ケルサス竜帝国の騎士たちと遭遇してから1週間が経った。
アリーナの片付けも終わり、居住環境はある程度整った。
各避難所からの人々も着々とこちらに合流している。現在は2000人ほどがこちらに来ているようだ。
人が増えるにつれて、老人や精神的に不安定な者たちに眷属化を行うことでハーフデーモンも増えていっている。
そして、北海道と沖縄に移動スキルを積ませた転移扉持ちが到着したことで、魔力の応用の情報を掲示板にて公開することになった。
それまでに見つかるかと思っていたが、なんだかんだそんなことは無かったな。
北海道と沖縄に向かう道中にも転移扉を出現させることが出来るため、無法者の駆除は効率的に進んでいる。
各避難所からの合流者は増え続けているが、それに伴い馬鹿も増えた。
この拠点にはルールが5つある。
【ドロップ品は適切に報告すること。】
物資の確保は全員の生存に関わるため、独占や横流しは禁止。
なお総長,副総長,幹部は例外だ。
【不毛な争いを起こさず、リーダーに報告すること。】
些細な争いも放置すると大きな問題に発展する可能性があるため、些細ないざこざでも所属ごとのリーダーに相談することを推薦されている。
【拠点の維持に貢献すること。】
治安の維持、モンスターや無法者を討伐する戦闘員。
インフラ関係の管理をする技術者。
料理や鍛冶、生活用品を作る生産者。
技術者や生産者の手伝い、その他雑用を行う便利屋。
基本的にこの内のどれかに割り振られる。
【犯罪行為を行わないこと。】
窃盗、暴行、強姦、殺人は処罰の対象となる。
もし発覚して事実だった場合、転移扉を使用して追放。酷い場合はその場で粛清だ。
【八咫烏の指揮権を持つ者の指示には極力従うこと。】
総長であるサツキ、副総長のワタル、そして幹部たちと戦闘員,技術者,生産者,便利屋の各リーダーの指示には極力従って貰うことになる。
軽い違反なら警告と罰則、重い違反なら即追放もしくは粛清となる。
拠点の維持に貢献しない者は、その者たち専用のエリアに移されて与えられる食料を大幅に減らされ、ろくな寝具も渡されない。
このエリアに移された全員が働かせてくれと懇願してくるようになる。
まぁそれでも、モンスターという脅威から解放されたからか馬鹿が現れるもので…
「離せ!!私はやってない!!」
「それが事実なのか今から確かめるから。それじゃヒロキさん、よろしくお願いします」
「ああ」
アリーナに入ると、小太りの男が戦闘員に引きずられてやってくる。
俺は契約のスキルを使用して、紙とペンを出現させる。
契約内容は…
1. 嘘をつかないこと。
2. この契約は尋問を終えると消滅する。
3. 罰則は死。
「おい。この紙にフルネームを書き込め。書かずに尋問を拒否した時点で罪を認めたことになることを忘れるな」
男の顔色が一瞬にして青ざめた。
「な、なんだよこれ…!」
「お前の言葉が真実かどうか調べるためのものだ」
「俺はやってない!本当だ!」
「だったら書けばいいだけの話だ。早くしろ」
俺が静かに告げると、周囲にいる住人たちがじっと男を見つめた。視線には嫌悪と警戒が混じっている。
「ほら、あまりヒロキさんの時間を取らせるな」
戦闘員が男の肩を掴み、紙の前に押し出す。
男は脂汗をかきながら、震える手でペンを握った。
「俺は…くそっ…」
そう言いながら、紙の上に名前を書き込む。書き終えた瞬間、契約が成立して燃えて消える。
「さて、尋問を始める」
俺は契約の力を使い、男をじっと見つめた。
「お前は昨晩、他の住民が置いていた食料を盗んだか?」
「……はい」
「なぜ盗んだ?」
「…小腹が減っていて、つい魔が差して…」
契約の力が発動しなかった。事実のようだな。
「ふむ…これにて尋問を終了とする。あとは頼むな」
「はい。ありがとうございます。ほら、行くぞ」
「……」
男は戦闘員に腕を引っ張られて、呆然とした表情で連れて行かれた。
今回、奴は無害な住人に害を与えた。
まぁ追放になるだろう。犯罪者を置いておくほどの余裕はここには無いし、安易に盗みを働く者は必要ない。
追放とは言うが、転移扉でモンスターがいるここから離れた場所に1人で行くことになる。死刑と言っても過言ではないだろう。
(今回のやつで、3人目か)
さすがにいい加減バカなことをするやつもいなくなるだろうが、まぁ人もまだまだ増えるからな。
俺はアリーナ内を適当に歩き、肉の串焼きを売っている者の前に行く。
「5本くれ」
「は、はい。引き換えプレート5枚になります」
俺はアイテムボックスから引き換えプレートを5枚取り出す。これはこの拠点で使っている通貨だ。
金属蜘蛛の鉄を溶かしたものを型に流し込んで、小判のような形にしたものだ。中央には正四角形の穴がある。
俺は肉串焼きを5本受け取ると、人化のスキルを使ってハーフデーモンの姿になる。
最近気付いたが、人化でハーフデーモンの姿になると感覚が鋭くなるようで、料理もより美味しく感じるようになる。
知った経緯は省略するものとする。
串焼きを食べ終わると、串を返却した。
「美味かった。また来る」
「は、はひ…♡」
俺はすぐに元の姿に戻って立ち去る。
この姿になると、容姿が良くなりすぎてしまうのが唯一の欠点だ。
以前に人化の姿でアリーナを歩いたら、十数名の女性から眷属にしてくれと頼まれ、眷属にしたらサツキに注意されてしまった。
その女性達は現在ハーフデーモンの姿で元気に活動していて、俺達が住まうビルに住んでいる。
最近やけに欲望まみれの生活になってしまっている気がする。悪魔だからそんなものだとは思うが…
そんなことを考えながらビルに到着した。
中に入り、6階に上がる。結局6階は俺が丸々使うことになった。
6階のエリアに入ると、肌の露出が多い眷属達が出迎える。
そして俺の体に群がり、衣服を脱がしていく。
(どちらかと言えば、俺よりも眷属達の方が…まぁ受け入れてる俺も俺か)
そんなことを考えながら、眷属達と交わり始めた。