人型の竜となった俺の姿を見た途端、戦場は一瞬静まり返った。
黒獣も巨大狼も、オークもゴブリンも、敵対していたはずの者たちが共通の脅威を前に動きを止める。
「グルルル……」
黒獣の一体が低く唸り、殺意を滲ませた瞳でこちらを睨みつける。
「ギギャ……ギィィ!」
ゴブリンの指揮官らしき個体が鋭く鳴き、部隊に何かを指示する。どうやら俺を警戒しているらしい。
だが俺は悠然と戦斧を肩に担ぎ、口元を歪めた。
黒獣が地面を蹴り、一瞬で間合いを詰めてくる。俺は戦斧を横に薙ぎ払う。
黒獣の体は一瞬で両断され、光に包まれた。
〔MP +1600〕
(ほう!美味いな)
その一撃で、戦場が再び活気づく。俺が新たな脅威であると悟ったのか、亜人も獣も次々とこちらに矛先を向けた。
「グォォォオオオ!!」
俺は雄叫びをあげて跳躍強化で一気に魔物の軍勢へ突っ込んだ。
オークたちは慌てて散開しようとしているが、構わず戦斧を横に薙ぎ払う。最前線にいたオーク達は甲冑ごと粉砕され、光に包まれて消えていった。
「ギギャァ!」
ゴブリンの魔法兵が俺に向けて一斉に鋭く尖った氷柱を放つ。
俺は竜の息でそれを掻き消して前進し、近くの巨大狼に狙いを定める。
鋭い爪を振りかざし、巨大狼の首筋を狙うが、相手もただの獣ではない。俊敏な動きで回避し、咆哮とともに衝撃波を放ってきた。
「グルァッ!」
一瞬、体勢を崩すがすぐに立て直し、戦斧を振り下ろす。巨大狼の胴体が真っ二つになり、光に包まれて消滅した。
すぐにゴブリンの部隊が囲むように動く。俺は片足に衝撃強化で魔力を集中させ、そして地面を踏み抜いた。
強い衝撃が地面に伝わり、一瞬奴らの姿勢が崩れる。
俺は戦斧を振りかぶり、一番近くのゴブリンへと振り下ろす。金属の甲冑ごと叩き割り、死んだ。
残ったゴブリンたちはすぐに立て直し、距離を取る。後方の魔法兵が素早く詠唱を始め、今度は雷の魔法を放ってきた。
「ギィィィ!」
雷が俺の体に直撃する、竜の鱗がある程度雷を弾くが…雷はなかなかに痺れる。
ゴブリンの槍兵が突きを繰り出してくるが、それを掴んで投げ、戦斧を横薙ぎに振るい槍兵を殺す。
そしてすぐに魔法兵に突撃して蹂躙した。
オークの部隊も俺に向かって突進してくる。斧を構えた大柄な個体が迫ってきた。
「グォォォ!」
オークの斧が俺の頭上へと振り下ろされる。俺は後ろに軽く跳び、最小限の動きで回避した。
そして、拳に衝撃強化で魔力を集中させてカウンターを叩き込む。
オークが吹っ飛んで他のオークを巻き込むと、そこに竜の息を放った。燃え盛る火炎がオーク達に直撃して燃やし尽くしていく。
黒獣の群れが襲いかかってきた。
黒獣たちは四方から包囲するように俺へと殺到する。
前方から迫る個体が飛びかかり、鋭い爪を振り下ろす。俺は戦斧で受け止め、その勢いを利用して背後へと跳ぶ。
だが、それを見越したかのように別の黒獣が横から突撃してきた。
「グルァッ!」
横合いから爪を振り抜いてきて、斬撃が飛ぶ。
俺はそれを戦斧の刃で相殺すると、鋭い金属音が鳴り響く。すぐに戦斧を振り下ろしてその黒獣を始末すると、その隙を逃さず黒獣が一斉に飛びかかってきた。
地面に戦斧を突き刺して固定し、両手から燃え盛る炎を周囲に撒き散らした。
黒獣達は炎が直撃して火だるまになる。
「ウォォン!!」
巨大狼が咆哮で衝撃を与えてきた。俺は軽く吹っ飛び、数体の巨大狼が俊敏な動きで迫ってくる。
俺は空中で体勢を立て直し、着地と同時に戦斧を振り上げる。
「グォォッ!」
巨大狼の一匹が先陣を切って飛びかかってきた。
俺は戦斧を振り下ろし、頭をかち割りそのまま地面へと叩きつける。巨大狼は一瞬体を震わせて、光に包まれる。
後ろから巨大狼が体に噛み付いてきた。上半身に歯が食い込み動かなくなる。
それを見越してか周囲にいた巨大狼が、口から氷のブレスを放ってきた。
(そんなことまで出来るのか)
俺は両足に跳躍強化で魔力を集中させて、巨大狼ごと跳び上がった。
たまらず巨大狼が口を離すと、俺は巨大狼を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた巨大狼は地面を転がりながら衝撃で呻き声を上げた。
俺は着地と同時に戦斧を握り直し、強く踏み込んで巨大狼たちへ接近して戦斧を振り払うが、避けられる。
まだまだ数え切れないほどの魔物達がいる。
「グォォォォォォオ!!」
俺は再び雄叫びをあげて魔物の軍勢に突っ込んだ。
「フー…フー…」
数時間後、辺りにはドロップ品が散らばっていた。
膝をつきながら呼吸を整えていると、一匹のゴブリンがこちらに歩いてきていた。
そのゴブリンは年老いているのか深いシワが所々に見られ、細身。だが腰は曲がっていなく、真っ直ぐに立っていている。
顎には白く長い髭が生えていて、片手には無骨な刀が添えられている。
「強大にして恐ろしき悪魔よ…儂と立ち会え」
ゴブリンは真っ直ぐに俺を見つめてそう言った。間違いない、こいつは知性を獲得したモンスターだ。
俺は会話をするために元の姿に戻る。
「仲間の手助けをしなくて良かったのか」
「フン…あれらは同族ではあるが仲間ではない。儂は、常に一人で自身を高めてきた」
ゴブリンの老剣士は静かに佇み、鋭い眼光をこちらに向けた。
その姿は、俺が知るゴブリンのイメージとはかけ離れていた。
「しかし、儂の肉体はもはや限界に近い。最後に相応しい相手を探していると、貴様を見つけた」
「……なるほどな」
俺はゆっくりと立ち上がり、肩のこわばりをほぐす。
老剣士は静かに刀を抜いた。無骨だが、無駄のない動作。
その刃には研ぎ澄まされた純粋な気迫がまとわりついている。
「儂は幾千もの戦場を歩き、己の力を磨き続けてきた」
「ほう…」
「儂はただ強者と相まみえ、その果てに何を得られるかを知りたい。それだけよ」
そう言い刀を縦に振りかぶった。斬撃によって地面が裂かれていくのを見て跳び避けた。
俺は距離を取りつつ、老剣士の動きを観察する。
老剣士はゆっくりと構えを取る。重心がぶれず、隙がない。
そして斜めに刀を振り、斬撃を放った。
俺は跳び上がって避け、飛行強化で翼を羽ばたかせて突っ込み、戦斧を振り下ろす。老剣士は最小限の動きで横に避けて、刀を振りかぶり反撃してくる。
俺は咄嗟に戦斧の刃で受け止めた。金属がぶつかり合う甲高い音が響き、衝撃が腕に伝わる。
老剣士は一歩も退かず、刀を押し込んでくる。その力は見た目に反して強い。
俺は力任せに戦斧を押し戻し、距離を取る。
だが老剣士はすでに次の攻撃に移っていた。流れるような動作で踏み込み、低い姿勢から鋭い突きを繰り出してくる。
(速い…)
俺は咄嗟に跳躍強化を使い、後方へ跳ぶ。しかし、老剣士はその動きを読んでいたかのように、すかさず追撃を仕掛ける。
刃が閃き、俺の肩口を掠めた。鋭い痛みが走るが、致命傷ではない。
俺は戦斧を構え直し、息を整える。老剣士は相変わらず落ち着いた表情でこちらを見据えている。
「貴様の力、まだそんなものではあるまい?」
老剣士は微かに笑い、再び構えを取る。その動きには一切の迷いがない。
「ああ、そうだな」
俺は戦斧に攻撃強化で魔力を集中させる。
俺は地面を蹴り、一瞬で老剣士との距離を詰めた。戦斧を横薙ぎに振るう。
しかし、老剣士は軽やかな動きでその一撃を紙一重で避け、すかさず俺の懐に潜り込んできた。
刀が俺の腹部を狙って突き出される。その瞬間、俺は衝撃強化を足に込め、地面を踏み砕いた。
「……!」
強烈な衝撃が地面に伝わり、老剣士の体勢が崩れ粉塵が舞い上がる。視界が遮られる中、俺は老剣士が体勢を立て直す前に拳を振るった。
「ぐぅっ…!」
老剣士が吹き飛ばされ、数メートル先に着地する。片膝をつきながら、静かに息を整えている。
「…ここまでの打撃をまともに喰らったのは随分と久しぶりだ」
その言葉とは裏腹に、老剣士の目はますます鋭さを増していた。
(…まだ余力があるのか?)
俺は僅かに息を整えながら、次の一手を考える。
すると老剣士が目を閉じて腰を下ろし、刀を腰に添える。
(あれは、居合か?)
老剣士は目を開く。
「フンッッ!」
老剣士は目にも止まらぬ早さで刀を振る。そして数多の斬撃が俺に向かってきた。
あまりにも範囲が広く、速度もあるため避けるのは厳しい。
俺は戦斧に攻撃強化で魔力を集中させ、タイミングを合わせ渾身の力で戦斧を振り下ろした。
戦斧が数多の斬撃を相殺していき金属音が何度も鳴り響く。だが相殺しきれなかったいくつかの斬撃が俺の体を斬り刻んでいく。
身体中から血を流しながら老剣士の方を見ると、老剣士は呼吸を荒くしながら、疲労困憊の様子で膝をついていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…儂の奥義を以てしても、敵わんか」
「何を言う、見ての通りだ。タイミングがズレていれば倒れているのは俺の方だっただろうよ」
「ククッ、慰めるな…はぁ…はぁ……決着だな」
「ああ」
俺は老剣士の方へ歩いていき、戦斧を振り上げる。
ふと、老剣士が言っていたことを思い出した。
「何か、得られたものはあったか?」
「…何も。ただ……楽しかったな」
「ハハハ、そうか…お前のことは忘れないだろうよ」
「偉大な悪魔の記憶に残れるとは、光栄なことだ」
老剣士の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
俺は戦斧を振り下ろし、老剣士を殺した。老剣士は光に包まれると、老剣士が持っていた刀をドロップした。
〔MP +31000〕
〔ユニークモンスター"剣鬼"を討伐しました。ユニークスキル"剣鬼の斬撃"を獲得します〕
そして、影の小鬼を大量に召喚してドロップ品を集めてアイテムボックスに入れると、転移扉を出現させるとビルのフロントに戻った。
そこにはゼノデウスと眷属が何人かいた。
「ヒロキ様!?ご無事ですか!?」
「ハルナさん呼んでこい!!」
「はい!!」
「ハッハッハ!随分と揉まれたみたいだな!」
ゼノデウスの笑い声と共に、血を流しすぎたからか意識が薄れていき、倒れた。