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第28話 友人

次の日

目を覚ますと、周囲には裸の眷属達がいた。


(…そうか)


俺はゴブリンから助けた彼女達と肉体関係を持ったことを思い出す。

彼女達を救ってから慕ってくれているのは分かっていたが、ここまで積極的に動くとは思わなかった。


(しかし……まさか水魔法をローションのように変化させるとは…)


しかも匂いも無い優れものだ。

俺の体に乗っかる眷属達の滑らかな女体が思い浮かぶが、頭から振り払う。

俺は日課の千里魔眼パトロールをしばらくやって、問題ないのが分かると立ち上がり、シャッターを開けて外に出た。

シャッターを下げて閉めると、俺は非常階段から外まで移動した。まだ早朝でだいぶ暗い。


俺はズボンとパンツ、靴を脱いで緑色のスライム液が入った瓶を取り出した。

スライム液は体に塗って擦ることで様々な汚れを取って綺麗にしてくれる。そしてミントのような爽やかな香りもするので、現在他の眷属達も積極的にこちらを使っている。

瓶もかなり大きく大容量なので一月は余裕で持つ。

ドロドロなスライム液を全身に擦り、黒毛で覆われている山羊頭も洗って2Lの水を取り出して流した。

体をタオルで拭くとズボンとパンツを履き直して、靴を履く。


俺は寝ている彼女達のとこまで戻りシャッターを開けた。

まだぐっすり寝ていたので起こす。


「おい、起きろ」


パンパンと手を叩いて声をかけると、眷属たちはゆっくりと目を開ける。

まだ寝ぼけた様子の者もいるが、俺の姿を確認すると顔を赤くして掛け布団を引き寄せる者もいた。


「お、おはようございます…ヒロキ様…」

「んぅ…もう朝…?」


「ああ。ひどい状態だから体を洗った方が良い。俺は屋上に行ってるぞ」


そう言うと眷属たちはマットレスから這い出て、後処理をし始めた。俺はシャッターを下ろして閉め、屋上に向かって歩きながら考える。


(さて、今日は物資集めの日か)


眷属達はモンスター討伐優先で、俺はまた適当なとこへ行く。

今日から新人たちも混ざることになるので、また分ける人数も変わりそうだが、まぁその辺はハルカ達に任せるとしよう。


屋上駐車場に上がると、いつも通り3人が見張りしていた。

その中のレンが笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「ふふふ…昨晩はお楽しみでしたな?」


「言うな」


「ハッハッハ。若いというのは良いものですね」


レンは高らかに笑いながら言う。


「あんたも、肉体的には若いだろう?」


「そうですね……まぁ私には先に逝った妻がいるので、他の女性に手を出したら、死んだ後にもう一回殺されてしまう」


そう言いながらレンの顔は楽しそうだった。


「良い人だったんだな」


「それはもう。幼い頃からの仲でしたから、お互いの性格も知り尽くしてました。最後は癌でポックリ逝ってしまいましたがね」


「……残されるのは、辛くなかったか?」


レンはしばらく黙ってから、静かに微笑んだ。


「辛くないと言えば嘘になりますが、最後に妻が微笑んで『先に行ってるよ』と言ってくれたんですよ。

おかげで死ぬことが、妻との待ち合わせに向かう出発のように思えましてね。

そう考えると不思議と、妻が遠くで待っていてくれている気が……いや、待ってくれているんでしょう。きっと」


レンの言葉には、どこか達観したような穏やかさがあった。


「なるほどな…」


俺は短く返す。

彼の考え方は、どこまでも優しく、"人間らしい"

空が明るくなり、見上げると日が昇り始めていた。


(俺は今、何を目指しているんだろうな)


そう思いながら、眷属達が集まるのを待った。




その後、眷属達が集まってモンスター討伐に向かった。

最終的にはハルカグループとカレングループに新人達が5人ずつ加わるようになり、残りの4人はショッピングモールに残って魔力応用の鍛錬だ。

俺はいつも通り、避難所がなく出来たこともない少し遠方の上尾に出向いて、スーパーやドラッグストアで物資集めだ。


だがいつもとは違い、今日の物資集めの効率は今までの比べて段違いだ。

何故ならハルカから"アイテムボックスにしまいたい"と想像しながら魔力を放出して、対象を魔力で包み込むとアイテムボックスにしまえると教えてもらったからな。俺は収納で想像している。

移動が速くなったのも相まって、物資集めの効率がとんでもないことになっている。


道中モンスターを狩りながら、飛行して次のスーパーへ向かっていると、やけにゴツいリザードマンがこちらを見ていた。

いつも通り上空から戦斧を振り下ろしながら、一気に飛び降りると、リザードマンは見覚えのある鉄の剣を腰から取り出して構えた。


(あれは、ショップの…)


俺は急いで振り下ろすのをやめると、リザードマンは降りてきた俺に対して剣を横薙ぎに振ってきた。

それをバックステップで避けると声をかける。


「お前、元人間じゃないのか?」


「! そうだ。お前もそうなのか」


「ああ。モンスターの方のリザードマンと見た目が近かったからつい攻撃してしまった。すまんな」


「いや、大丈夫だ」


俺は戦斧をしまう。

するとリザードマンはニヤリと笑みを浮かべて、鉄の剣を突き立てて突進してきた。


「ほう…」


「なっ!!」


俺は剣の腹を左手でつまんで突進を止めた。


「なるほど、この時期に1人で歩いている時点で疑うべきだったか」


「ち、ちげぇんだ!俺は避難所から追い出されちまって、それでっ!」


「俺と敵対した時点で言い訳は通用せんよ。ではな」


俺は攻撃強化で右手に魔力を集中させて、剣を手放し逃げようとするリザードマンの後頭部を殴り、地面に向けて叩きつけた。

ドォォォオオン!!

リザードマンの頭が潰れ、地面にクレーターが出来あがり、亀裂が広がった。リザードマンは体がビクンッと跳ねると死んだ。


〔MP +3200〕


血で濡れた手を振り払いながら溜息を吐く。


「まったく、リザードマンだったら眷属に欲しかったんだがな……そういえばモンスターは眷属に出来るのか?」


そう疑問に思いながらも、俺は物資集めを再開した。






3時間後…


物資集めが早めに終わり、ショッピングモールまで戻ると自衛隊の車両が停まっていた。


(ん、あいつら…もう来たのか)


屋上駐車場まで行くと、マサノリ、ユウト、サクラ、アイリなどの見覚えのある自衛隊員たちと見たことがない者達もいた。

マサノリたちも飛んでいる俺に気が付いた。屋上駐車場に降り立つ。

マサノリが手を振ってこちらに歩いてくる。


「よー!ヒロキ!」


「随分早かったな?」


「おう!真っ先に教えたい人がいてな!」


マサノリがそう言うと、1人の男が俺の前に出てきた。

そいつは黒髪をオールバックでセットしている日本男児らしいハイヒューマンだった。


「一之瀬サツキだ。何か、有用な技術を教えてくれると聞いたのだが」


「俺は佐藤ヒロキだ。戦技のことだな、まずは契約だ」


俺は契約のスキルを使用して紙とペンを出す。

契約内容は以前と同じだ。一之瀬がそれを確認する。


「ふむ、そこまでのものか。良いだろう」


一之瀬がフルネームを書くと、紙は燃えて消えた。一之瀬が書くと他の自衛隊員たちも書いていった。

それを見た俺は以前戦技を教えた自衛隊たちの方を向く。


「『こいつらに教えて良いぞ』」


「ん、おお…今のが許可になるのか。そんじゃ一之瀬さん、このマサノリが教えてあげますよ」


「あまり調子にのるなよ?」


一之瀬に睨まれたマサノリは両手を上げて笑う。一之瀬は魔法系スキルを持っていたらしく、魔力の扱い方も分かるため、すぐにマサノリが全員に説明を始めた。

マサノリが説明を始めると、一之瀬は真剣な表情で聞き入っていた。

一之瀬は自衛隊の中でも優秀な戦闘員らしく、すぐに戦技の理屈を理解し、実践に移る。


「つまり、魔力を意識して身体や武器に流し、"どうしたいか"を明確にイメージすれば良いわけだな?」


「そうっすね。それを簡単に略すと想像しやすくなりますよ」


「ふむ…こうか?」


そう言い、少し膝を曲げると高く跳び上がった。跳躍強化だな。少し一之瀬が驚いた顔をしている。

こいつもソウスケと同じタイプだな。飲み込みが早い。

一之瀬は無事着地すると、突然笑い出した。


「ハッハッハ!なるほど、ここまでか!……ヒロキさん」


「ん?」


「人間の可能性を広げてくれて、感謝しかない。ありがとう」


そう言って一之瀬は頭を深く下げた。


「頭を上げろ。俺はただ最初に思い付いただけだ。遅かれ早かれ誰かしらが思い付いていただろうよ」


「それでもだ。この力は多くの命を救うことになると、俺は確信している」


一之瀬は真剣な眼差しで俺を見上げ、手を差し出した。


「これからよろしく頼むぞ。ヒロキ」


「…ああ、こちらこそだ。サツキ」

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