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第4話 裏1 山田ひまり

 ――山田ひまり。

 もう何度目になるのだろう。私、山田ひまりは神器『再起の杖』の効果で同じ時を繰り返している。

 一度目は何が起こったのか分からなかったけど、黒板がディスプレイに変わり忌々しいディープダンジョンのアプリがスマートフォンに表示された。続いて、松井くんが最初の犠牲者になって……と「全く同じ展開」になったの。

 その後も同じ、榊くんと神崎くんがクラスを引っ張り、それに咲が加わり攻略組となる。だけど、極限状況からか『裏帰り』が起こって、榊くんたちがみんなを助けようとして待機組以外が全滅してしまう。待機組だけが残っても望みはなく、ダンジョンのモンスターに勝てず全滅したわ。

 気が遠くなり、三回目。あまり鋭くない私でも理解できた。死ぬと時が巻き戻って繰り返されるってことに。

 全滅する未来を変えれないかとまずは松井くんを救おうと何度か試してみたのだけど、うまくいかなくて……。

 結局一番最初の回が一番進んだなんてなんて皮肉なのかな。耐えられなくなって自殺したこともあったけど、やっぱり最初に戻ってしまう。

『ディープダンジョンの世界へようこそ』

 クラスメイトのみんなが驚く顔をする中、表情を見られないように俯く。必死にため息が出ないように耐えながら。

 忌々しいガチャを引き、神器「再起の杖」が出る。何度繰り返しても同じ結果になることも、もう慣れてしまった。

 ダメ。

 小さく首を振り、ぎゅっと拳に力を入れる。

 今度こそ、変えてやるんだから。まずは、松井くんね。

 スマートフォンを眺めたまままだガチャを引いていない彼にどう声をかけるべきか悩む。前回は「危ない逃げて」と言ったんだっけ。

 その前は彼の手を引こうとしたかな? 

「松井くん」

 色々考えた結果、彼の名前を呼ぶだけになっちゃった。

 名前を呼ばれたことに驚いた? 彼が椅子からずり落ちる。

 ガガガガガガ。

 鉄の棒が椅子を貫き、初めて松井くんが無事なままだったの!

「あ、う……あ、ありがとう、た、助かったよ」

「う、ううん、松井くんがスマホ触ってなかったから、まだ(ガチャを)引いてないのかなと思って」 

 精一杯平静を装っていたけど、動揺し目が泳ぐ松井くんと同じかそれ以上に私も動揺していたわ。

 こんな単純なことで松井くんを助けることができたなんて。今までの私は何をしていたんだか……。

 これまで参加さえできなかった彼がいることでどのように展開が変わるのか、僅かな期待に久しぶりに高揚する。


 ◇◇◇


 洋館の個室にやってきた。もう慣れたもので、レモンティーとおにぎりを自販機で注文してお腹を満たす。

 食べ終わったところで、ふと思い出したの。

 そうだ、隣の空部屋って松井くんのために用意されていた部屋なんだってことを。

 テラスに出たら死んだ目をしていない松井くんが隣のテラスにいたの。いつも今のような目だったらクラスの子も声がかけやすいと思う!

 よっし、松井くんを笑顔にしてみせようじゃないか。にいいっと口角をあげことさら明るい声で彼に声をかける。

「やっほー」

「こ、こんち、あ」

 う、うーん。もう少し頑張りましょう? 今度はきっと君を笑顔にしてみせるぞ!

 心の中で松井くんに銃を撃つ仕草をして、彼にスマートフォンを見てみるといいよーと伝える。

 松井くんの引いたガチャは真理だと思ったの。降臨なら向こうから有効にしてと語り掛けてくるし、神器なら強制的に有効になるから。


「真理かあ」

 部屋に戻ってレモンティーを飲み、ほおと息を吐く。

「でも、注目していないからこそ、道があるのかも」

 真理は攻略上の役立つ情報をくれたり、システム的な働きをしたり、サポート系の神器とは別のベクトルで支援ができる。

 彼の動き方次第では今までと違う展開になるかもしれない。どんな能力なのか聞いてみたいな。


 だけど、松井くんは来なかった。

 もうみんなダンジョンに行って戻ってきて解散しちゃったよ? 松井くんはいつ来るんだろう?

 もしかしたら怖くなって部屋で行くべきか悩んでいるのかな? うーん、案外抜けていて休もうとしたら寝すぎちゃったとか?

「う、うーん」

 カツカツという靴の音で目が覚めた。

 ソファーで寝転がっていたら寝ちゃっていたみたい。ガバっと起き上がると階段を下りていく彼の後ろ姿が見えたの。

 あれ、松井くんじゃない。

 真理を引いて、ソロでダンジョンに行くなんて自殺行為よ。

 今から走れば彼に追いつけるかも、急いで彼を追いかけたけどダンジョンに入っていっちゃった。

「助けたいけど、今から神崎くんたちを呼びに行っても間に合わないよね……」

 私が一人で突撃しても松井くんと一緒にさよならだし、『次回』に賭けるべき?

「それはダメ。私が私であるために、やれる限りはやるんだ。モンスターに合う前に松井くんの首根っこを掴んで戻れば」

 もしここで死んじゃったとしても最初からになるだけ。痛いのにはもう慣れている。やらないで後悔するよりやって後悔するべきよね!

「行こう」

 よっし、待っててね。松井くん。

「あれ?」

 だけど、松井くんの姿は見えなかった。どこに行っちゃったんだろう?

 寝ぼけてて彼の姿を見たと勘違いしたのかな?

 勘違いじゃないと分かったのは次の日になってからだった。


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