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第2話 拠点の「洋館」

『ディープダンジョンの世界へようこそ』

 最後の一人である俺がガチャを引いたことで表示が最初のものに戻った。

 次の指示は何がくるんだ? 先ほどの鉄の棒事件があったので、戦々恐々と見守る俺である。

 音も立てずに扉が開いた。

『さあ、旅立ちましょう』

 あの扉から外へ行けってことだよな。今度はすぐに動くぞ。

 って、俺のしでかした事件があってか扉口にクラスメートが殺到している。急いでいないのはガチャを真っ先に引いた二人と彼らと会話していた女子生徒二人、それと声をかけて俺を助けてくれた山田さんに椅子から身動きしないでいるオタクな生徒の一人くらいか。

「ま、松井君」

「ど、どうしたんだ? 吉田君」

 オタクな生徒のうちこの吉田君は俺が唯一自分から喋りかけることができる生徒だ。彼は口数が少なく、うんうんと頷いていることが多い。

 ぼっちな俺が言葉に詰まっても気まずい雰囲気にならず、優しく見守ってくれるような人なのだ。

「腰が抜けちゃって」

「肩かすよ」

 彼を驚かせた原因は聞かずとも分かっている。

「松井、俺も手伝うぜ」

「あ、ありがとう、神崎君」

 陽キャオーラが眩し過ぎるぞ。手伝ってくれたのは主人公的グループのうち剣道部の神崎君だった。

 吉田君とゆっくり足並み揃えて扉口に向かっている間に残っていた女子生徒は外へ出ていく。さりげなく俺たちの後ろに回った委員長がイケメン過ぎて惚れそうだ。

 対応が遅れるとまた鉄の棒が突き出て来るかもしれないってのに、凄い勇気だよ。いざという時は俺たちを助けるために後ろについててくれている。


 ◇◇◇


 トンネルを抜けると……ではなく扉をくぐると緑一面の草原だった。

 左手は切り立った崖、右手は海が見える。察するに俺たちが今いる場所は崖から突き出した台地と推測できた。

 海側の淵近くまで行けばハッキリと確認できると思う。

 が、自由行動はまだ避けた方がいい。草原から鉄の棒が突き出てきたらたまらんからね。

 行き先は言われずとも分かる。前方に古びた洋館が見えるからだ。

 天気もよく、真冬とは思えない快適な気温だし、散歩するのも悪くない。

 ひょっとしたらと淡い期待を持っていたけど、確実に日本じゃあないな、ここ。

 真冬が突然春の陽気に変わるってことは有り得ないし。崖にある台地が屋内なわけないので、空調でなんとかすることもできないからね。

「思ったより遠いな……」

 もちろん独り言である。吉田くんは怪我して歩き辛くなっていたわけじゃないからもう一人で歩いているさ。

 そうなると自然と仲の良い者同士になるから、つまり、後は言わずとも分かるよね?

 洋館が思ったより大きく、到着するまで10分くらいは歩いたかな。


 白い壁に薄青色の屋根の洋館は二階建てで円形のテラスがあり、俺が想像するザ・洋館といった感じだった。

 いつの間にか先頭になっていた神崎くんらが大きな扉に近づくと、音も立てずにひとりでに開く。

 何だかホラー映画のシーンのようで背筋がぞわっとした。

 夜になると殺人事件とか幽霊が出たりとかしそうで嫌だなあ。俺の中でこの洋館がゴージャスでお高い憧れから近寄りたくないものになった。

 鬼が出るか蛇が出るか……入りたくないが、止まるわけにはいかないから仕方ねえ。

 中は広いホールになっていた。中央に螺旋階段があり、二階が見える。大きな縦長の窓が横に並び解放感抜群だ。

 窓際には五人掛けくらいのソファーとテーブルが置かれている。ソファーは中央にも円形のものがあり、全員がここでくつろげそうな大きさだった。

 丸テーブルもセットになっているので、ここで作戦会議とかできそう。

「地下にも続いているぞ」

 男子生徒の誰かが叫ぶ。彼の言葉通り螺旋階段は二階だけじゃなく、地下にも続いている。

 予想するでもなく、地下へ続く階段はディープダンジョンとやらに続いているんだろう。

 いや、まだ、俺たちがダンジョンや迷宮を探索するとは決まったわけじゃ……「ディープダンジョンにようこそ」だから望み薄だけどね。

「お、おい」

 次は何だ? 地下へ続く階段を見ていたら円形ソファーのところにクラスメートが集まっている。

 円形テーブルがディスプレイになり、文字が浮かんでいた。

 なるほど、みんなこいつを見に行っていたんだな。

『プレイヤールームに行こう』

 一階は広いホールになっているから、部屋があるとしたら二階を探索すればよいのかも?

 黒板ディスプレイに代わる指示だよな、これ。となると、とっとと移動しなきゃ鉄の棒が突き出してくる可能性が高い。

 プレイヤールームとやらをとっとと見つけて休むとしよう。一人部屋であってくれと願いながら螺旋階段を登る。


 二階はホテルのように左右に扉が並んでいた。俺の部屋、俺の部屋は……俺の名前が書いているわけじゃないし、どこが俺の部屋なのか分からんな。

「開いた!」

 どうやら自分に宛がわれた部屋の扉に手を触れたら開くようだ。

 幸い、一人一部屋なようでホッと胸を撫でおろす。他人と同じ部屋なんてストレスでどうにかなってしまいそうだもの。

 俺の部屋は角部屋の一つ手前だった。一人部屋なら文句は言わねえ。

 扉にはドアノブもへこみもなく、自動ドアのようにスッと右に開く。自分の手が鍵になっているので、セキュリティも抜群だね。

 盗まれるものはないけど、誰も入って来れないという安心感が俺を満足させてくれる。

「広い」

 洋館の一室だからアンティークな感じかと思いきや真逆だったので驚いた。床は大理石な見た目であるが、柔らかく沈み込むほどだ。

 壁から突き出たカウンター、廊下の左手には巨大なディスプレイ。反対側は手を触れると開き、洗濯機らしきものと浴室があった。

 ディスプレイは自販機のようでメニューを選んで注文できるようになっている。使い方の説明もボタンをタップすると見られるみたいだ。

 廊下から部屋を仕切る扉はなく、部屋へと進む。部屋は正方形という珍しい作りで、ヘッド以外は何も無かった。

 奥は天井から床までガラスになっており、テラスが見える。

 せっかくのテラスなのに外へ出ることはできないのかあ。

「うお」

 しかし、ガラスに触れると俺が通れるくらいに開き、テラスへ続く道ができた。開いた部分のガラスは重なるでもなく、消滅している。

 一体どんな仕組みなんだこれ。もう一度手を触れたら元のガラスに戻ったし。


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