「我の名はケルサス・ノクスジーナ、竜帝国の竜帝だ。よろしく頼むぞ」
周囲が静まり返る。まさか、帝国の皇帝自らが来るとは。
俺は軽く顎をさすりながら、サツキに目配せする。サツキも驚いているようだったが、すぐに表情を引き締めて一歩前へ出た。
サツキは竜帝を真っすぐに見据え、堂々とした態度で名乗った。
「俺は一之瀬サツキ、この拠点を率いる者だ」
俺も軽く顎を引き、竜帝を見据える。向こうも興味深げにこちらを見ている。
「なるほど。そなたらがこの地を治めているのだな。中々の戦力を持つ組織だと聞いている。
しかしまぁ…」
竜帝はくるりと視線を巡らせ、集まった住民や戦闘員たちを観察するように見回した。そしてくつくつと笑い出す。
「ここまで多種多様な種族が見れようとは、壮観よな。我が国も多い方ではあるが…まぁいい。
それよりも異変についての情報共有の話だったな、中に入らせてもらうとしよう」
「ああ。こっちだ」
サツキが冷静に応じると、竜帝は満足げに頷いた。
「うむ。オクリースは我と来い。それ以外は待機」
「「「はっ!!」」」
竜帝の指示に、白竜に乗っていた騎士たちは一斉に敬礼し、1人の白髪で細身の男の騎士がケルサスの斜め後ろに控える。
俺たちはビルへと足を踏み入れた。
「こちらに座ってくれ」
サツキは1人掛けソファを引くと、竜帝は何の迷いもなく座る。サツキも対面に座り、テーブルにはコーヒーと菓子が出される。
「フム、良い座り心地だな。それで、我らがこちらに転移してから手に入れた情報だが、渡すには条件がある」
「…なんだ?」
「この世界の技術、中々に目を引くものがあった。この建物もそうだ。人間は貧弱だが、この技術には興味がある。
既にその知識が詰まった本を手に入れてはいるが、文字を解読するのが面倒だ。
言葉は通じるようだし、ある程度知識があって翻訳する者を何人かこちらに寄越してもらいたい。
そうすれば、情報だけとは言わず今後ケルサス竜帝国による協力を約束する。どうだ?」
「そうか…」
サツキは腕を組んで目線を上に向けて黙る。だがまぁ、断る理由は無いように思えるな。
「分かった。こちらで10人ほど選抜する。ただ条件があるのだが…転移を出来る者を1人入れても良いだろうか。
そうすれば行き来も楽になるのだが」
竜帝は少し驚いたように目を細め、顎に手を添えた。
「転移魔法を扱える者がいるのか?」
「魔法というか、スキル…技なのだが、ヒロキ。試しに見せてみてくれ」
「ん、ああ」
俺は適当に平原と繋げた扉を創っていく。
そして完成すると、扉を開けた。扉の先には草が生い茂る平原が見え、気持ちの良い風が通る。
「ほう…我も長いこと生きてきたが、初めて見るな」
「とまぁ、これだ。良いだろうか?」
サツキの言葉に、竜帝はしばらく考え込む素振りを見せたが、やがて満足げに頷いた。
「良かろう。そなたらの利便性も考慮し、転移持ちの者を含めた十名を受け入れよう。
ただし、その者の能力の詳細は把握しておきたい。後に問題が起こらぬようにな」
「当然だ。そちらも、派遣された者たちを粗末に扱わないことを約束してもらう」
「フフ、竜帝国は盟友を大切にする。我が言葉に偽りはないさ」
竜帝は薄く笑いながら言うが、その金色の瞳には確かな威厳と力が宿っていた。
「では、契約成立ということでよろしいか?」
サツキが改めて確認すると、竜帝は満足げに頷く。
「うむ。正式な協力関係の第一歩として、今後も良き関係を築いていこう」
その言葉と共に、場の空気が少し和らいだ。
「さて…」
竜帝はふとテーブルの菓子を摘まみ、口に運ぶ。
「む…!?」
目を見開き、菓子をじっくりと味わい始めた。
「これは何だ?」
「それは焼き菓子の一種だな。甘くて美味いだろう?」
「…フム、悪くない。いや、むしろ非常に良いな」
竜帝が菓子をもう一つ手に取り、じっくりと味わいながら笑みを浮かべる。
「そなたらの食文化にも興味が湧いてきたな」
どうやら、竜帝国との関係は思った以上にスムーズに進みそうだ。
それから、サツキはまず俺達が知っている情報を話した。
この異変の始まり
元々人間しかいなかったが全人類が様々な種族へ進化したこと
見慣れない地がいくつも現れたことなどを話していくと、竜帝が話し出した。
「フム…まずは、この異変について分かっていることを教えてやる。オクリース」
「はっ!」
白髪の細身の男、オクリースが喋り出す。
「まずこの異変により転移した場所は、私達がいた世界にとっては重要な地点となっております。
まず堕神が封印されている平原、冥界の入口がある墓地、神の鉱物が採掘できる迷宮、エルフ達が住まう森、転移してきた地は、特にこの日本に集中しているのです」
「よく、この国の名前が分かったな」
「ええ。昔、私達の世界で勇者が召喚されたことがありましてね。偶然にもこの国の出身だったのですよ。
そして、この異変を引き起こしたのは創造神だろうと我々は結論付けました」
「何?」
サツキは驚いた目でオクリースを見据える。オクリースは頷いて説明しだした。
「おそらくですが、神達が住まう天界で何かが起こり、重要な地をこちらに避難させたのでしょう。勇者が生まれたこの国に。
そして魔物にも対応できるようにあちらの世界のシステムをこちらにも取り入れた…といったところでしょうか」
「なるほど……他には何があるか?」
「あの墓地にある冥界の入口、決壊し始めていますね。早急に対処しなければアンデッドが溢れ出てくるでしょう」
「今日、ここに来ることを決めたのはそれが一番の要因だ」
菓子を食べていた竜帝が喋り出し、俺の方を向いた。
「悪魔よ。お前には冥界へ行ってもらいたい。そして冥界でも起きている異変を解決してきてくれないか」
「別に構わないが、なぜ俺なんだ?」
「冥界に蔓延している魔素は普通の生き物には悪影響でな。
我でもその影響は無視できん。だが、悪魔ならば話は別だ。
悪魔は魔素のあらゆる悪影響を無効化できる」
「なるほどな……分かった、明日にでも向かうとしよう」
「ああ、頼んだぞ。だが心しておけ。冥界もかなり広い、一日二日じゃ解決は厳しいだろうからな」
竜帝は満足げに頷くと、再び菓子に手を伸ばす。
「そして次の情報だが…」
「おお!懐かしい気配がすると思ったらノクスジーナじゃないか!」
「むっ…ゼノデウス…!」
突如として現れたゼノデウスに竜帝が驚いた表情を浮かべる。
「どうやって封印を解いたのだ。貴様」
「なーに、そこの便利な悪魔が迷い込んできてくれてな」
「ちっ…そういうことか。あの森に部下を近付かせなかったのが裏目に出たな…まぁいい、次の情報は…」
そうしてゼノデウスにより場が少し荒れたが、無事情報共有は終わった。
その日、ハルカに事情を話し、所持していたMPを全てスキルの書に使い、スキルの書と大量に所持していた魔晶石を全て渡した。
そして、その日の夜は眷属達とより一層激しく交わった。