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第53話 怨霊

《遠藤ハルカ視点》


「ふぅ、これで終わりっと」


「ここのモンスターも余裕になってきたわね」


私は最後のオークが討伐されたのを見て一息つく。

他の仲間たちは周囲の警戒をしながらドロップ品の回収をしていく。


「ヒロキ様から貰ったスキルの書がやっぱりでかいわ」


「戦闘係の仲間たち全員に配れたからね」


「手数が増えるのはありがたいですねぇ」


サクラ、カレンと話しながらドロップ品を拾っていく。

するとマナミが若干暗い表情をしながら喋り出す。


「…ヒロキ様が行ってから一週間だな」


「ゼノデウスさんは、そのまま下界に行ってるんじゃないかって言ってましたね」


「下界って異世界のことでしたよね?

まぁ、ヒロキ様のことだからどこに行ってもなんとかしちゃうんじゃないですかぁ?」


サクラが肩をすくめながら笑う。確かにヒロキ様ならどこだろうと、すぐに順応してしまう気がする。


「そうね。でも、やっぱり心配よ」


私はドロップ品を整理しながら呟く。


「私たちの知らない場所で、何が起こってるか分からないし…」


「そうねぇ…」


カレンも同意するように頷いた。彼女は普段冷静だけど、ヒロキ様がいないことに対しては不安を隠せないようだった。


「でも、うちらはうちらのやるべきことをするしかないよな」


マナミがそう言って、ぐっと拳を握る。


「ヒロキ様が帰ってきたときに、何もかも滅茶苦茶になってたら申し訳が立たないし」


「そうですね。情けないとこは見せられないです」


「そうです!そして帰ってきたら目一杯褒めてもらって可愛がってもらいましょう!」


サクラがそう言いながら拳を掲げる。


「それは……まぁ、悪くないかもね」


私は少し照れながらもサクラの言葉に頷いた。ヒロキ様に褒めてもらうのは嬉しいし、何より頑張った甲斐があると感じられる。


「休憩もほどほどにして次の狩場に向かいましょー!」


サクラが意気揚々と立ち上がる。マナミやカレンもそれに続き、私も気持ちを切り替えた。


(ヒロキ様、どうかご無事で……)


心の中でそう願いながら、私は仲間たちと共に次の狩場へと向かった。







《佐藤ヒロキ視点》

悪魔達を率いて人々を救い続けて一週間が経った。

解放された悪魔達は確かに強く、他の者たちを開放するする際も活躍していた。洗脳されている同族達を見てゲラゲラ笑いながら倒していたが。

様々な町を休みなく巡り続け、洗脳が解けた悪魔達を仲間に入れ続けた。


ただフードを被る者たちの目的は未だに分からない。魔神の配下かとも思ったが、悪魔達は「魔神はここまで回りくどいことするほど頭が良くない」という擁護だか分からないことを言っていた。

そして、俺達は最後の人間集めが行われている町がある教国へと到達していた。

そこはフードを被る者達の数が異常に多かった。まぁ数百人の悪魔達ですぐに制圧したが…そこには他とは違うものがあった。

それは地面に突き刺さっている禍々しい魔力が溢れ出す巨大な剣だった。

そしてその剣からフードを被る者たちが生み出されていた。

俺は片手から炎を出して燃やしながらトカゲ頭の悪魔、メルムに喋りかける。


「おい。あの剣はなんだ?」


「ありゃあ、魔王が使っていた剣だな。教国の奴ら封印をサボってたんじゃねぇかこれ」


「しかし、まいったの。儂らは封印の聖術なんて使えんぞい」


灰色肌で立派な角が生えている老人、ミッセルが顎を触りながら炎を放出しながら言う。


「壊せないのか?」


「むむ…壊せはするかもしれんが、この魔王の剣には僅かながら魔王の意思が残っておる。それが怨霊として襲いかかってくるぞい」


「これだけいれば、さすがに勝てるんじゃないか?」


俺は周囲から炎の魔法を放っている悪魔達を見ながら言う。

すると黒羽の悪魔、リベイラがケラケラと笑う。


「あっははは!アンタ世間知らずよねぇ。魔王って私達悪魔の中でトップの実力だった奴よ?今は死んでるけど。

その怨霊ってもはや災害よ、災害」


「まぁ、なんとかなるだろ」


俺は六角の金棒を取り出し、金棒へ破壊強化で魔力を集中させていく。

そして両手で握りしめ、地面に突き刺さっている魔王の剣にフルスイングでぶつけた。

轟音とともに、魔王の剣が軋むような不気味な音を立てた。俺の全力の一撃を受けたにも関わらず、剣は完全に砕けることなく、深々と地面に食い込んだまま震えている。


「ちっ、さすがに頑丈か」


俺は金棒を持ち直し、もう一度振ろうとしたその瞬間。


「グオオオオオオ……!!」


周囲の空気が震え、禍々しい魔力が剣から吹き出した。

黒紫の霧が渦を巻き、まるで生き物のように形を成していく。そして、巨大な影がそこから生まれた。


「……ふっははは!やっべぇなこれ!!」


「あっはは!怨霊でこれ!?」


「こりゃ凄いのぅ…」


現れたのは、黒い鎧を纏い、一本角を持つ異形の巨人だった。その瞳は赤い光を放ち、圧倒的な威圧感を放っている。

俺は冥王から受け取った漆黒の剣を取り出した。強く踏み込んで魔王の怨霊に接近する。

魔王の怨霊から滲み出る禍々しい魔力が俺の肉体を蝕む。そして冥王の剣を振り下ろした。

黒い鎧ごと斬り裂かれ、魔王の怨霊は後退する。


「グオオオオオ!」


魔王の怨霊は襲いかかってくるが、周囲の悪魔達も魔法による攻撃を開始した。

炎、雷、氷、水…様々な属性の魔法が一斉に魔王の怨霊へと降り注ぐ。爆発が連続し、視界が一瞬白く染まるほどの激しい衝撃が走る。


魔王の怨霊はよろめきながら後退した。俺は魔王の怨霊の頭上まで跳び上がり、そして冥王の剣を頭上から振り下ろす。

魔王の怨霊は左右真っ二つに分かれると、空気に溶けるように消えてなくなった。

するとトカゲ頭のメルムがこちらにやってくる。


「おいおいおい!それ冥王のジジイの剣じゃねぇかよ!貸してくれたのか!?」


「ん、元々冥王に頼まれてここに来ていたからな」


「へぇ!そういうことだったのかよ!」


「ああ。それじゃあ、とりあえずこれで誰かが洗脳されることは無くなったか」


するとシロが、ただの剣と化した魔王の剣を持ち上げた。

体が灰色となり、筋骨隆々とした体に変化した。そして頭には特徴的な一本角が生えた。

シロが満面の笑みを浮かべて俺を見て、急に喋り出した。


「ヒロキ!どうやらボクがなるべき姿はこの姿だったようです!」


「お、おう。そうか」

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