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第50話 冥王

次の日、俺は1人で大阪のビルの屋上に立っていた。

眼前には広大な集合墓地、そして様々なアンデッドが見えていた。

巨人のゾンビ、ボロ布を身に纏い杖を持つスケルトン、兜がない動く全身鎧など、様々なアンデッド系モンスターがいる。


冷たい風が吹き抜ける。墓地の中心から立ち昇る黒いモヤが、ただならぬ異様さを醸し出していた。

墓地の中央には巨大な黒い裂け目が開いており、そこからアンデッドが溢れ出ているようだ。


「軽くMP稼ぎでもするか」


そう呟いて俺は刀を取り出し、ビルの屋上から飛び降りた。

翼を羽ばたかせて地面に着地すると、刀を横薙ぎに振るった。剣鬼の斬撃の効果により赤黒く巨大な斬撃が放たれる。

数多のアンデッドが殺されていき、墓石も破壊されていく。


〔MP +2089〕〔MP +800〕〔MP +1350〕…


わりと多めのMPが手に入る。しかし、アンデッドは次から次へと裂け目から現れる。


「ボーナスステージか?」


俺は次々と現れるアンデッド達をしばらく剣鬼の斬撃で狩り続けた。50万程度のMPを獲得すると、俺はいい加減冥界へ向かうことにした。

翼を羽ばたかせて飛び上がり、見えている巨大な黒い裂け目に直行した。

裂け目の近くに近づくと、黒いモヤが俺を包み込んだ。悪影響があるかと思ったが、むしろ肌に馴染むような感覚さえ覚える。


「さて…行くか」


俺は裂け目の側で飛び、中を覗き込む。そこにはどこまでも広がる闇が渦巻いていた。

俺は意を決して、裂け目へと飛び込んだ。


「うぉっ!」


瞬間、強烈な重力が俺を引きずり込み、意識が揺らぐ。

すぐに体勢を立て直し、周囲を見渡す。

上空には、灰色の空と無数の浮遊する島がある。


「……スゲェ、ファンタジーだな」


浮遊する島々はどれも不安定に揺れ、黒いモヤが立ち込めている。重苦しい空気が漂い、時折、不気味な呻き声のような音が遠くから聞こえてくる。

地面に降り立ち、周囲を見渡す。黒く広がる大地があり、黒樹がいくつも生えている。


スケルトンが大量にいるのかと思ったが、そんなことはなかった。

眼球が漆黒に染まっている巨大な猿がのそのそと歩きながら、黒樹に実っているスケルトンの実をポリポリと食べていた。なんならその辺にいるスケルトンも掴んで食べている。

巨大な猿は一度俺の方に顔を向けたが、興味が無さそうに顔を背けてスケルトンの実を食べ始めた。


他にもやけに動きが素早い人型のカラスや、三つ頭の巨大な犬、大きい人間の顔がある巨大な蜘蛛などがいた。

こいつらは全員眼球が漆黒に染まっていて、時折見かけるアンデッドに襲いかかって捕食している。


俺に襲いかかることもないため通常のモンスターとは違いそうだな。

しばらく歩いて探索していると、白く光る水が流れる川があった。その川は洪水の時のように流れが激しい。

川を手で触れようとすると、川の中から青白い手がいくつも出てきて俺の腕を掴み、川に引き込もうとしてくる。

俺は即座に腕を引っ込めて、青白い手を引き剥がした。


「気色悪いな…」


ただこの川が気になったので、上流まで行ってみることにした。川の上流へと進むにつれ、周囲の空気がさらに冷たくなっていく。

白いモヤが川面を覆い、時折、ぼんやりとした人影のようなものが浮かんでは消えていっている。


俺は周囲を警戒しながら川沿いを進んだ。やがて川の先に、巨大な石造りの門が見えてきた。

その門の中央には複雑な紋様が刻まれており、時折それが鈍く光る。

門の前にはフードを深く被った人間が静かに佇んでいる。


「…通るには、何か条件でもあるのか?」


俺がそう呟くと、フードの人間がゆっくりと顔を上げた。

フードの下から覗くのは、漆黒の眼球と無機質な顔立ち。まるで人形のようなそれは、低く響く声で告げた。


「悪魔よ、汝が何を求めるか答えよ」


「何を求める?そうだな…冥界で起きている異変を解決しようと思っているのだが…」


俺がそう答えると、閉ざされている巨大な門の先から強い視線を感じた。それをフードの人間も感じ取ったのか顔を向ける。


「冥王様がお呼びだ。通れ」


そう言うと、どこからともなく巨大な人型の牛が2体現れ、巨大な石造りの門を押し開けた。

門がゆっくりと開かれると、内部から冷気が漏れ出し、俺の肌を刺すような感覚が走った。

視線の先には、黒い霧が渦巻く広大な空間が広がっている。巨大な柱がいくつも立ち並び、天井は闇に溶け込んで見えないほど高い。


門を通ると巨大な人型の牛が門を閉ざして、消えていった

俺は慎重に歩を進めながら周囲を見渡す。空間の奥には巨大な玉座が置かれているのが見えた。

その玉座には巨大な骸骨が腰掛けていた。黒い外套を纏い、本来両目がある場所からは黒いモヤが溢れ出ている。

近くまで行くと、骸骨が話しかけてきた。


「…冥界の異変を解決する。そう言ったな、悪魔よ」


しわがれた低い声が空間に反響する。


「ああ。俺達がいる世界にある冥界への入口が決壊しそうになってるんだ」


「…原因は、この冥界に流れ込む魂が増えたことにある。新しく繋がった世界の物も含めてな。

そこで、貴様には下界へ行ってもらいたい」


「なに?下界にか」


「そうだ。我はここを離れることができん。だが下界へ繋げることなら出来る。

おそらく下界での異変が全ての原因だ。それを解決して欲しい」


冥王はそう言うと、片手をあげる。すると黒いモヤが一箇所に集まり、別の空間への穴が空いた。


「それと、お前にはこれをやる」


冥王は刀身が漆黒に染まっている剣を渡してきた。俺はそれを受け取りアイテムボックスにしまう。


「攻撃が通らない敵が現れたらそれを使え。いいな?」


「随分親切だな?」


「フン…早いところこの忙しさから解放されたいだけだ。さっさと行け、悪魔よ」


冥王がそう言うと、俺の体が下界に繋がる穴へと引っ張られた。

そして、下界へと降り立った。周囲は自然豊かな森のようだ。


「ちっ…冥界の次は下界か……」

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