「父上に、なるべく内々に陛下にお知らせしてもらって、公爵家(うち)に来てもらうはずが……いやでも王宮と比べても……」
エラいことになった。異世界転移者ときたら、この後とりあえず冒険者ギルドに登録して薬草集めだと思っていたが、全てすっ飛ばして王宮招集。
まだ貴族ルールも分からないのに、王族に会えとはなかなかの修羅モード。
肩の上の猫は、つまらなさそうに欠伸をした。
「とりあえず食べられそうなものは食べてしまって、あとはベイツに持って帰って貰おう。イザーク、まだ食べられるかい?」
「いえ……食欲が止まりました」
「陛下たちを待たせても構わないんだよ、せめてスープだけでも食べ切りなさい。この後持たないよ」
国王を待たせていいのだろうか。
こっちの世界の常識は全てハイドロイドに頼るしかない今、断言されるとそうですか……としか言えないが。
しかも、ハイドロイドに「はい、あーんして」とスプーンを口元にサーブされると、イザークも繊細なお年頃である。1口目は食べたが、自分でスプーンを掴み、慌てて残りのラタトゥイユを口に運ぶ。
「いいかい、イザーク。魔王陛下たちに会ったら衝撃を受けるかもしれない……恐怖を感じたら、私に頼ってくれ」
「は、はい」
しれっと魔王という言葉がハイドロイドからでてきた。
巨大で角の生えた大男が高笑いしているイメージを想像しながらスープを飲み込んでいると、ハイドロイドがどの国も王になるのは魔王一族の中から選ばれた魔王で、長命で治世が安定するからだと教えてくれた。
なんとかラタトゥイユを完食したイザークは、ベイツが手配してくれた魔馬の馬車に乗せられる。ここで残った食べ物と一緒にベイツは先に公爵家に戻るらしい。
残った護衛騎士――マホーンというのだと紹介された――が御者台にあがり、王宮へ移動開始だ。
「この格好で大丈夫でしょうか……」
「服も情報の一つだからね。この世界は異世界の情報や文化を活用してるんだ」
ジーパンとパーカー。今のイザークは肩の上に猫を乗せたざ・庶民の格好だ。
馬車の窓から、すぐに飛び去る景色を見てもあまりハイドロイドのような軍服は見かけない。そして馬車も少ない、現代日本の感覚の車を見るような確率では出くわさない。
「人どおり?が少ないですね」
「基本的に移動は魔法だからね。毎日行くような場所は移動場所として登録しているから、普段行かない場所を歩いてる者や移動魔法が使えない者が多いんだ」
人というか、鬼どうりというのもなんだか変だ。
だが、この世界はやはり魔法が主流らしい。
「僕にも使えるんでしょうか……?」
「今は魔素酔いも多いけども、酸素にも魔素は含まれているからね。毎日過ごすうちに自然と魔力が体に馴染むはずだ」
「じゃあ、そのうちに?」
「恐らく。転移者で魔法が使えなかったという話は聞いたことがないし、むしろ新しい魔法を作り出すのは転移者が多いから、フエギスでは使徒と呼ばれるはずだよ」
(俺が初の使えない一号になりませんように……)
馬車が速度を落とし、滑らかに止まった。
マホーンが降りる音がして、馬車の扉が開く。車高の高い馬車からハイドロイドが身軽に飛び降り、イザークに手を伸ばした。
「着いたよ、覚悟はいいかい?」
気持ちはまるで固まってなかったが、ハイドロイドの手に掴まって降りたイザークは、城を見上げた。
ヴィクトリア調の王宮は、過去のイギリス転移者によって建てられたのだろうか。
「頑張ります!」
「みゃっ!」
精一杯のイザークと猫の返答に、ハイドロイドは静かに笑んだ。