。

 ぺろり、こいつは間違いなくエレベーター。

 さあどれどれ。

 エレベーターによくある数字の描かれた四角いボタンが並んでおる。事前のイルカ情報の通り、1階から50階まで5階刻みでボタンがあるぞよ。

 迷わず「1階」を押した。

 うおおおおおおおお。

 だ、だからうるせえええ。この叫び声はエレベーターが発する絶叫だったようだ……。

 そして、動きが遅い……この分だと1階まで行くのに10分近くかかるんじゃねえか。ま、まあ、気長に待つぜ。

「イルカ、教えて欲しい」

「『教えて欲しい』の検索結果は……」

「その冗談はもういいから。念のため確認したい。1階のモンスターが一番弱い、宝箱は10階まで罠はない、誰でも開く、であってる?」

「認識通りです。生まれたての小鹿のようなあなたでも、1階なら鼻歌です」

 その言葉を信じて1階に行こうと決意したんだからな。頼むで、ほんま。

 俺も切実なんだよ。特に運動が得意じゃない知識だけの俺がわざわざ危険を冒してダンジョンに行くのはもちろん理由がある。

 俺だって最初は部屋に籠って榊君や神崎君がクリアしてくれるのを待てばいいと思っていたさ。

 しかし、ディープダンジョンはプレイヤーに冒険を強要してくる。ダンジョンに向えって設定なので致し方なしなのだろうが、行かないと餓死してしまうのは酷すぎないか?

 部屋に自販機みたいなディスプレイがあっただろ。あの自販機は食べ物も出すことができるのだけど、購入するにはお金じゃなくてダンジョンで手に入るガルドと呼ばれるゲーム内通貨が必要なんだよ。

 生粋のぼっちである俺は、もちろんソロである。なので誰かが稼いできたガルドをトレードしてもらうこともできない。

 ちょ、ちょっとへんこんできたが、気にしたら負けだ。

 小鹿のような俺でも鼻歌なんだよな、イルカよ。

 ガガガガガガ。

 お、エレベーターが嫌な音を立てて止まった。


『*1階にいる*』

 よし、念のための階層も確認したぜ。視界にはキッチリマップが映っている。生身だけど、本当にゲームの中にいるようだ。

 自分の見える範囲を自動でマッピングしてくれるようで、探索すればマップが広がっていく仕組みになっている(イルカ情報)。

 エレベーターのある広間を出ると、さっそくモンスターに遭遇した。

「む、無理だろこんなやつ!」

 1階は最弱のモンスターが出るんだよな? 何が小鹿でも大丈夫だよおお。

 初遭遇したモンスターは身長3メートルくらいある人型だった。長方形を繋ぎ合わせて人型にしましたって感じ……知ってる、ゴーレムってやつだろこのモンスター。

 最弱のモンスターだったらゲーム的な定番がいくつもあるだろう。最初からゴーレムなんて聞いたことないぞ! ゲームではゴーレムが出てくるのって中盤以降だろ。

 おや、モンスターの頭上に緑色の文字で名前が表示されているじゃないか。

『ペーパーゴーレム』

 ほ、ほおお。名前から察するにはりぼてゴーレムとな。ボール紙でできたゴーレムならば俺でも倒せそう、いや、倒せる。



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