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第32話 魔女

《白木サクラ視点》

「ふわあぁ…アイリさん、寝ていいですか」


「暇だからダメ。話し相手になりなさい」


運転をしているアイリさんにそう言うが、断られる。

走る車の揺れに眠気を誘われながら、僕は外の景色を眺めた。


「あーあ、ヒロキ様は今頃新都心なんだろうなぁ」


「あんた口開けばヒロキさんのことばかりね」


「アイリさんだって気を抜けばユウトさんのことばっかじゃないですかぁ。最近付き合いだしたからって惚気ちゃってぇ」


「う、うるさいわね!」


アイリさんは顔を真っ赤にして怒る。神崎ユウトとアイリさんが付き合い出したのは自衛隊内では有名な話だ。

隙を見ては2人きりで付き合いたての学生のようにイチャイチャしてる。


「僕も早くヒロキ様とイチャイチャしたいなぁ」


「合流したあとならいくらでも出来るでしょう?」


「合流したあと…」


僕は合流したあとの約束したご褒美を思い出して、ショッピングモールでのご褒美を連鎖的に思い出した。

思い出すだけでも胸辺りに少し甘い痺れが走る。それほどにあの刺激は強くて、凄く気持ちよかった。

何より、ヒロキ様に気持ちいいことをしてもらっているという事実が凄くいやらしくて…


「ん…♡」


「ちょっと!隣でおっぱじめないでよ!?」


「いやだなぁ、さすがの僕でもしないですよぅ」


「どうだか…」


すると前方を走っていた車両が止まった。


『倒木だ。少し待て』


マサノリさんが無線をいれてきた。そしてマサノリさんが車から降りて、倒木を蹴り飛ばして退かした。


「あれは、衝撃強化かな?」


「ですねぇ」


障害物が無くなったことでまた走り出す。


「うーん、私も戦技覚えようかな」


「絶対覚えたほうがいいですよぅ。跳躍強化なんかは距離を取るのに最適ですからねぇ」


「そういえばサクラは最近戦技を練習してたわね。難しい?」


「別に難しくないですよぅ。体内の魔力をどこかに集中させて行動するだけですし。魔法のやつとそこまで変わりませんねぇ」


「へぇ…じゃあ、私でもできるかしら」


それにアイリさんは魔法スキル持ちだからそこまで苦戦せずに出来るはず。


「それこそユウトさんに手取り足取り教えてもらったらどうですかぁ?」


「…いいわね、それ」


アイリさんの口元が緩けてニヤケ顔になる。この人も案外単純な人だ。

すると、またしても前方の車が止まった。


『サクラ!倒壊した建物が道を塞いでやがる。頼んだ!』


「『はいはーい』それじゃ、ちょっと行ってきます」


「はいよ」


僕は車から降りて障害物があるところまで歩く。そこには倒壊した建物が車線を潰していた。

土魔法を使い、岩を人型にしていきゴーレムくんを創り上げていく。そしてゴーレムくんで大きな瓦礫を持ち上げて道の端に退けていった。

小さめの瓦礫はゴーレムくんで踏みつけて粉々にする。

仕事が終わった僕は車に戻った。


「おつかれさま」


「はーい『終わりましたぁ』」


『うーい、ご苦労さん』


そうしてまた走り出す。


「そういえば、何で土魔法でゴーレムを多用することにしたの?」


「想像しやすいし楽しいからですかね?あと普通に強いし」


「なるほどねぇ。私はハイヒューマンだからなぁ…やっぱりハーフデーモンになってから魔力量上がったの?」


「上がってますねぇ。元々エルフでしたから多かったんですけど、ハーフデーモンになってから魔力が切れかけることも無くなりましたね。

ハーフデーモンになっても、その前の種族特有のものが引き継がれるのがデカいですよ」


「うーん、やっぱハーフデーモンは良さそうね」


アイリさんが悩ましそうな顔をする。


「なりたいんですか?」


「そうねぇ…分かりやすく強くなるしなぁ」


「排泄しなくなるのも便利ですよー。それ関係の腹痛とかも無くなりますし」


「うーん、男性の眷属になるってのが抵抗感あるのよねぇ…女性の眷属さんに眷属にしてもらうのもヒロキさんに失礼な気がするし」


「ヒロキ様はそんな小さいこと気にしませんよぅ」


「それは、そうなんだろうけどねぇ…」


アイリさんは運転をしながら難しい顔をしている。

確かにアイリさんの気持ちも分からなくはない。

眷属になると命令に逆らえなくなる、ユウトさんと結ばれた今だと心象的には微妙ですよね。


「ま、ヒロキ様の眷属さんにハーフデーモンにしてもらうのが一番良いと思いますけどねぇ。なんだったら僕が眷属にしてあげますよ?」


「いやよ、何されるか分かんないし」


「ガチトーンで拒否しないでくださいよぅ…」


そんな話をしながら、車はスムーズに進んでいく。

倒木や瓦礫といった障害物はあったものの、今のところは大きな問題もなく目的地へ向かっている。


「あともうちょっとで魔女さんのいる緑区避難所ですか」


「そうね」


「おかしいですよねぇ、エルフだの仙人だの魔女だの」


「おかしいのは今更でしょ。こんな世界になってるのに」


「あはは!確かに。今日中には新都心にいけるかな〜」


僕は首のストレッチをしながら言う。アイリさんは少し呆れた顔でチラッとこっちを見た。


「別に来た道戻るだけなんだから今日中に行けるでしょ。障害物もないんだし」


「そうですねぇ、何事も無いといいんですけど…」


「ちょっと、フラグ立てないでよ」


そんなことを話しながら走っていると、何事もなく緑区避難所に到着した。全員停車させて降りる。

アイリさんは車から降りるとすぐにユウトさんの所へ行った。

緑区避難所は学校で、校舎の周囲には巨大な氷の壁のバリケードがある。

マサノリさんが氷の壁を見上げる。


「おぉ~、これは壮観だな」


「ですねぇ〜」


喋っていると、氷の壁が光となって全て消えた。

そして2mは越えてそうな身長で長い黒髪のグラマラスな女性を先頭に20人ほどの人々が出てくる。

マサノリさんがグラマラスな女性に話しかける。


「あーっと、黒木さんですかね?」


「はい。今日はよろしくお願いしますね」


そうして緑区避難所の住人たちが車に乗り込んでいく。

黒木さんは僕達が乗ってきた車の後部座席に座ることになった。若干狭そうだが我慢してもらおう。

出発すると僕は黒木さんに話しかける。


「黒木さんって凄い美人さんですよね!元々そうだったんですかぁ?」


「いえ、元々は芋臭い女でした。魔女になってからこうなりましたね」


「へぇ〜、魔女になるとそんな変化もあるんですねぇ」


黒木さんは涼しげな笑みを浮かべながら話す。妙に色気があるというか、雰囲気そのものが普通の人間とは違う。

なんとなくヒロキ様と纏う雰囲気が似ている気もする。


「魔女ってどんな特性があるんですかぁ?」


「まず魔力量が多いのと回復速度が早いですね」


「へぇ、スキルとかですか?」


「いや、スキルは関係なく種族特有のものです。獣人の方の嗅覚が鋭くなるのと同じですよ」


「はえ~、他にもあるんです?」


「あとは魔法を創るのが早いですね。それと魔法の威力が上昇する種族スキルと、初期スキルで火,水,雷,氷を持ってました」


「えぇ…すっごいチート種族ね」


アイリさんが思わず呟く。正直僕も同じ事を考えてたけど。


「その分、頼られることも多くて面倒ですけどね。だから期待しているんですよ。集合拠点に」


「あ~…でも黒木さんほど強かったらまだまだ頼られるかもね」


「そうでしょうか?

仙人の亜門さん

悪魔の佐藤さん

鬼の宮本さん

そして一之瀬さんがいれば充分そうですが」


「そこに"魔女の黒木"が加わるだけだと思いますよぅ」


すると黒木さんがガックリと首を垂れる。


「いやだなぁ、魔法で遊びたいのに……そういえばお二人は魔力で魔法に様々な強化をできるのをご存知ですか?」


「あー…」


車内に沈黙が流れる。ヒロキ様の他にも気付く人がいると思っていたけど…まぁ魔法特化の魔女だったら当然か。


「ごめんなさいね。それについてはあっちに着いてから話しましょうか。契約で喋れないのよ」


「契約…?あぁ、佐藤さんですか。さすがですね、彼とは良い魔法仲間になりそうだ」


「あはは…」


そんな談笑をして新都心が近付くと、何かが遠くから吹っ飛んできて建物に直撃し、辺りに轟音が響いた。

急いで全員降りて戦闘態勢になり、周囲を警戒しつつ飛んできたものを見ると、それはヒロキ様だった。


すると遠くから二本の角を生やし、赤黒い肌をしたヒロキ様を越える巨体の女性が走ってくる。


「ごめんなさいぃ!大丈夫ですかぁ!」


鬼の女性はそう言いながら拳を振り上げてヒロキ様に殴りかかった。

ヒロキ様は殴られる前に、鬼の女性の腹に前蹴りをいれて吹っ飛ばした。


「アハァァァァ…」


何故か嬉しそうな声をしながらふっ飛ばされる鬼、それを見ながらヒロキ様は苛立った顔をしている。


「あのバカ女が…」


そう言ってふっ飛ばされた鬼の方へ跳んでいった。

僕は思わず黒木さんと目を合わせる。


「「なにあれ?」」

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