サツキによる演説が終わった後、八咫烏(旧 自衛隊)の指揮のもと、アリーナとその付近に人々が居住するための瓦礫撤去と掃除等が始まった。
眷属達と俺は八咫烏の戦闘員達と共に周囲の警戒をしていた。
演説を聞いた人々は意欲的に動いている、サツキも人々と共に動いていたのも大きいだろう。
俺が影の小鬼を使おうかと聞いたら、サツキは「今は共に行動して団結力を高めるのが最善だ」と言い断られた。
それと、ついでにサツキから人化のスキルの書を1つ貰い人化のスキルを獲得した。
特に今の姿に不便を感じたことは無いので普段使いするつもりはないが、とあることで必要になるから獲得しておいた。
しばらく作業が続き、アリーナの中にひとまずの居住できる場所が出来上がった。
天井や床はあまり破壊されていなかったのがデカいな。
そしてアリーナ入口周辺とアリーナへ侵入できそうなところには土魔法で岩の壁を創りバリケードを作っていっている。
ある程度の作業が終わると、八咫烏の実力がある者達で俺達が拠点にしているビルの1階に集まることになり、俺は眷属達と共に一足先に向かっていた。
ビルに入ると、すでに長身美女が待っていた。
「早いな。名前は何だったか?」
「私は黒木マリンです。ヒロキさん」
黒木マリンといえば、掲示板で何回か見たことがあるな。緑区避難所の人間だったか。
「掲示板で何回か見かけた名前だな。
あぁ、ハルカ,カレン,カイ,ライト以外は上にいって休憩してきて良いぞ」
「「「はい!」」」
そう言うと名前を呼んだ者以外は2階に上がっていった。
「…ハーフデーモンでしたか。大した魔力量ですね」
「ん、分かるのか?」
「はい。私はこう見えて魔女という種族でして、分かりますよ。ヒロキさんの膨大な魔力量も」
魔女か…仙人といい何でもあるな。
「魔女だったら魔法が得意なのか?」
「はい、魔法特化ですね。それよりも、ヒロキさんは魔力の応用方法を知っていますか?」
「ああ。お前も知っているのか」
俺は右手を上に向けて少しだけ炎を出し、左手から緑変色で魔力を放出する。
すると炎が緑色に変色した。
「わぁ!綺麗ですねぇ」「凄いです!」
場に残った眷属達がパチパチと拍手する。
「こんなもの遊びみたいなもんだ」
「変色…ですか。なるほど、やったこと無かったですね」
マリンも炎を少し出して色を変えて遊ぶ。
「持っているスキルは火魔法だけか?」
「いえ、あとは水,雷,氷ですね。全部初期スキルです。
スキルの書は結構ドロップしたのですが、魔法系は落ちず」
「ほう、初期スキルなのか。確かに魔法系はあまり落ちなかったな」
「あまり…?何か持っているのですか?だとしたら私が持っているスキルの書と交換しませんか?物によっては良いスキルの書あげますよ」
「お、おぉ…随分魔法が好きなんだな」
俺はアイテムボックスからスキルの書を出す。
「これは光魔法だ。欲しいか?」
「光ですか…!凄く欲しいです!」
「くれてやるのは構わないが、何か良いスキルの書はあるのか?」
「そうですねぇ…」
マリンはしばらくアイテムボックスを眺めると、1つのスキルの書を取り出した。
「ぐぅ…おそらくはレア物のスキルの書なのですが、まぁ私には合わないものですし。これでどうでしょうか」
「ふむ?」
マリンから手渡されたスキルの書を受け取ると
それは"竜擬き"という体を竜の姿に変化させるスキルだった。
魔力量以外のほとんどが上昇するスキルだな。それも時間制限すらないようだ。
「恐らくだが、かなり強力なスキルだぞ。これ」
「ええ。とは言ってもそれ、近接戦闘する人のほうが活かせるでしょう?」
「…それもそうか。使うかは分からないが、ついでにこれもやる」
俺は竜擬きを使用して獲得し、アイテムボックスから鉄蜘蛛召喚を取り出して光魔法と一緒に渡した。
「召喚スキルですか。いいですね、ありがとうございます」
「俺も有用なスキルを手に入れた。しかし、これで竜関連のスキル2つ目だな」
「そうなのですか?」
「ああ。他に竜の息というスキルが……おっと、来たようだな」
サツキやヤヨイ、ソウスケと十数人がやってきた。
「すまない。待たせたな、それじゃあ今後の方針について説明する。ワタル」
「はい」
サツキがそう言うと、狼人間が渋い声で返事をして出てきた。前サツキが言っていた人狼だな。
「元自衛隊の方は知っているでしょうが、私は一之瀬ワタルです。サツキの弟になります」
そう言って礼儀正しく腰を折って頭を下げた。
サツキの弟だったんだな。
「まず、ここは他の地域から多くの人々が集まるための仮拠点でしかありません。
最終的な目標は平原に町を作ることになります」
「平原に町を作るのは資源のためかい?」
ソウスケがサツキに問いかける。
「はい。広大な森や山、川などをこちらで確認しております。農業に最適な土地もありますので、最終的にはあちらに町を作るのが最善だろうと考えております。
なのでまずは、八咫烏に加わりたい人々をここに集まってもらい、そして非戦闘員の育成が最優先となります」
各々が頷くのを見ると、ワタルが続けて話し出す。
「ドワーフ、エルフ、獣人の方々にはなるべく戦闘員になっていただく方向で進めたいと考えています。
ハイヒューマンの方々には望む人以外には生産者と技術者になっていただきます。
そして動くのが厳しいご老人で意欲的な方々には…ヒロキさん、ハーフデーモンになることで若くなることは可能ですか?」
「まだ試したことがないから分からんな。1人やる気のあるご老人を連れてきたらどうだ?そこの仙人でも良いし」
「バカ言うんじゃねぇよ」
ソウスケがクツクツと笑いながら言う。ワタルは顎に手を置いて考える。
「そうですね。1人心当たりがありますので、連れてきます」
そう言うとワタルは歩いていき、しばらくすると男の老人を連れてきた。体が枯れ木のように老いぼれてはいるものの、眼光は鋭い。
老人はワタルに顔を向ける。
「それで…悪魔になるんだったか」
「ええ。ヒロキさん、お願いしていいですか?」
「ああ」
俺は老人の前まで行く。
「まずメリットとデメリットを説明する。
メリットはステータスの攻撃と魔法が上昇し、身体能力が向上する。それと暗視ができるようになり、排泄をしなくなる。
デメリットは俺の命令に逆らえなくなることと、危害を加えることもできなくなる。
そして獲得したMPの10%が自動で俺に回収される」
説明が終わると、赤い魔法陣を床に展開する。
「この上に立てば眷属化が開始して悪魔になる」
「お前は、人を従えて、悪事を働くか?」
老人が鋭い眼光をこちらに向けて問いかけてくる。
「それは無い…と言っても信じられないか?まぁわざわざ人を従えるぐらいなら自分でやるさ」
「ふむ……まぁいいだろう。どっちみち、選択肢はない」
老人はそう言うと、腰を曲げながら短い歩幅で歩き、魔法陣の上に立った。
そして眷属化が開始する。
老人の肌が灰色になるのと同時に、若々しくなっていく。
そして黒い捻れた角が生え、瞳が金色に変化した。
老人だった者は曲がっていた腰を真っ直ぐにする。
そして自身の手のひらを見つめる。
「どうだ?生まれ変わった気分は」
「ああ…懐かしい、生きている感覚だ」