「神だな。封印されてから神としての役目をしていないのだが」
俺の質問にゼノデウスはそう答えた。薄々察していたが、まぁそうだよな。
「それじゃあ、天界,魔界,冥界ことを教えてもらっていいか?」
「ああ。天界は創造神とその他神々、神獣が住まう世界だ。下界に天界へと続く塔がある。
下界の観察も基本的に天界から行っているな」
ゼノデウスはチョコをポリポリと食べながら説明する。
「魔界には魔界を管理する魔神と悪魔達、そして強力な魔物が大勢いる世界だ。魔界への巨大な門が下界にある。
魔界は下界で過剰に広まった魔素を吸収する役割があるから常に魔素で満たされている」
ゼノデウスはチョコを食べて口が渇いたからか水をゴクゴクの飲む。
「ふぅ…冥界は冥界を管理する冥王と亡者達、冥界特有の魔物が大勢いる世界だな。
冥界では人種の魂が集まる、そして未練がある者と強い怨みがある者以外は浄化される。それと英雄などの偉大な魂は霊体として冥界に残っていたりするな」
「浄化されていない者がアンデッドとなるわけか?」
「そうだな。基本的に魂だけでは自我を保つことができずに自我を失う。
自我を失うと魂が濃密な魔素へと変換され、そのままアンデッド系の魔物となる」
「魔素とは結局何なんだ?」
俺がそう聞くと、ゼノデウスは悩ましい顔をする。
「まぁ…進化に必要な物でもあるし、魔物を創り出す物でもある。
世界にとって重要なものなのは間違いないが、創造神が生み出したものだからよく分からんな」
「創造神ですら完全には説明していない、ということか」
俺がそう呟くと、ゼノデウスは肩を竦めた。
「まぁ、そういうことだ。創造神の意思は理解しきれるものではない。
だが魔素は間違いなく世界を循環するエネルギーの一つであり、命の源にもなる。
そしてそれが濃縮されすぎると、魔物やアンデッドといった存在が生まれる。つまり魔素のバランスが崩れれば世界も歪む、というわけだ」
「例えば、魔素が過剰になればどうなるんです?」
ワタルが問いかけると、ゼノデウスは即答した。
「魔界と似たような環境になるな。魔素が過剰な土地では、魔物が大量に生み出される。
そしてそこの環境も順応する形で変異していく。結果的に、魔界と似た環境が生まれるわけだ。
下界でも時折、魔境として出来ていた」
「逆に、魔素が不足した場合は?」
ワタルがメモを取りながら尋ねると、ゼノデウスは少し目を細めた。
「滅ぶな。魔素が足りなくなれば、生物は力を失い、生命活動が困難になる。そして最終的に何も生まれない死の大地となる。
まぁ魔物がいる限り、過剰になることはあれど不足することはありえないのだがな」
「ふむ…しかし、この世界は魔素なんて無かったと思うが」
「そういう世界に創ったのだろう。何者かがあちらに合わせて創り直したようだが…」
「はいはい!何か戦技のような戦闘技術とかがあるなら知りたいです!」
ヤヨイが手を上げて質問する。
「まぁ、あるにはある…というかあったのだが、こちらではそれをスキルとして変わっているようでな。
わざわざ鍛錬するよりはスキルを手に入れてしまったほうが効率も良いだろう」
「むっ、そうでしたか」
ヤヨイは若干ガッカリした顔で引き下がる。
その後も細々とした質問をして、この会議は終わり解散すると、ゼノデウスが話しかけてくる。
「ヒロキよ。もし効率よく魔素を吸収するなら平原の中央へ向かうと良い」
「何かあるのか?」
「ああ。あそこは亜人系の魔物と獣系の魔物が大量にいてな、常に勢力争いをしているから強力な固体も多くて鍛錬には最適だぞ」
「ほう…そうだな、早速行ってみるか」
俺はゼノデウスと出会った家の前を想像して転移扉を創っていく。
「あそこの魔物は生まれたての奴とは比べ物にならないからな。油断するなよ」
「ああ。わかった」
俺は出来上がった転移扉を開けて家の前に移動した。そして転移扉を消す。
跳躍強化で一気に跳び上がり、飛行強化で翼を羽ばたかせた。
「中央は…あっちか」
遥か遠くに見える東京のビルを目印に進んでいくと、モンスター達が見えた。
平原の中央へと近づくにつれ、地形が荒々しくなっていく。
地面には深く抉れた爪痕や巨大な足跡が散乱しており、戦いの激しさを物語っていた。
そこでは屈強なゴブリン,筋肉が発達しているオークの軍勢と二足歩行の屈強で巨大な黒獣と巨大狼の軍勢が争っていた。
驚いたのは亜人の軍勢が全員鉄のような金属の装備を身に着けていることと、そこにいる魔物が何らかのスキルを使っていることだ。
オークの一体が咆哮を上げ、地面を踏み鳴らすと、衝撃波が広がり黒獣の軍勢を吹き飛ばす。
しかし吹き飛ばされた黒獣たちはすぐに体勢を立て直し、傷一つない。
一方、ゴブリンの軍勢は巧みに陣形を組み、槍兵が前に出て黒獣たちの突撃を阻む。剣を持ったゴブリンたちはその背後で待機し、敵が怯んだ瞬間に飛びかかる。完全に組織化された動きだ。
だが黒獣達は飛びかかってきたゴブリン達に爪の斬撃を飛ばした。防具がある箇所は無事だが肌が露出しているとこは切り裂かれる。
そして巨大狼は俊敏の動きで突っ込んでオーク達を噛み砕くが、オーク達も負けじと巨大狼を武器で反撃して倒していく。
亜人側は軍隊のように、そして魔獣側は単純な戦闘力で押し切ろうとしている。
「まぁ、これほど美味しい狩場はないか」
俺は両手から球体作成で魔力を放出して竜の息を吐き出す。炎を魔力で包みこんで巨大な炎の球体を創った。
そしてそれを争い合っている軍勢の中心へ放った。
すると魔物たちが全員炎の球体を見て、各々スキルを放った。
黒獣は爪の斬撃を、巨大狼は衝撃力のある咆哮を、ゴブリンとオークは氷の魔法を炎の球体に飛ばした。
まず爪の斬撃で形が崩れ、魔力と混ざり火力が増した炎は咆哮で勢いが弱まり、そしていくつか飛んできた氷塊が炎を掻き消した。
「ハッハッハ!なるほど、この程度じゃ無理か」
俺は軍勢から少し離れて地面に降り立つ。そして竜擬きを使用して人型の竜の姿となり、戦斧を取り出した。
「さて、どれぐらいやれるかな」