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第3話 まずは……寝る

 さっそくテラスに出てみた。テラスから見える景色は一面の海、海、海である。当初予想した通り、ここは崖から突き出た台地のようなところで、下を見るとくらくらするほどの高さだった。海面まで二百メートル……いや三百メートルくらいの高さはありそうだ。

 ゾッとしていたら、不意に声がして思わず声のした方へ顔を向ける。

「やっほー」

「こ、こんち、あ」

 笑顔で手を振るのは垂れ目で黒髪の山田さんだった。

 彼女が角部屋の部屋主だったらしい。

「松井くん、スマホ見た?」

「う、ううん」

「見てみるといいよー」

「あ、ありがと」

 「んー」と吹き抜ける風を気持ちよさそうに受け伸びをする山田さんにドキリとするわけでもなく、強すぎる陽のオーラに陰の者である俺はいたたまれなくなり部屋に引っ込む。


 ええと、スマホを見るんだっけ。

 ふむ。文字が表示されておる。

『ガチャを有効にしよう』

 有効といわれましても。スマートフォンの表示も指示に含まれるのだろうか。懸念がある限り、とっとと実行した方がいい。

 スマートフォンをタップしてみると、実体化と書かれたボタンが出てきたのでスライドしてみる。

『「物知りなイルカ」を有効にしました』 

 ふよふよとスカイブルーに白のイルカが宙に浮いていた。リアルなイルカじゃなくアイコンのようなそんな奴だ。

「何について調べますか?」

「喋ったあああ」

「『喋った』の検索結果はゼロ件です」

「待て待て」

 待て待ての検索結果はと続いた。物知りなイルカは色々教えてくれる攻略本みたいなもんか?

 じーっとイルカを見る。う、うーん。せいぜいヘルプ機能くらいだな、きっと。

「名前を教えて」

「カイ……」

「だあああ。待て。イルカでいい」

 ヤバすぎるだろ。このイルカ。既に色々アウトな気もするが、俺じゃなくてディープダンジョンとやらを準備した何者かだからな、俺じゃないんだぞ。

 さて、試運転は終わり。ディープダンジョンに関することを聞いていくか。

「ディープダンジョンは誰でもクリアできるチャンスはあるのか?」

「できますできます」

「ガチャの『降臨』『神器』『真理』の特徴は?」

「『神器』が憎いです。『降臨』はもっと憎いです」

 それ、答えになってないだろ。聞き返したらちゃんと教えてくれた。

 イルカが憎しみを持っている理由も分かるよ。

 神器のことを語るにはディープダンジョンの武器やら防具やらのアイテム類について理解せねばならない。

 よくある設定だが、アイテムにはレア度がある。レア度は下からコモン、アンコモン、レア、伝説レジェンド神話ミシカルの五段階だ。

 もう想像がついただろうか。神器とは神話級のアイテムが手に入る。神話級のアイテムはガチャ以外の入手経路はない。その性能はまさにチートクラスとのこと。

 具体的にはどんな性能なのか分からないけどね。クラスメイトに聞けばいいじゃないかって? 無理です。死んでしまいます。

 お次はもっと憎い降臨について軽く語っておこう。正直語りたくなくなってきているけど……。

 降臨は凄いぞ。レベルマックスな英雄が自分の代わりに戦ってくれるんだとさ。

 英雄はそれぞれ色んな能力を持っていて、レベルアップやスキル習得では身に着けることができないものも多いらしい。

 約束された無双、それが降臨である。

 最後に残った真理にも触れておこう。ゲームでいうところのシステム的な能力を与えてくれる……が近いかな。

 マップや現在位置を表示したり、モンスターのステータスを見たり、アイテムを鑑定したり、俺の場合はヘルプ機能になる。

 システム的な機能だったらセーブ&ロードだったら神なのに。そんなものはありません、とイルカに即答された。

 神器や降臨に比べて随分具体的に能力を語ってくれたものだよ。真理は他の二つに比べてしょぼい……いや、そんなことはねえ。

 ほら、ヘルプじゃなくて攻略本の能力と考えればどうだ?

 『俺だけ攻略本で異世界を無双する』

 すげえ、俺。

 …………少し寝るか。


 ◇◇◇


「ふああ」

 いつもなら授業中の時間だけに、すぐウトウトして眠ってしまった。

 授業中は眠い。つまり、授業中の時間帯も眠い。こいつは真理だぜ。

 しかし、スマートフォンを見た途端青ざめる。

「寝すぎた」

 すぐにロビーへ向かったらクラスメイトが集まってんじゃないかと思い、少しだけ休むつもりが……夕方どころか夜じゃないかよ。

 気になる時刻は24時。いくら何でもぐっすりし過ぎだよな。ま、まあ。この時間なら誰かに会うこともないだろうさ。

「んじゃま、行くか」

 一人の時は独り言が出る方なのだが、誰かいると全く喋らなくなる。俺の七不思議の一つだぜ。は、ははは。

 その時、ふよふよと浮かぶぬいぐるみのようなイルカが目に入る。

 そうだった。寝ころびながら試そうと思っていたことをやっていないぞ。

 スマートフォンに手に取り、起動したまま終了することも切り換えることもできないディープダンジョンアプリをタップする。

「ビューチェンジ」

 ガチャを実体化の後、ゲームぽいメニューが表示されるようになったのだが、動きながらスマホを見ると事故りそうだし戦いながらだと見ることは不可能だ。

 そこで『ビューチェンジ』と音声認識させれば、スマートフォンの表示から視界に映るように変化する。

 音声認識はともかく、『ビューチェンジ』なんてどこにも説明がないってのが嫌らしい。あれば少し便利程度でないならないでダンジョン攻略に支障はないと思う。

 物知りなイルカを保持する俺だけしか知り得ない情報……なんか全然優越感も特別感もわいてこないのは気のせい、気のせい。

 ほら、なんかVRをやっているようでテンションがあがってくるってば。

 メニューの操作は脳内スイッチか指先で行う。個人的には指先がやり易い。メニューの位置は視界の右上辺りにして、マップウィンドウを左上にするか。

 うっし、こんなもんで。

 ステータスも見れるんだぜ。ステータスはダンジョンを進みながら確認していくことにするか。

 今は表示させることができるのが分かればいいさ。


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