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第34話 一之瀬サツキ

ヤヨイは自分が引き連れてきた避難所の人達の元に戻り、サツキも新都心へ一足先に戻った。

サツキは跳躍強化と空歩を使いこなしていたな。

ソウスケと共に眷属達が金属蜘蛛と戦闘していた場所まで戻ると、眷属たちは金属蜘蛛のドロップ品を回収していた。


「ヒロキ様、お疲れ様です!」


ハルカが駆け寄ってきて、俺の様子を確認する。


「ご苦労だったな。こっちは問題なかったか?」


「はい!残りの金属蜘蛛は全部片付けました。デカいのを相手しなくて済んだので想像してたよりも楽勝でしたね!」


「ウォン!」


ライトが誇らしげに吠える。

雑魚ばかりだったとはいえ、これだけの数を殲滅できたのは大したものだ。


「スキルの書も落ちましたよ!」


カレンが1つのスキルの書を渡してくる。

それは"鉄蜘蛛召喚"という、まさかの金属蜘蛛を召喚して戦わせることもできるスキルだった。

俺はそれをアイテムボックスにしまう。


「よし、十分だな。そろそろ戻るぞ」


「「「はい!」」」「ウォン!」


俺たちは戦利品をアイテムボックスに入れ、新都心へと向かい歩き始めた。

歩きながら、俺は隣を歩くソウスケをちらりと見る。


「そういえば、避難所の人達の護衛は大丈夫なのか?」


「ん?あぁ、もう自衛隊の連中もだいぶ集まってるからな。この前レベルの襲撃でも無い限りは大丈夫だろうよ」


「なるほどな」


談笑しながら歩いていき新都心駅を通りかかると、広々としたホームが人で賑わっていた。しばらく見なかった光景だ。

彼らの周囲では自衛隊と各避難所の戦闘員たちが周囲を警戒しながらも会話している。


すると先に着いていたサツキが小走りでこちらにやってきた。


「やっと来たか。こっちに来い」


「おお?」


「なんだ?」


そう言って俺とソウスケの腕を引っ張って群衆の前に連れて行く。

そこにはヤヨイと初めて見る身長の高い美女もいた。


「皆、こちらへ注目してほしい!!」


サツキが力強い声でそう言うと群衆がこちらに向く。


「まずここまで無事に辿り着き、こうして集まれたことを喜ばしく思う。

まだまだ集まるだろうが、とりあえずここにいる者達へ言っておく。

我々、自衛隊は解散することにした」


「え…?」「どういうこと…?」


群衆から困惑した声が聞こえてくる。


「皆も知っている、あるいは目撃しただろう。

人を襲うモンスター。人から略奪する人。

現在、もはや国も法律も機能しなくなり、自衛隊としての役割を果たす意味は薄れている。

だからこそ!新たなる秩序を作るために導きの神である"八咫烏"の名を借りて、八咫烏という組織を立ち上げる!!」


サツキの宣言に、群衆のざわめきが一層大きくなる。

各避難所の戦闘員たちは納得したように頷く者もいれば、困惑した表情を浮かべる者もいる。


「新たな秩序って…?」「結局、何をするんだ?」


そんな声がちらほらと聞こえる。

サツキはそれを予想していたのか、少し間を置いてから話を続けた。


「八咫烏の目的はモンスターの脅威に対抗し、人類の生存域を確保することにある。

皆、今まで不安だっただろう。また、いつ襲われるかも分からないモンスターの脅威に。

だが、ここにいる者たちを見るといい」


そう言いサツキは俺やソウスケ、ヤヨイと美女の方へ顔を向ける。


「今、そこにいる者達は人類の中でも最上位にいると言っても過言ではない実力者達だ。

そして、各避難所を守り抜いてきた戦闘員たちもいる。埼玉周辺にいる自衛隊の仲間たちも次々と避難民を引き連れてここに集まるだろう!」


どことなく、群衆の目に希望が宿ったような気がした。


「だが、それでもあらゆることで人が足りない。

おそらく人がいなくなった地域では、駆除されることが無くなったモンスターで溢れかえり、またいずれここも脅威に晒されることになるだろう。

戦う者、そして戦う者を支える者、もはや何もしない者を支える余裕は無いと言っていい。

だからこそ!諸君らにも八咫烏に加わってもらいたい!!」


サツキは畳みかけるように叫ぶ。


「何だって良い!!諸君らが出来ることは我々が見つけてやる!!そして、人類が再び安心して過ごせる地を

『我々の手で創り出そうではないか!!!』」


「「「ワァァァァァァァア!!!」」」


群衆から大歓声が溢れる。中には涙さえ流す者も多くいる。


俺の中に突如高揚を感じたことで疑問に思い、あることに考えついて口角を高く上げた。


(こいつ演説の最後に、精神に影響を与えるスキルか戦技を使いやがったな)


中々に手段を選ばないやつだ。

サツキに目線を向けると、バレることが分かっていたのか目が合って、不敵に笑った。

ソウスケやヤヨイ、美女も呆れた顔を向けている。


しばらく、演説による群衆の歓声は辺りに響き渡っていた。


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