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俺が勇者で、私が魔王で、戦わないといけないみたいです。
俺が勇者で、私が魔王で、戦わないといけないみたいです。
浜中良寛
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年03月28日
公開日
5,159字
連載中
 仕事中の事故で異世界に転生した主人公「藤野光一」はいずれ勇者になる運命で、登校中の事故で異世界に転生した「雪野皐月」は魔王になる運命だった。マイペースを崩すつもりの無い2人は戦うのか。そもそも、2人は出会うのか。

第1話 社畜は仕事でやらかした

 どんよりと曇った空の下、藤野光一は自由落下の最中だった。

 自然破壊は限界を超え、人々は「ドーム」と呼ばれる巨大施設の中での生活を余儀なくされた。硫酸の如き豪雨を撒き散らす嵐が止むのは1、2ヶ月程度。

 この短い期間にドームの耐酸外壁の張り替えを行うのが藤野光一の仕事だった。張り替えが終わるまでは休日はおろか休憩もまともに取れない。張り替えが終わったとしても、翌年の張り替えの為の耐酸外壁の製造に従事することになる。


「あー……ボーナスで部屋のリフォームしたかったのになー……」


 自由落下のゆったりと感じる体感時間の中、頭に浮かんだ後悔を口にして、藤野光一は人生が終わった。享年35歳、そのまま彼女いない歴の寂しい人生だった。



「……なんだ、ここ……?」


 ふと気付いてみれば、どこぞの応接間のような空間に設置されたソファに座っていた。作業着のままでぼーっとしていたようだ。白昼夢でも見ていたのか?


「あ、気付きました?」


 仕立ての良いスーツに身を包んだ男性が、如何にも仕事できますみたいな笑顔を浮かべて応接間(?)に入ってきた。光一とは違い、髪型にまで気を使っているし、光一とは違い、女性に苦労したことは無いのだろう。これは、光一の邪推である。


「ここがどこだか分かりますか?」

「いや……皆目見当も……」

「では、再度説明しますね」


 一度は説明していたらしい。


「ここは転生サポートセンターです。スムーズに転生する為のサポートを始め、貴方様に見合ったスキルの種子の提供を行っております」

「転生? 異世界にでも行くのか?」

「簡単に言えばそうなります」


 職場の後輩がハマっていたな、異世界転生ってやつ。光一がそんなことを思い出していたら、ふと気になる言葉に気付く。


「スキルの種子? 何それ?」

「そうですね、簡単に言えば、潜在能力とでも言いますか。転生先で目覚めうる能力、あるいは低い難易度で身に付く能力といったものです」

「へぇ~、そんな便利なものがあるだね」

「はい。ただし、お好きに選べるものではなく、貴方様の適性に見合ったものが自動的に選出されます。この点を含めると『運命』にも近しいですね。転生後の世界ではスキルによって生活水準が決まりますので」

「え、そうなの? なんか、怖いな」


 転生してまで社畜だったらどうしよう。そんな不安感に胸が押し潰されそうになる。

 しかし、スーツの男は光一の様子を気にすることなく、


「では、適性検査をしますので、私についてきて頂けますか?」

「え、もう?」

「はい。今でも後でも適性検査の結果に影響はありませんし、今なら検査器具も空いてますから」

「わ、分かりました……」


 スーツの男について部屋を出ると、一面真っ白の空間が広がっていた。数時間留まると発狂しそうだ。その空間を進むと、CTスキャンのような機械が置いてあった。見た目はCTスキャンそのものだ。

 スーツの男はその機械のタッチパネルを操作すると、ベッドが腰をかけれるくらいの高さにまで下がってくる。スーツの男はそこに座るように誘導する。

 光一は異様な雰囲気を感じながらもベッドに腰掛け、そのまま頭を機械側になるように仰向けに寝転がる。


「では、始めます」


 ピッピッピと軽快な電子音の後、ベッドが上がり、ゆっくりと機械の中へ吸い込まれていった。

 中に入ると細くて赤い光線が、頭の先から爪先まで走査する。

 これで、何を検査して、何が分かるのだろうか。

 検査結果に期待と不安を抱いている光一の耳に、スーツの男の声が入ってきた。


「では転生します。頑張ってください」

「え、結果は?」

「転生後の楽しみですね。知ってても知らなくても、結果は変わりませんから。……ふふ……」

「おい笑ったな? 何に転生すんの? 人間?」

「申し訳ありませんが、次の転生サポートがありますので、私はここまでとなります」

「ちょっと!?」

「では、貴方様の転生をサポートさせてもらった私はカミ」


 スーツの男が(今更になって)自己紹介をしようとしたところで、光一の意識は遠のいていった。




「……はっ!?」


 ガチャンっと食器が音を立てる。ホカホカと湯気を立てていたスープが少し溢れて手にかかる。


「あっつ!」


 その熱さに驚いて声を上げると、食卓に同席している女性が慌てて寄ってきて、手にかかったスープを拭き取る。


「もう、どうしたの? 慌てなくていいのに」


 微笑みを浮かべながらも軽く注意してくる。

 その女性の顔を凝視し、母親であるという記憶が浮かび上がってくる。


「あ、ありがとう……お母さん」

「ん? どうしたの、いつもは『ママ』って呼ぶのに」

「え!?」

「まあ、来月には学園に通うんだし、ママ呼びは卒業かしら? 少し寂しいかな?」

「え、あー、うん」


 曖昧に返事しつつ、自分の体をペタペタ触る。どう見ても体が小さい。と言うより、幼い? これが『転生』ってやつか?


「ほら、光一。食事が終わったなら、遊んでらっしゃい。学園に通うようになったら勉強が大変になって、遊べる時間が減るわよ」

「はー……ぃ……。……学園?」

「もう、何言ってるの。今年で6つになるんだから、学園の1年生でしょう?」

「6つ……6歳!? 学園!?」

「? 何を驚いてるの。昨日も『楽しみ』って大喜びで騒いでいたじゃない」


 訝しむ母親の言葉そっちのけで、仄かに頭に浮かぶ記憶を頼りに自室に駆け込む。勉強用として買ってもらった(らしい)机の上の鏡を覗き込む。

 幼い顔立ちの男の子がいる。銀色の髪に、赤色の瞳が特徴で、転生前の純正日本人の特徴は欠片ほどにもない。なんなら、中性的な顔立ちだ。


「なのに、名前は『光一』なのか……」


 転生し、6歳になる年に転生前の記憶を取り戻した光一の新しい人生が始まった。

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