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第19話 死神戦線異常あり

 白い仮面のヴァルキリー、グリムゲルデの率いる部隊の本営にて。


 魔術師の死神が空間に投影した映像を見て息を呑む一矢。


 強力な異能者とはいえども人間の身で死神達に立ち向かう姿は果敢に思えた。


 しかし何が彼らカタストロフィの闘志をそこまで掻き立てるのか一矢は疑問に感じる。


 映像はカタストロフィが二人の死神から白いコートの死神に助けられるところまでで、投影は強制的に遮断された。




 ヴァルキリーたちは公権力に介入する力を持っているようで、彼らカタストロフィを『おとぎ話ナーサリー・テール』が待機した駐車場に誘い込むように検問を敷かせた。


 まずカタストロフィを標的にしたのは第一位のチームを脱落させることで異能者たちに死神たちの本気を見せつける必要があるからだ。


 人払いの魔術をかけた駐車場で一方的にカタストロフィは蹂躙されるはずだった。


 ラグナロクの増援がやってくるまでは。


 彼らと『おとぎ話』はすぐさま交戦を開始した。そこには白いコートをはためかせ戦う“英雄”レックスの姿もあり、死神たちを驚かせた。


 そしてラグナロク側の増援を確認したグリムゲルデはすぐさま二人の死神を派遣する。


 つまりは魔眼の死神 将校オフィツィアと“首切り”ライヒハートを。


 彼女はジークルーネの「敵を数で圧倒しない」という宣言を忠実に守っている。


 的確で迅速な対応でカタストロフィを始末できるはずだったが、レッドフードの敗北によりそれが崩れた。


 レックスという男が一人状況を作り変えた。


 今やグリムゲルデは唇を噛みしめながら、作戦に参加した死神たちの前に立ち弁明を待っている。


「千年級のレッドフード嬢があれだけ苦戦したのです。我らのような若輩者が“英雄”レックスに勝つ術などないでしょう」


  将校オフィツィアが発言した。彼は精々ここ数十年の死神である。共にカタストロフィを取り逃がしたライヒハートは黙っている。


「……あの裏切り者を英雄などと呼ぶな。下がっていい」


「これは大変失礼いたしました」


 二人の死神が一礼し、グリムゲルデの前から退出する。


「『おとぎ話ナーサリー・テール』。申し開きをせよ」


「うえ……あの白い人、強い……です」


 レッドフードはそれだけ言うとその場で縮こまってしまう。


「わたくしがお相手した道士は千年級かそれ以上と見受けました。それをわたくしは足止めしていたのです。いつまでも格下と遊んでいてレッドフードと共にレックスを挟撃しなかったサンドリヨンのミスでは?」


 透き通るような白い肌をした黒髪の美女、スノーホワイトはサンドリヨンを糾弾した。


 当の本人は我関せずといった態度で前髪をいじっている。


「だってあの殿方、とっても弱いのに必死になってわたしを突き殺そうとするのよ! 滑稽ですぐ殺すのがもったいなかったんだもの!」


 赤いマントの死神を翻弄するように立ち回っていたサンドリヨン。彼女は手を抜いて戦っていたことを隠そうともしない。


「貴様は作戦を失敗させた自覚があるのか?」


「お言葉ですが閣下。その女に何を言っても無意味かと。わたくしも常々振り回されておりますので」


「そのようだな。次に同じようなことがあればロスヴァイセ軍行きだと思え。あそこは姉上の軍以上に容赦がない」


 死神たちを軍として編成する際にロスヴァイセが真っ先に「いらない死神が欲しい」と声を上げた。使い潰すつもりなのだ。


 続いてジークルーネが精鋭揃いの部隊を編成し、残りをグリムゲルデが引き受けた。


 『おとぎ話ナーサリー・テール』は強力な死神の集まりではあるが、チームワークが壊滅的だった。


 ヴァルキリーへの忠誠心にも欠ける。


 ヘンゼルとグレーテルがいつの間にか姿を消しているのが何よりの証拠だ。


 それ故にジークルーネにも指名されず、グリムゲルデが手を焼くはめになっている。


( “厄災”との戦いを生き延びた選ばれし死神レックス。何故貴様が我らに手向かう……)


  仮面で隠されたその目つきは険しかった。




「お前、ロスヴァイセ軍に編成されなくてよかったな」


 山の中のグリムゲルデ軍本営で椿が一矢に話しかける。二人は同じ陣営に配属されていた。


「ロスヴァイセ軍だとどんなよくないことが起こるんです?」


「ヴァルキリーにとって利用価値のない死神が優先的にロスヴァイセの下に回される。どういうわけか、権能なしのお前にも利用価値があるらしいぞ」


「どうして質問に答えてくれないんです?」


 わざとらしく話を逸らす椿に問いかける一矢。


「死ぬよりひどい目に合う」


 彼女は真顔で言い放つと木を背もたれにして座り込んだ。


「やつは一山の死神の命を、使い魔の駄目猫一匹より下に見てる。可能なら関わるべきじゃない」


「つまりロスヴァイセの下で戦ったことがあるんですね」


「昔な」


 それだけ言うと、彼女は持ち込んだ装備の点検を始めた。


 一矢はかつて椿がポコちゃんと名乗る猫の使い魔を怒鳴りつけていたことを思い出す。


 そして椿にはラグナロク狩りで武功を挙げるつもりはなかった。


 どんな死神が参加しているかわからない以上、敵を理解するだけ強くなる性質を持つ彼女の権能と状況がかみ合っていないのだ。


 二人の間に沈黙が訪れると、突然地面が揺れグリムゲルデ軍の本営に轟音が響き渡った。


(賊に攻め込まれた。警備の担当者は自らの失態を挽回せよ。残りの者は持ち場を離れず警戒を維持せよ)


 直接脳裏に響くグリムゲルデの声。


 だが一矢の予想より早く、木々をなぎ倒しながら敵の死神が彼らのいる中央付近に殴り込んできた。


 敵は死人のような肌色をしたつぎはぎだらけの巨躯の男と、それに肩車された赤いチャイナ服の女の二人だけ。先ほどの映像に出てきた死神だ。


咯咯くすくす。レックスに気を取られて追っ手差し向けたカ? でもどうせ返り討ちヨ。お前らならワタシと腐乱死フランシスで十分ネ」


 チャイナ服の女が肩から飛び降り、腐乱死フランシスと呼ばれた男が唸り声を上げた。


「道士・娘々ニャンニャン。暴れるヨ」


 彼女を中心として地面が光り、五匹の輝く光龍が召喚される。龍が周囲の死神に食らいつく。


 腐乱死フランシスは立ち向かう死神を次々と殴り潰す。


 ラグナロクの奇襲に狼狽える死神たち。


 しかし待ち構えていたかのようにグリムゲルデと直属の死神が現れた。


「そちらから死にに来るとは殊勝なことだ。せめて楽に死なせてやろう」


「やってみろヨ」


 中指を立てる娘々ニャンニャン。剣を抜くグリムゲルデ。


 ヴァルキリーとラグナロクが直接ぶつかり合うのはこれが初めてのことだった。

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