二匹のうち先に飛び掛かった光龍は顎を大きく開きグリムゲルデの頭部を食い千切ろうとする。
正眼に剣を構えるグリムゲルデ。
飛び掛かった光龍はその剣に正面からぶつかったが、勢いのまま尾まで真っ二つになり光の粒子となり消えた。
「……これだけか?」
「馬鹿言ってんじゃないヨ!」
二匹目の光龍と並走してグリムゲルデに迫る
「光龍拳! とくと味わうがいいネ!」
それは気で具現化した龍を纏い身体を強化し、それを叩き込む単純明快な技。
グリムゲルデは剣で腕ごと
勢いを維持したまま放たれた
その瞬間、グリムゲルデの素顔が初めて死神たちに晒された。
彼女はそれを意に介さずに娘々の腕を左手で掴む。ギチギチと音を立てる娘々の腕。
「
確かにグリムゲルデの体内に異物が入り込んだような感覚があった。
「それで? 光龍拳はいつ効くんだ?」
「道士の術をお前如きに説明してもわからないネ」
「
彼女の左足へとうねるように飛んできた三匹の光龍が集中すると、
そのまま
同時に
未知数の攻撃を回避するためにグリムゲルデはようやく
痛みに耐えているのではない。
身に着けた呼吸法で気を練り折れた腕を回復させているのだ。即時回復ではないが、着実に受けた傷は癒える。
グリムゲルデは
直属部隊と相対していた
そして直属の仮面兵は尖った権能こそないが忠誠心に厚く、権能だけに頼り切らない戦い慣れした死神たちである。
しかし仮面兵が
最初から結界を張ってはグリムゲルデに警戒されると踏んだ
(流石に戦い慣れているな)
ヴァルキリーに匹敵するほどかは判断がつかないが、相当の使い手であるとグリムゲルデは認識を改める。護符の一撃も警戒すべき攻撃だと考えた。
「護符、在庫十分ネ。お前死ぬヨ」
「やってみろ」
グリムゲルデは
「アマガセ、下手に動くなよ。あのデカブツは監視役でチャイナの方はグリムゲルデを仕留める気だ」
「ロスヴァイセが死神を操れるように、グリムゲルデにも対死神用の権能があるはずですよね。それなら死神側が圧倒的に分が悪いと思うんですけど」
木々に隠れ小声でやり取りする椿と一矢。
「忘れたのか? その死神の力を捨てたんだよ、ラグナロクは。だからその権能は通用しない」
「ならあのチャイナ服は元の力だけで……」
「そういうことだ」
グリムゲルデと互角に渡り合う
(もしグリムゲルデが死んだらヴァルキリーたちの死神統治はどうなる?)
ジークルーネは融通が利かず、ロスヴァイセは元々上に立つような器ではない。
形式には従うが、状況に合わせた柔軟な判断も取れるグリムゲルデがあの姉妹のバランスを取っていると彼女は考えていた。
だが本陣はカタストロフィの追跡に人員が割かれ手薄であり、グリムゲルデの力で呼び戻そうにも必ず隙ができる。
椿自身も娘々に対抗しうる手段を持たない。
(ではあのデカブツの注意を引くか……? 無謀ではあるが……)
彼に叩き潰された者の中には名の知れた死神もいた。
使い勝手の悪い権能持ちの椿では、手持ちの装備を出し惜しみなく投じなければ戦いにすらならないだろう。
(仮にやるとしても、こいつが邪魔だな……)
天ケ瀬一矢。この新米死神が大男との戦いについてこれるとは椿には到底思えなかった。
「アマガセ、お前はとりあえず逃げろ……おい、何してる」
「この子、ロスヴァイセの使い魔ですよね」
一矢の手に乗っているのは、グレーの毛並みをした猫の使い魔。品種で言うとロシアンブルーだろうか。
「すぐはじめるからきをつけろ」
それだけ言うと使い魔はそそくさと手から飛び降り、木から木へと飛び移っていった。何かを悟った椿が唐突に立ち上がり叫ぶ。
「ロスヴァイセが来る! 退避しろ!」
それまで
グリムゲルデ直属の仮面兵たちがお互いを守り合うように防壁を張り合う。
突然だった。上空にゲートが開き数多の死神が降ってきたのだ。
彼らはべしゃりと地面に叩きつけられると助けを求めるように手を伸ばす。
そして落下してきた死神たちが次々と爆発する。
死神として持っていた霊力を暴走させられたのだ。
さらに彼らが本来持っていた力を燃料にすることで、元の
「あはっ! どーん!」
転移してきたロスヴァイセが上空からゆっくりと降りてくる。彼女に味方を武器として消費した罪の意識はなかった。
「……おい。続けろよ」
ゲート越しに配下の死神に命令するロスヴァイセ。
第二波の死神爆弾が投下され、次々と炸裂する。
「時間稼ぎしてたカ? ワタシ舐められてるネ」
「そうか、気付かなかったか」
「
丸まって次の爆撃に備えていた
彼に爆弾は有効打ではなかったようだ。
二人はすぐさま転移し、次々と死神が爆発する地獄から逃れた。
グリムゲルデは確かに追跡部隊を派遣したが、取った策はそれだけではなかった。
ロスヴァイセから借り受けた使い魔の一匹に「絶好のタイミングで攻撃をしかけるよう」に要請したのだ。
使い魔同士は遠距離にいても意思疎通が可能だった。その性質を利用して、使い魔に戦況を監視させていたのだ。
「やり過ぎだロスヴァイセ。ヴァルキリーが二騎いるだけでも奴らは撤退しただろう」
「あの生意気な逆賊にヴァルキリー・ロスヴァイセの恐ろしさを叩き込まなきゃ意味ないじゃない。お姉さま」
「……まあいい。我々はカタストロフィを追う。お前の方はどうだ」
ロスヴァイセは嬉しそうに笑うと、二人の戦場を繋ぐゲートを拡げて彼女の側を見せた。
そこにはランキング二位の「チーム・マキシマム」構成員を蹂躙する死神たちの姿があった。