(……とってもえらいんです?)
苗字に引っかかったが、異世界転移者という言葉の方が衝撃だった。
「ここは異世界なんですか?」
「私からしたら、君が異世界人なんだけれどね」
「言葉がわかる――」
「うん、その辺も混みで説明しよう。ベイツ、どこか個室のある店を手配してくれ」
茶髪のスーツ男性がスっと足早に立ち去って、道の反対側の店に入っていく。ハイドロイドと名乗った彼に返事をしていたのだが、やはりその言葉は分からなかった。
どうやら、現時点でイザークと会話が通じるのはハイドロイドだけらしい。
イザークは抱えたままの水筒を女性に返そうとしたが、野次馬と共に腰を低くしている。ふらつきながら渡そうとすると、察したハイドロイドが代わりに返してくれた。
ペコペコと頭を下げた女性や、その周りの態度でどうやらハイドロイドはかなり身分が高そうだ。どういう能力なのか分からないが、紺色の髪の男性はハイドロイドなら言葉が分かると知って走って呼んできてくれたのだろう。
腰を低くする人の中には、猫耳が生えた女性もいた。ピクピクと動く耳を見るに、遊園地のカチューシャでは無い。
ハイドロイドは手提げカバンから封筒と紙を取り出して、カバンを下にしてなにやら文字を書いている。封筒に入れた手紙は、ハイドロイドが手を翳すとちらりと光って空中で消えた。
――魔法?
異世界もののド定番の魔法がある世界。勇者とか魔王とか、やはり居たりするのだろうか。
「あの、お礼に……」
水のお礼になるかどうか分からないが、家出グッズの中からパンを渡そうとすると、ハイドロイドに遮られた。
「礼金はこちらが弾むから、異世界のものは出さないでくれないか。あとあと専門機関が検証をするから必要なんだ」
何を検証するのかは分からないが、イザークだって元の世界に異世界人が現れれば持ってるものに興味は湧く。
転移者に慣れてるようだし、まだ訳が分からないイザークが勝手にあれこれするのはよした方が良さそうだ。
「すみません、トッティモ……」
「ハイドロイドでいいよ、この後私の家族にも会うことになるだろうし。謝ることは無い」
「ハイドロイドさん……は貴族なんですか?」
「あぁそうか、徽章を見ても今の君には分からないんだったね、公爵家の者だよ」
――公爵?!!って国王のすぐ下じゃないのか?!
ラノベの知識が正しければ、貴族の中でもかなりの高位だ。こちらの世界では、軍服についてる飾りで身分が分かるらしいがイザークが知るわけもない。
「すみませんでした、ハイドロイド様!」
「分からない事に謝る必要はないよ。こちらこそ、これからあれこれと異世界の話を聞くことになる。付き合って貰わないといけないから、こちらこそよろしく頼むよ、イザーク」
茶髪スーツの男が戻ってきた。
ハイドロイドに何か囁くと、イザークにも手招きをする。言われていた個室の準備ができたのか。
「ベイツ、私たちは先にいくから救護したもの達に幾らか謝礼を」
ハイドロイドの小声は甘く、くすぐったい。言われたベイツは何事かを返した。
「たしかに相場は分からないが――十万ドルエン位で良いのではないかな」
「みゃーん」
イザークを助けてくれて、ハイドロイドたちに知らせた人たちには褒美がでるようだ。ドルエンとは不思議な単位だが。
ハイドロイドの前で店へ先行するのは、騎士服のようなイカつい男だ。ハイドロイドが公爵家の人間なら、護衛がいて当たり前なのかもしれない。
ハイドロイドに手を引かれて――父と比べても高い。父は185センチはあったのに――スレンダーでも体がキリリと引き締まっていた。
――やっぱ魔法と剣なのかな。
キョロキョロしてる間に、道を渡りきった。