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第30話 ビル

自衛隊たちはある程度練習すると、さっそく他の避難所から人を集めに行くらしく、去っていった。

そして入れ変わりでモンスター討伐組も帰ってきた。

今日から新人達も加わったが、特に問題もなく順調に倒せたみたいだ。


そして眷属達に今後のことについて説明した。

拠点をさいたま新都心に移すこと。

さいたま新都心に埼玉県とその周辺の県から人間が集まること。

自衛隊が設立する組織、八咫烏に参加すること。

俺が八咫烏の幹部として迎え入れられることになること。


「まっ、ようやく安定した拠点が手に入るわけだな。それでもしばらくは大変だろうが。明日には新都心に向かうぞ。場所取りは早めにしとかないとな」


「はい!」「忙しくなりますね!」「ギギ!」


「それとカイ。こっちに来い」


「ギギ?」


カイが何だろう?とでも言いたげに首を傾げてこっちに来る。俺は人化のスキルの書を渡した。


「…! ギギ!?」


頭にスキルの情報が流れてきたのか、驚いた顔をこちらに向ける。


「ああ、プレゼントだ。使え」


そう言うと、カイはさっそく使い、そしてスキルを使用したのか全身に光を纏った。

そして光が収まると、そこには黒く捻れた角が生えた金色の瞳に灰色の肌のカイがいた。垂れ目で若干女顔だがかなりのイケメンだ。

てっきりハイヒューマンに変化するのかと思ったが、ハーフデーモンになったな。


「ふむ。分かっているとは思うがその姿だとステータスが少し下がるからな。気をつけ…」


「ヒロキ様!!」


「うおっ!」


するとカイが俊敏な動きで俺の腹に突撃して抱きついてきた。


「俺…!ヒロキ様に拾ってもらえて本当に嬉しくて…みんなも優しくて、今凄く幸せです!ずっと言葉にしたかったけど、無理で……うぅっ…」


カイはそう言いながら涙を流す。


「言葉にせずとも感謝の念は伝わっていたぞ。カイ。よく頑張ったな」


俺はそう言ってカイの頭を撫でる。カイは俺の腹を抱きしめながら涙を流している。


「うぅ…良かったですね…」「いかん、涙が…」


周りを見ると他の眷属達も涙を流していた。なんならカイよりも涙を流している者もいる。

しばらくこの状況が続いた。



カイは落ち着くと、真っ直ぐこちらを見て話す。


「俺、今よりもずっと強くなって、ヒロキ様のお役に立つように頑張ります!!」


「ああ。頑張れよ、カイ」


俺は手を叩いて指示を与える。


「それじゃあ、明日には新都心に向かうから寝具以外の私物は片付けておけよ」


「「「はい!」」」


カイは一緒に同じ返事ができて嬉しそうにしている。

そうして、移動のための準備を始めた。

俺は毒水とスケルトン達をどうするか考えたが、放置することにした。モンスターの住処にしづらくするためだ、決して面倒くさくなったわけじゃない。






次の日…

マットレスなどの寝具も回収した俺達は、ショッピングモールを出た。


「よし。それじゃあ、出発するか」


「「「はい!!」」」


とは言ってもそこまで距離はない。30分程度で着くだろうし、何ならずっと真っ直ぐ歩いていくだけだ。


「拠点はどこにする予定なんです?」


ハルカが首を傾げて聞いてくる。


「そういえば新都心のどこかは聞いてなかったな。まぁおそらくアリーナとその付近じゃないか?俺達はビルを拠点にしようか」


「わぁ、いいですね!」


とは言っても、精々使うのはフロントと2階,3階ぐらいだろうな。それ以上となると、さすがに上がるのが面倒だろう。


そんなことを考えていると、曲がり角から巨大猪が現れた。眷属達が武器を構える。

俺は戦斧を取り出すと、強く踏み込んで一気に間合いを詰めて、戦斧を振り下ろした。

〔MP +1129〕


ドロップした巨大な肉のブロックをアイテムボックスに入れる。


「凄い…」「つっよ」「さすがですヒロキ様!」


カイが少し過剰に褒めてくる。


「ほら、さっさと行くぞ」


「「「はい!」」」





しばらく歩き、アリーナ近くにまでやってきた。

少し前まではよく賑わっていた場所だが、すっかり荒れ果ててしまっている。


「それじゃあ……この辺りのデカいビルを適当に巡っていくか」


「「「はい!」」」


時々モンスターを遭遇して殺しながら巡ると、まぁどこも荒れていた。

だがビルというだけあって基本的にガラスが割れていたり、インテリア、内装が壊されている程度で形は保っていた。

俺はその中でもフロントが広々としているビルを選んだ、アリーナからも近い。


「さすがに広いですね〜」


「ああ。それじゃあ、とりあえず掃除と片付けだな」


そうして掃除と片付けが始まった。

俺は大量の影の小鬼を召喚して瓦礫や何かの破片を外の道路に運ばせる。影小鬼が運べないような瓦礫は念動力スキルを持っているミカに運ばせた。


念動力は動かせるのは1つだけで、生き物は動かせないがそこそこ重いものでも運べる、車程度だったら余裕だ。

感覚的には透明で巨大な手を操っている感じらしい。


道路に運んだ瓦礫はまた大量の影小鬼に、崩壊した建物がある場所へ運ばせた。

そして1時間ほどでフロントの大まかな片付けは終わった。

次は掃除だ。まずハルカが大量の水を放出すると、床を覆っていく。ハルカは放出した水を操り、埃と細かいゴミを外に流していった。


「さすがハルカ、便利だな」


「これくらいお手のものですよ!」


ハルカが自慢げに胸を張る。その後ろでは他の眷属達がモップで床に付着した水を拭き取っていっていた。

そして拭き終わると、フロントの片付けは終わった。


「よし、次は寝床にする2階だな」


「「「はい!」」」


階段から2階へ上がり、受付を通り過ぎると、そこはオフィスだった。

デスクや椅子が乱雑に散らばり、書類やパソコンが床に散乱している。だが窓がほぼ無傷で、かなり広いので寝床にするには十分な広さがあった。


「とりあえずデスクは廊下の空いてるスペースに積み上げていって、細かいのは後からだな」


俺は連結されてあるオフィスデスクを無理矢理壊して分離させていき、眷属達に廊下に運んでいってもらい、積み上げいった。

大きいものを全て運び終わると、影小鬼を大量に召喚して細かいものを廊下に運ばせていった。


床がタイルカーペットだったので、眷属達がほうきを使って掃除すると、4mほどあるブルーシートを何枚も敷いていき床を隠していく。

そしてその上にマットレスを置いていって、とりあえずの寝床の完成だ。

ハルカがそれを眺めて言う。


「見た目は完璧ですけど、空調が終わってますね」


「ああ。廊下の窓を割って風を通すか」


そう言うと、俺は大部屋を出て廊下の突き当たりにある窓を割り、反対側にある窓も割った。すると廊下に風が流れた。

雨のときは土魔法の岩か何かで塞いでもらうとしよう。


「とりあえず、2階は完成だな。一旦休憩にしようか」


「ですね~」「綺麗になったなぁ!」


そうして、俺と眷属達は各々休憩し始めた。

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