こちらから放たれた魔法により、戦闘が始まった。
まず魔法は、リザードマンの炎とゴブリンとオークの魔法部隊によって相殺された。
ハルカは土の傀儡で人サイズのゴーレムを次々と生み出していき、そして全員に白の加護と戦の咆哮でバフをかける。
戦闘員の中にも氷の霊体、おそらく精霊を生み出している者もいる。その精霊は次々と尖った氷柱を放っていっている。
モンスター達と近接部隊との戦闘が始まった。
ハルカのゴーレム達もモンスターに襲いかかる。
俺は戦斧を使わずに素手で殴っていく。
軽く殴っているつもりだが、モンスターは派手に仰け反り体勢を崩す。
「おいおい!随分強くなりやがったなヒロキ!」
ソウスケはそう言いながら炎を吐こうとしたリザードマンの顎を殴って止め、そして手を真っ直ぐに突き出し、リザードマンの胸を貫いて殺した。
「なんちゅー数だよ!」
「こりゃ凄いな」
マサノリは次々と襲いかかってくるモンスターをメイスで殴り、防具ごと潰して殺しながら叫ぶ。
ユウトも短剣二刀流で器用に防具の隙間を狙って次々と殺している。
するとモンスター達に巨大なゴーレムが襲いかかった。サクラが土魔法で創り出して操っているものだな。
「フハハハ!行けぃ!」
サクラのゴーレムは暴れ回り、次々とモンスター達を圧倒的質量で潰して殺していく。
するとよりガタイが良いオークが動いた。
「ブギャアア!!」
そのオークは雄叫びをあげると、ゴーレムへ飛び込んで接近、そしてメイスをフルスイングして殴り壊した。
「あれぇ!?」
わりとすぐに壊されてしまったゴーレムにサクラは驚くも、すぐに岩を創り出して放ち、他の援護をする。
ガタイの良いオークはその勢いのまま、他のオークを引き連れて最前線へ接近してくる。
するといつの間にか接近していたカイがそのオークの首に短剣を突き刺して殺した。
そしてすぐに周囲のモンスターも毒液が付着した短剣を突き刺して、目にも止まらぬ速さで次々と殺していく。
「カイ!無理はするなよ!」
俺がそう叫ぶと、カイは片手をあげて軽く振った。
彼の戦いぶりはまさに暗殺者のそれだった。目の前のオークが倒れた瞬間にはすでに別の敵に狙いを定めている。
「こっちも援護するよ!」
カレンがメイスを振り上げ、地面を叩きつけた。その衝撃で地面が割れ、リザードマンたちが体勢を崩す。
体勢を崩したリザードマンたちに戦闘員たちが襲いかかる。
そこへイサムが音もなく踏み込み、掌底を一撃。リザードマンの首があり得ない角度に曲がり、そのまま地面に倒れ込んだ。
剣を振り上げて襲いかかってくるリザードマンに対して高速で近付き、腹に強烈な肘打ちをかます。
腹に肘が深くめり込み、リザードマンは苦悶の表情を浮かべ、屈んでしまう。
すかさず頭に拳を叩き込み、そのまま地面に沈め殺した。
「フン…鈍いな」
そう言いながらも、普段厳格そうなイサムの顔には笑みが浮かんでいた。
イサムは炎を吐こうとしたリザードマンの腹に掌底をかまし、リザードマンは他のモンスターを巻き込みながら吹き飛んだ。
そこへサツキが飛び込み、雷を纏う白い金属の大剣を振りかぶった。空気が弾けるような音とともに稲妻が迸る。
大剣に直撃したリザードマンは切り裂かれ、雷が直撃したリザードマンはその場で痙攣しながら倒れ伏した。
モンスターたちはサツキが脅威だと感じたのか、サツキに殺到する。
サツキは空いている左手を天に掲げる、すると膨大な光が集まり巨大な剣を象っていく。
サツキはそれを、横薙ぎに振るった。
巨大な光の刃が空間を裂き、眩い閃光が戦場を包み込んだ。
波紋のように広がっていく光の斬撃は、数多のモンスター達を消滅させた。
「はは!やっぱりすげぇな、サツキさん!」
ユウトが感嘆の声を上げながらも、すぐに敵へと意識を戻し、短剣を閃かせる。
サツキの攻撃によってできた隙を逃さず、戦闘員たちは次々とモンスターへ攻撃を仕掛ける。
俺はサツキの元へ近付き、声をかける。
「俺がくれてやったスキル、なかなか似合っていたじゃないか。人類の救世主っぽかったぞ」
「からかうな、まったく。しかし魔力消費が激しいな」
「あれだけの威力だからな」
サツキは肩で息をしながらも、まだ鋭い視線で戦場を見据えていた。
「さて、まだまだ働かないとな」
「ああ」
そう言いサツキは、大剣を持って他の戦闘員と共にモンスター狩りに行った。
俺もそれに加わろうとすると、離れた場所に数人がこちらの様子を観察しているのが見えた。
鎧を身にまとっているようだ。
(この前に見かけたやつと同じか?)
俺は両足に跳躍強化で魔力を集中させ、観察している連中に向かって跳び上がった。
そして連中の目の前に着地する。若干警戒した様子で腰にある剣に手をかけている。
「あぁ待て、敵対の意思はない。ただ諸君らの所属と目的を聞きたいのだが、異世界の人間だよな?」
「…そうだな。皆、警戒を解け。もとより不躾なことをしていたのは我々だ」
リーダーらしき金髪の北欧顔の男がそう言うと、他の者も警戒を解いた。
俺は男をじっくりと観察する。金髪碧眼の彫りの深い顔立ち、鎧には竜の紋章が刻まれている。
「それで、諸君らは何者なんだ?」
俺が問うと、男は静かに頷いた。
「私の名はルキウス・アウグスト。我々はケルサス竜帝国所属、地竜騎士団の一部隊だ」
当たり前だが、まったく聞いたことがないな。
「竜帝国か……目的は?」
「転移してきたこの世界の調査と、転移してきた原因を調べている」
「今まで接触して来なかったのは警戒のためか?」
「それもある。接触したところで有用な情報を得られないのは分かっていたからな」
それはそうだ。どの避難所も自分達のことで精一杯だったからな。
「なるほどな。現在、諸君らはどこの命令で動いている?」
「竜帝国の司令部からだ」
「なに?国ごと転移してきたのか?」
「いや、違う。"大陸"ごとだ」
「なんだと…?」
予想外のことに驚くと、地面が揺れ動いていることに気がつく。振り向くと、遠くから10mはある数十体のサイクロプスがサツキ達へ接近しているのが見えた。
「あれは、まずいな。俺達の拠点は把握してるか?」
「ああ。している」
「ならば、後から訪ねてきてくれ。情報の共有を行いたい」
「…私が決めることはできないが、友好的であったとは伝えておくよ」
「ああ、それで良い。ではな」
俺は刀を取り出して、サイクロプス達へ跳躍強化で跳び上がり接近した。
そして刀に魔力を注ぎ込み、刀を横薙ぎに振るった。
ユニークスキル"剣鬼の斬撃"により赤黒く巨大な斬撃が放たれる。
斬撃は空間を裂き、風圧を巻き起こしながらサイクロプスの群れに向かって放たれた。
斬撃がサイクロプス達に直撃すると、凄まじい音とともにその身体が次々と真っ二つに切り裂かれていく。
そしてついにはサイクロプス達は一匹も残らず死んで、光に包まれていった。
斬撃はそのままどこかに飛んでいく。
〔MP +10030〕〔MP +10280〕〔MP +12109〕…
「…ちょっと、強すぎるか?」
戦闘の面白みが欠けるため、危険がない限りは剣鬼の斬撃は封印しようと心に決めた。