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第40話 情報

《佐藤ヒロキ視点》


「それで、その方は異世界の住人なんだな?」


「ああ。そうらしい」


どこか疲れた様子のサツキに返事をする。

当の本人であるゼノデウスは楽しそうにそれを見ていた。


「それじゃあゼノデウス殿に聞きたいのだが、この世界で引き起こったことに何か心当たりはあったりはするのか?」


「私は最高神クラスの何者かが引き起こしたってことぐらいしか分からんよ」


「…それじゃあ、この事態を収束させる方法には?」


サツキの問いにゼノデウスは考え込んだ様子で少し黙る。

そして喋り出した。


「まぁ、創造神が行動に移せばあるいは…と言いたいところだが、この異常に創造神が動かないわけがない。

おそらくは、創造神が住まう天界でも何かがあったのだろう。

ただまぁその前に、貴様らはもっと強くなったほうが良い。

天界に影響を及ぼすレベルの敵が現れたところで殺されて終わりだぞ、お前ら」


「それもそうだな」


ゼノデウスのその言葉に俺は頷く。


「まず生物としての格を上げていって進化をしなければ話にもならん」


「進化?まだ進化するのか俺達は」


「ん?あぁ、この世界には元々魔物がいないのだったか。まぁいい、説明してやる。

まず魔物とは世界に魔素を循環させるための生き物だ。この世界ではモンスターと呼ばれているんだったか?」


突如として始まった重要そうな話にサツキはメモとペンを取り出してメモしていく。


「魔物は死んだら魂が豊富な魔素へと変わり世界に広まる。

そして魔物の死から発生した魔素はまた集まり魔物となる」


「だとすると、魔物が死ねば死ぬほど魔物で溢れかえることになるのか?」


「それはない。なぜなら魔物を殺した生物に魔素の一部が魂に吸収されるのと、人種の魂は魔素になることなく冥界に送られるからだ」


「冥界…随分と色んな世界があるな」


サツキはスラスラとメモを書いていく。


「続けるぞ。魔素は魂を成長させる。そして魂の格が上がると肉体がそれに合わせて強力な肉体へと進化させるのだ」


「なるほど、つまりあのアップデートは全人類の魂の格を上げたことになるのか?」


俺がそう言うと、ゼノデウスは首を縦に振る。


「そうなるな。だが本来なら人間が悪魔なんぞに進化することはありえん」


「そうなのか?」


「ああ。我々は進化をしていない素の生き物のことを"根源生物"と呼んでいるのだが、悪魔と人間はその根源生物なのだ」


「ほう…根源生物が根源生物へ進化することは無いということか」


「そうだ。時々人間が魔物のような姿に進化してしまうことはあるのだがな」


サツキはメモを取りながら質問をする。


「しかし、それだとMPが魔素ということになるのか?」


「おそらく、この異変を引き起こした者がそういうものに作り変えたのだろうな。

……そう考えると、異変を引き起こしたにしては妙に親切すぎる作りな気もするが、まぁいい。

とりあえずはそれよりもやるべきことが他にもあるだろう」


「そうだな……そういえば、平原はどうだった?ヒロキ」


サツキがふと思い出した顔をして聞いてくる。


「途中でゼノデウスと遭遇したからそこまで奥には行けていないのだが、強力そうなモンスターがわりといたな。

まぁ端の方に町を作るのなら問題はないだろう」


「そうか、計画に変更は無さそうだな。

ゼノデウス殿、また後日色々と質問しても良いか?」


「ああ。もちろんだとも」


「それじゃあよろしく頼みます」


サツキがそう言って去ろうとすると、立ち止まり振り返った。


「…あぁそうだ、眷属化のことなんだが、老人と精神的に不安定な者以外には極力使わないようにしてくれ」


「ん…あぁ、危険視してるのか。分かった、眷属達にも伝えておく。アリーナにいる者にはサツキから伝えてもらっていいか?」


「ああ。分かった」


そうして話し合いは終わり、サツキは去っていった。

ゼノデウスは去っていくサツキを見ながら少し笑う。


「なかなか良い人間もいるじゃないか。強さもなかなかだ」


「まぁ八咫烏のリーダーになるぐらいだからな。飯でも食うか?」


「お、良いのか?ちょうど腹が減ってきたところだ」


そうして、帰ってきた眷属達にゼノデウスを紹介したり、軽い歓迎会をしたりして日は過ぎていった。





次の日

ビルのフロントにサツキ,ワタル,ソウスケ,マリン,ヤヨイが集まっていた。

ヤヨイはゼノデウスに殴りかかったが、片手で軽々しく受け止められて萎えていた。


「鬼と仙人、魔女に人狼か」


「それじゃあ、まずは種族のことについて教えてもらっていいか?」


「ああ。あっちでは人間が20歳になることで勝手に進化することになる。そして進化する種族はバラバラだ。

一番多いのがハイヒューマン、次にエルフ,ドワーフ,獣人だな。

しかし、時折やけに強力な種族が生まれる。それが特異種族だ」


今回はサツキの代わりにワタルがメモをしていっている。


「特異種族は他と比べて生物としての格が高くただ単純に強い。

そして次に魔物のような姿に進化してしまう者もいる。あっちでは魔人と呼ばれていたな」


ほう、奇しくもこちらと同じ呼び方だ。


「ふむ…悪魔はどういう種族なんだ?」


「悪魔は神々との対になるように創造神が創り出した種族だ。神々が堕落しないよう脅威となるような種族となっている。

ついでに言っておくが創造神と他の神々は完全に別物だと思っていてくれ、創造神は完全に別格だからな」


「神はそっちの世界でどのような種族となっているのですか?」


ワタルが手を止めて質問する。


「神は下界を観察して、秩序を保つ役割を担っている。創造神が創った下界はひたすらに広いからな。

強さはもちろん、存在そのものが特殊で普通の生物とは根本的に異なる」


ゼノデウスは淡々と語りながら、ワタルの手元をちらりと見た。ワタルは夢中でメモを取っている。


「なるほど…では、創造神は?」


サツキが腕を組みながら問いかける。


「創造神は全てを創り出した神だ。世界を創造した神ということで創造神とは呼ばれているが、本当の名前は誰も知らん」


「…俺達はまだ進化できると言っていたが、魔物も進化するのか?」


ソウスケが顎を撫でながら言う。


「もちろんだとも。魔物の知能は獣と同等だが、進化していくことで知性も獲得して強力になっていく。

つまり、どういうことか分かるか?」


「…より魔物が強力に、か。平原にいるのは出てこないのか?」


「平原のほうが餌が豊富にあるからな。平原から出てくるのは勢力争いに負けた魔物ぐらいだろう」


「つまり、今のところ俺たちが戦ってる魔物は比較的弱い個体ってことか」


サツキが腕を組みながら言うと、ゼノデウスは頷いて肯定する。


「だからより強くならなければ、ということだ。

現在ここに人が集まってきているのだろう?ならば人がいなくなった場所で魔物が争い合い強くなっていくぞ」


「…異変の解決だとか言ってる場合では無いな。

それじゃあ、この世界に現れた地について教えてくれないか。

とりあえずは、石造の遺跡群にある迷宮だ」


「ふむ、その前にヒロキ、ちょこれーとと水をよこせ」


「……まったく」


俺は板チョコとペットボトルの水をやる。ゼノデウスはチョコを美味そうに食べ、水を飲んで喋り出す。


「うむうむ……迷宮だったか。迷宮は中に小規模な世界を創って外に魔素を排出するものだな。もちろん魔物もいる。

石造の遺跡群だと、たしか鉱山の迷宮だったか?うろ覚えだな」


「次は、平原規模の全てが大樹の大森林だったか」


「ほう!それはおそらくアルカヌム大森林だな。強力な魔物が多いが、中央にはエルフの王国があるぞ」


ゼノデウスが少し驚いたように言う。


「そこはエルフの王族であるライトエルフとエルフの上位種であるハイエルフ、そしてエルフが住まう国だな」


「人間はいないのか?」


「いないぞ。エルフの国は鎖国的でな。大森林にいる魔物も強力だから近付く者すら少ない。それとエルフとエルフの間にはエルフが生まれるからな」


「なるほど…次はまた平原規模の集合墓地だな」


サツキがそう言うと、ゼノデウスが険しい顔をする。


「それは下界史上最大の戦争で死んだ者達の墓地だ。

あまりの死者数に膨大な数の魂が冥界の入口を創ってしまった場所でな。常にアンデッドで溢れかえっている。

また面倒な場所も飛ばされてきているな」


「何か、数多のアンデッドが光によって滅ぼされたという話もあるが…」


「ふむ?どこぞの神も転移されてきたのかもしれんな。

あそこは定期的に浄化しなければ次々とアンデッドが溢れ出てくる面倒な場所だが、神がいるなら定期的に浄化してくれるだろう。たぶん」


「…そういえば、ゼノデウスの元の種族は何なんだ?」


俺がそう聞くとゼノデウスは顎を触りながら首を傾げる。


「神だな。封印されてから神としての役目はしていないのだが」

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