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第54話 決壊

トカゲ頭のメルムは興味深そうにシロを見る。


「魔王の肉体でも作ろうとしてたのかねぇ…ところでヒロキよぉ、これからどうする?」


「ん?」


「いや、とりあえずの目標は達成したわけじゃねぇか。次はどうすんだ?」


メルムが俺に問いかける。元の世界に戻るためにも天界に行って神に会いたいところだな。冥王とは連絡取れないし。

魔神との戦いがどうなっているのかも気になるところだ。


「次は…まぁ天界じゃないか?」


「天界か!そうだな…おいミッセル!天界に行くにゃどうすりゃ良い!」


「天界のぅ…天界への塔も魔神によって破壊されたようじゃし……まぁ1つだけあるぞい」


「なんだ?勿体ぶらず教えろよ」


気になる様子のメルムに、ミッセルは髭を撫でながら、くつくつと喉を鳴らしてから口を開いた。


「儂らの種族を忘れたか?若造。天界への穴を無理矢理開ければ良い。

これだけの数の同族がいるしな」


「あっははは!それ神たちと戦争するときのやつでしょ!」


黒羽のリベイラがケラケラと笑う。


「そうじゃよ。いつもなら儂らが集まる前に邪魔されるが、今は奴らも非常事態。邪魔されることもあるまい」


「昔先輩に教えてもらった気がするが、覚えてねーな。どうやるんだったか?」


「儂ら悪魔の魔力を一箇所に集めるんじゃよ。ただひたすらにな。

1人だけだと果てしない時間がかかるが、この数だったらさして時間もかかるまいて」


俺は周囲を見渡した。数百の悪魔たちがこの場に集まっている。


「それじゃあ、空中に集めるか?」


「そうじゃな。皆の者!四方八方に散らばって魔力を一箇所に集めるぞ!天界の神共を驚かせてやろうではないか!」

「ギャハハハ!久々だなぁ!」

「あいつらの情けない面、見に行ってやろう」

「こんな大がかりなの久しぶりねぇ!」


まずミッセルが両手を掲げて、真上に魔力を放出して空中に魔力を集めだした。

他の悪魔たちも飛び上がったりして、その周囲に集まり一斉に魔力を放出し始めた。俺も魔力を放出していく。

空に渦巻く膨大な魔力が、まるで嵐の目のように黒紫の光を帯びて収束していく。大気が震え、地面が軋むほどの圧力が生まれていた。

やがて、集まり凝縮された魔力は黒紫の太陽のようになっていた。


「こんなもんで良いじゃろ!皆の者!!これを全員で操り、上空に放てぃ!!」

「おう!!」

「行くぞぉぉ!!」

「ヒャッホー!!」


悪魔たちの咆哮とともに、黒紫の太陽がさらに輝きを増し、まるで生き物のように脈動し始めた。

圧倒的なエネルギーの塊が、今にも暴発しそうなほどの密度を持ち、空間が歪む。


「今じゃ!!」


ミッセルの合図とともに、悪魔たちが一斉に腕を突き上げる。

その瞬間、黒紫の太陽が唸りを上げながら一気に上空へと放たれた。轟音とともに大気が引き裂かれ、世界が震えるかのような衝撃波が辺りに広がる。


「おぉ!?割れたぞ!!」


メルムの叫びと同時に、空の一点が眩い光を放ちながら裂けていく。まるでガラスが砕けるように。

そしてそこには、黄金に輝く大きな穴…天界への道が開かれていた。


「うぉー!!成功じゃ!」

「これで天界に行けるぜ!!」


興奮した悪魔たちが歓声を上げる。亀裂からは黄金の光がカーテンのように漏れ出ていた。


「それじゃ、行くか」


俺は誰よりも先には跳び上がり、翼を羽ばたかせて天界へと入り込んだ。







《冥王視点》

玉座でくつろぎながら、空間に亀裂が入る冥界を眺める。

冥界に流れる魂の過剰な流入は収まったが…


「間に合わなかったようだな」


このままだと冥界の魔素が放出されて甚大な被害が出る。そして、あやつらも解放される。前にやってきたあの馬鹿者も解放されてしまうだろう。

冥界の魔素を操り、新しく繋がった世界へ繋げる。そしてあちらで最初に被害を受けるであろう地の者へ神託を送る。


『新しく生まれ変わった者達よ。我は冥王だ。

これからそちらにある冥界の入口が決壊して冥界の魔素が溢れ出し、アンデッド,そして英傑の亡霊が攻めてくるだろう。

出来る限りの対処をするが良い』


神託を送ると、冥界の一箇所が完全にあちらの世界と繋がった。決壊したようだな。

冥界の魔素と魂、そして亡霊たちが溢れ出る。


「さて、どれほど持つか…」







《ゼノデウス視点》


『新しく生まれ変わった者達よ。我は冥王だ。

これからそちらにある冥界の入口が決壊して冥界の魔素が溢れ出し、アンデッド,そして英傑の亡霊が攻めてくるだろう。

出来る限りの対処をするが良い』


フロントでくつろいでいた私は突如として聞こえてきた冥王の神託に立ち上がる。

そしてハルカの元へ転移した。


「ゼノデウスさん!?いや、それよりもさっきのは…」


「良いか、ハルカ。時間がないから一度しか言わん。これから私はノクスジーナの元へ行って今の冥王の神託を伝えてくる。

そして私は冥界による魔素の対処をすることになる。その間、私は動けん。

アンデッドと英傑の亡霊の対処はお前たちと八咫烏、ケルサス竜帝国の者達がやることになるだろう。頼んだぞ」


「…! 分かりました!!」


強く頷いたハルカの肩を軽く叩き、私はノクスジーナが住まう宮殿へと転移した。

竜の姿のノクスジーナが急に現れた私の姿に驚く。


「なっ!貴様…いや、何かあったか」


「冥王からの神託があった。決壊するらしい。

私は魔素の対処に移る。至急あちらに人を送ってくれ」


「なるほど。分かった、我も向かおう」


「助かる」


それを聞いた私はすぐに拠点のビルの屋上へと転移した。

遥か遠くの空には広範囲に黒いモヤ、冥界の魔素が広がっている。大して時間もかからずこちらに到達するだろう。

私は黄金の大剣、神剣クラルスを持つ。


「…ククッ、何故創造神は神剣を私に持たせたのかと思っていたが…こういうことか。

まったく、どこまで見通しているんだか」


私は神剣クラルスに魔力を込めていく。すると神剣クラルスから光の粒子が大量に溢れ出し、空を覆っていく。

そして冥界の魔素へと向かっていった。

この神剣クラルスの能力は、浄化の光を大量に生み出す能力だ。浄化されれば毒液はただの水となり、呪いはただの魔力となる。

冥界の魔素は通常の魔素となるだろう。しばらくはこれで守れるだろうが…


「2時間…いや、3時間は行けるか?」


そんなことを呟きながら、魔力を込めて光の粒子を生み出し続けた。


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