目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第31話 火傷痕

2階の寝床を作り終わると、1階のフロントに、余っていたソファや椅子、テーブルなどの家具類を適当に置いていき、簡単な待機所が出来た。

眷属達は、ヒロキ様用の個室を作りましょう!と言い、2階の余っていた大部屋の1つが俺用の部屋となった。

大部屋の片方にデスクやらを固めていき、もう片方に色々と家具を置いていった。

正直1人で使うには広すぎるが…まぁ悪くない。


見張りは1階のフロントですることになり、いつも通り3人ですることになった。

そして一段落した俺達は1階で適当に晩飯を食べて、眷属達は眠りについた。


俺は拠点を新都心へ移したことを掲示板に書き込むことにした。メニューから掲示板を開く。


【埼玉避難所の現状について Part23】

ーーーーーーーー

227.斎藤ジン

俺達は明後日ぐらいには着きそうだな。


228.黒木マリン

結構早いですね。熊谷でしたよね?


229.斎藤ジン

ちょうど群馬の高崎から来ていた自衛隊と避難民がこっちに寄ってくれてな。

俺達も車を用意して一緒に同行させてもらうことにしたんだ。


230.飯村タケシ

俺達は明日出発する。線路歩いていくだけだし楽だな。


231.尾崎キイチ

大宮だもんな


232.伊藤サオリ

人数が多いから何気に面倒だけどね


233.佐藤ヒロキ

皆行動が早いな。

もうほとんどが新都心に向かおうとしているのか?


234.飯村タケシ

悪魔さんだ。たぶんそうじゃないですかね?


235.立川ハルト

ヒロキさんも近かったですよね?

明日には向かうんですか?


236.佐藤ヒロキ

いや、もう着いた

とりあえずアリーナ近くにある適当なビルを拠点にしたところだ


237.立川ハルト

誰よりも早いじゃないですか


238.飯村タケシ

そっちモンスターどんなもんです?


239.佐藤ヒロキ

程々にいる。

金属蜘蛛が多い印象だ。どこかに巣があるかもしれん。


240.飯村タケシ

あー、平原が出現したときに襲撃かけてきたやつの生き残りですかねぇ


241.尾崎キイチ

俺らも明日早朝から出発して昼過ぎぐらいには着くな


242.黒木マリン

私達も自衛隊さんたちが着き次第向かいますね。

明日にはこっちに着くって言ってたかな。


ーーーーーーーー


(明日には続々と来るようだな。軽く周囲のモンスターを片付けておくとするか)


そう思いながら眠りについた。





「敵襲ーーッッ!!!」


声量強化を使った眷属の叫びを聞き、一気に意識が覚醒し体を起こす。

大部屋を出ると、他の眷属達も行動を開始していた。

俺は一足先にフロントに行くと、見張りについていた3人が人型の獣、黒獣の群れと戦っていた。


幸いにもベテランのマヤが居たため、先陣をきって黒獣を鉄の剣で斬り裂いて殺していっている。

それでもまだまだ追加でやってきている、かなりの規模の群れみたいだ。

俺はマヤたちの前に出て、黒獣の一匹の首根っこを掴んで後方から迫ってきている群れに放り投げる。

すると他の眷属達も続々と降りてきた。


(眷属達だけでやらせてみるか)

「おい!お前達だけで対応してみろ!!」


「…! はい!」


近接組の眷属達が前線に出ると、ハルカが白宝玉の杖を取り出して掲げる。

杖の先端に着いている白い宝玉が強く光ると、周囲にいる眷属たちの体が淡く光る。

カイは虫人の姿になって短剣に毒を付着させると脚に風を纏わせると、目にも止まらぬ速さで黒獣を斬り裂いていっている。


(あいつ凶悪だな)


カレンは鉄のメイスで次々と殺していっている。

ドワーフ持ち前の力+スキルの怪力と強打で一撃一殺を実現している。

それにハーフデーモンでステータスの攻撃向上があるわけだからな。上半身に直撃してしまえば確実に致命傷だ。

攻撃強化の戦技を使用したときの一撃は俺の戦技を使用していない時の全力の一撃と並ぶほどだ。


ハルナとハルカは後方から援護をしている。

ハルナは光魔法を操り、宙に浮かぶ剣を創り出して操り、黒獣たちを斬り裂いていっている。

一方ハルカは土の傀儡を使い、次々と人間サイズのゴーレムを生み出して黒獣へ攻撃させていく。


(他の眷属達も協力して殺していっているな……ん?)


群れの後方に、体毛が妙に少なく、普通の黒獣よりも一回りも大きい黒獣が、仁王立ちして他の眷属達に目もくれずに俺を睨みつけていた。


(あれがこの群れのボスか……毛が少ないのではなく、あれは火傷痕か?)


すると群れは眷属達が殺し尽くし、残りはあのボスだけになった。

ボスはそれでもまだ、俺を睨みつける。

眷属達もその異様な雰囲気を纏っている黒獣に手を出せないでいた。


(ふむ…)

「…退け。奴は俺を指名しているみたいだ」


「は、はい」「ご武運を」


俺は眷属達を下がらせて前に出る。

黒獣のボスは唸り、自身の身体の筋肉を膨張させていく。


「グオ"ォォォォン!!」


そう野太く低い遠吠えをすると、膝を曲げて強く踏み込み突っ込んできた。

鋭い爪がある腕を振ってきたので、後ろに避ける。だが俺の胸元に4本の切り傷が付いた。


「むっ」


俺はボスを蹴り、吹き飛ばす。

黒獣のボスは数メートル吹き飛ばされながらも、地面を抉るようにして踏ん張り、なんとか体勢を立て直した。

その目はまだギラついていて、戦意が衰える気配はない。

胸元についた傷を一瞥する。


(斬撃を飛ばすスキルか…?)


魔法を使うモンスターだっているんだ。そういうスキルを持つモンスターがいても不思議じゃない。


「グルルル……」


黒獣のボスは鋭い牙を剥き出しにしながら、再び構えを取る。その全身からは、うっすらと蒸気が立ち昇っていた。


「グアァァ!!」


突如、黒獣のボスは驚異的な跳躍力で一気に間合いを詰めてきた。

爪を振り上げてきたので腕を左手で掴んで止め、右手で腹を殴りつけた。

黒獣のボスはまた吹き飛ぶが、踏ん張って止まる。だがダメージはあるようで口から血を流しながらも、俺を睨む。


(どこかでこいつの恨みでも買ったのか?しかし、火傷痕か)


思考を巡らせる。俺は戦ったモンスターを殺さずに見逃すことはまず無い。

手傷を負わせて逃げられたことも無いはず…


(火傷…火傷……あっ)

「思い出したぞ。お前家で物資収集していたときに襲いかかってきたやつだな。生きていたのか」


「…! あの時の…!」「何という執念…」


ゴブリンから助けた眷属達がハッと思い出した顔をする。あの時はこいつらも一緒だったからな。

たしかコイツは火だるまにしたはずだったが、生きていたみたいだ。


「グルルル……!!」


黒獣のボスは、俺の言葉を理解したかのように唸り声を上げる。

その瞳には憎悪が宿り、全身の筋肉がさらに膨張していく。

俺は腕を軽く回しながら、一歩踏み出す。


「ハッハッハ。気に入ったぞ犬っころ。お前は俺のペットにしてやる」


そう言い放った瞬間、黒獣のボスが地を蹴る。

今まで以上の速度で突っ込んでくる…が、俺も突っ込んでタックルをかまして黒獣のボスを地面に倒す。

そして両腕を殴って骨を折った。

俺は痛覚上昇で指先に魔力を集中させて、火傷痕から露出している肌をつまんで引き千切った。


「グオオオオオオオ!!」


暴れる黒獣の獣を押さえつける。時折、爪が俺の体を切るが、気にしない。

俺はまた同じように引き千切る。


「グオオオ!!」


押さえつける。

引き千切る。


「グオオォォ…!」


引き千切る。


「グオォ…」


引き千切る。


「…………」


黒獣のボスが大人しくなり、怯えた目で俺を見る。

俺は黒獣のボスの頭を撫でて、上から退いた。


「いい子だ。それじゃあ説明を始めるぞ」


理解しているかは分からないが、眷属化の説明をした。

そして赤い魔法陣を出現させる。黒獣のボスは理解しているかのように魔法陣の上に移動した。


すると黒獣の火傷痕から銀色の体毛が生えてきて、所々に生えていた黒い毛も銀色へ変化した。

そして瞳は金色になる。眷属化に成功したようだ。


「いいか。お前の名前はライトだ」


「ウォン!」


ライトは返事のように吠えた。ある程度は言葉を理解しているようだ。


「よし。ハルナ!傷を治してやってくれ!」


「あ、はーい」


ハルナはライトの怪我を治していく。

そうして黒獣の襲撃は終わり、各々後片付けをして、代わりの見張り3人を残して眠りについた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?