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第33話 鬼

《佐藤ヒロキ視点》

次の日、起床した俺は千里魔眼を使用して金属蜘蛛の巣を特定した。

アリーナから少し離れているビルを巣にしていて、良いMP稼ぎになるので眷属達も連れて行くことにした。


「それじゃあ、金属蜘蛛の巣を潰しに行くぞ」


「「「はい!」」」「ウォン!」


もちろん眷属にした黒獣、ライトも一緒だ。

金属蜘蛛の巣があるビルまでは徒歩で30分ほどの距離だ。

ビルに近付くにつれ、金属蜘蛛に襲われる回数が多くなる。

今回の金属蜘蛛の巣を潰すのは眷属達にやらせる。もちろん危なくなったら手助けはするだろうが、金属蜘蛛程度だったら大丈夫だろう。


しばらく歩くと巣のビルに到着した。200匹以上は確実にいるように見える。

元々は1階がガラス張りで覆われているようなビルだったようだが、今では割れてしまい空気の通りが良さそうだ。


まずハルカが土の傀儡を使用して、人間ほどの大きさのゴーレムを次々と召喚していく。

そしてレンが炎の球体を創ってビルに放った。するとビルの中が大騒ぎになってわらわらと金属蜘蛛が出てくる。

金属蜘蛛が眷属達に気付いて襲いかかりに来る。


「迎撃しなさい!」


そうハルカが命令すると、集まったゴーレムが金属蜘蛛に襲いかかった。そしてハルカは白宝玉の杖を振り上げ、全員に白の加護を付与する。

ゴーレムたちは鈍重ながらも力強く、次々と金属蜘蛛を叩き潰していく。

だが金属蜘蛛も負けじと次々とゴーレムを破壊していき、眷属達に迫ってくる。

そしてハルカが戦の咆哮を使用して叫ぶ。


「皆油断せずに殺しますよー!!」


「おう!」「はい!!」「ウォン!」


各々返事をして本格的な戦いが始まる。

カレンがメイスを振り上げ、先陣を切った。

その一撃で金属蜘蛛の胴体がひしゃげ、甲高い金属音が響く。

カイは疾風脚を発動し、目にも止まらぬ速さで金属蜘蛛の関節部分を的確に切り裂いていく。


一方でライトは獣の本能を剥き出しにし、金属蜘蛛の一匹に飛びかかると、強靭な顎で金属の甲殻ごと食い千切った。

次々と噛みちぎる様子を見て、他の蜘蛛たちが警戒するように足を引きずりながら後退する。


ハルナの魔法によって、光の槍が空中に出現し、それが一直線に飛んで金属蜘蛛を貫く。

貫かれた蜘蛛はその場で動きを止め、光に包まれて消えていった。

俺はしばらく戦況を眺めていたが、眷属たちが優勢なのを確認し、ビルへ視線を向ける。


(まぁ女王がいるよな)


ビルの中にはこちらの様子を伺っている一際大きい女王がいた。前に遭遇したのよりもデカいな。

眷属達が数を減らしていくと、戦況が悪くなったのを察したのか、女王が俊敏な動きで逃げ出していった。


「あ、でっかいのが逃げた!」


「あいつは俺が仕留める!お前らは残党を殺しておけ」


「「「はい!」」」「ウォン!」


俺は飛び上がって逃げ出した女王を追いかける。

女王は建物を利用して頻繁に曲がったりして、追跡を振り切ろうとする。


(走ったほうが良いか?)


そう考えていると、また曲がり逃げようとした女王が急に止まった。

何かと思ってみると、そこには3mはありそうな2本の角を生やした赤黒い肌の女がいた。後ろには60人ほどの人がいる。

するとその鬼が金属蜘蛛の女王に急接近して拳骨のように殴る、そして女王の金属の甲殻が潰れて死んだ。


(大した威力だ。春日部避難所を仕切っている宮本だったか?)


俺は降りて声をかける。


「すまん、押し付けてしまったな」


「いえいえ、仕方ないですよ〜。あれぐらいなら別に怪我することもないですし」


ふむ、思っていたよりも温厚なようだ。


「自己紹介がまだだったな。俺は佐藤ヒロキだ」


「私は宮本ヤヨイです〜よろしくお願いしますね」


「ああ。ヤヨイも新都心へ向かっているんだよな?」


「はい!ちょうど向かっていたところで……」


そこまで言うと、ヤヨイがピクッと動きを止め鼻をヒクヒクと動かす。そして身体中の筋肉が膨張していき、蒸気のようなものが身体から出てくる。

すると後ろのドワーフの男性がヤヨイの腹に抱きついた。


「ちょちょ、ヤヨイさん!まずいっすよ!!モンスターじゃないんすよ!?」


「うん?でもヒロキさん凄く"強者"の匂いがするんだよぉ」


「そういう問題じゃ…!」


ヤヨイは抱きついているドワーフの男性の腕を掴んで容易く拘束を解く。

俺は念の為に威力減衰で両腕に魔力を集中させておく。

ヤヨイはゆらりと動き、そして強く踏み込んでアッパーを放ってきた。

即座に威力減衰の効果が乗っている両腕で防ぐが、強い衝撃と重みのある攻撃にふっ飛ばされる。そして数十mふっ飛ばされて建物の壁に直撃した。


「ゴハッ…!」

(威力減衰をしてもこの威力か…!)


そして恐らくだがあの女、戦技を知らない。つまり素でこの強さなのだろう。

するとヤヨイが走ってこちらにやってきた。


「ごめんなさいぃ!大丈夫ですかぁ!」


そう言いながらヤヨイは腕を振って殴りかかってきた。

俺は腕を避けつつ右足に衝撃強化で魔力を集中させて、前蹴りを腹に食らわした。


「アハァァァァ…」


ヤヨイは嬉しそうな顔をして吹っ飛んでいく。


(まったく、面倒なやつに絡まれたな)

「あのバカ女が…」


俺は跳躍強化でヤヨイの元まで跳ぶ。

まだ吹っ飛んでいるヤヨイに貫通強化で腹にストレートを放った。拳が腹筋に深く食い込む。


「いったぁぁい!」


そう言いながらもヤヨイは嬉しそうな顔をする。


(……面倒なタイプだな)


拳がめり込んでいるのに、まるで楽しんでいるような表情。

力と戦いを好む戦闘狂、鬼という種族によるものか。


「ヒロキさん、すっごく強いですねぇ…!」


吹っ飛びながらもヤヨイは興奮気味に叫び、空中で体勢を整えて地面に着地する。

着地の衝撃でアスファルトがひび割れる。


「いやぁ、ワクワクしますねぇ」


ヤヨイは無邪気な笑みを浮かべながら、拳を握りしめる。

さっきの攻撃で効いているはずなのに、まるでダメージを気にしていない。


(耐久力が異常に高いな。鬼の種族特性か? それとも単にこいつが異常なだけか)


ヤヨイは拳を振り上げて突進してきた。

そのスピードは速いが、まだ対応できる範囲だ。俺は後ろにステップして避ける。

ヤヨイの拳は俺の前で空を切り、そのまま地面に叩きつけられた。アスファルトの地面にクレーターが出来上がる。

俺はヤヨイの顔に膝蹴りをいれた。


ヤヨイは仰け反ることもなく、腕を振りあげた。それを見てすぐさま飛行強化で翼を羽ばたかせて飛び上がる。

するとヤヨイは跳び上がって接近してきた。俺は拳を振り下ろす。だがヤヨイはそれを片手で受け止めて掴み、俺を振り投げた。


どうにか上空で体勢を立て直して着地すると、迫ってきているヤヨイに対して竜の息を放つ。

ヤヨイは迫りくる炎を見て、肺を膨らませて息を吸い上げ、そして吐き出した。

辺りに突風が巻き起こり、炎が掻き消えていく。


(ただの息で炎を消すとか、とんだおもしろ人間、いや鬼か)


ヤヨイがにこやかな表情で拳を振り上げて迫ってくる。


俺も同じようにヤヨイに迫り拳を振ると、間に入った何者かに拳を受け止められた。


「これこれ、俺を差し置いて戦っているとは何事だ?」


「ヤヨイもそれまでにしておけ」


ソウスケが俺の拳を受け止め、サツキがヤヨイの一撃を受け止めた。


「あれ、サツキだ。もうこっちに来てたんです?」


「ああ。そしたら戦闘音が聞こえたから見に来たら、戦っているお前らが見えたからな。どうせお前が仕掛けたんだろう」


「アハハ!バレちゃいました」


ヤヨイはイタズラがバレた子供のように笑う。


「お嬢ちゃん、横取りはいけないぜ。ヒロキとは俺が先に約束してたんだ」


「こういうのは早いもの勝ちなんですよ。お爺ちゃん」


ソウスケとヤヨイが向かい合う。サツキが2人の頭を叩いて落ち着かせた。


「はぁ…何はともあれ新都心に戻ろう。眷属達を待たせているんだ」


妙に疲れたが、とりあえずヤヨイとの戦闘はこれで終わった。

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