ハルカ達は夜中に新しい眷属達を連れ、無事帰ってきた。まぁ終始千里魔眼で見てはいたんだが。
ハルカを先頭に、カイ、マナミ、カレン、タツヤ、ハルナ、マヤ、そして新しい眷属達が後ろに続いている。
「ヒロキ様、戻りました!」
「おかえり。問題はなかったか?」
「はい、敵は全滅。救助した女性たちも全員眷属にしました」
「そうか。初の遠征、ご苦労だったな」
俺がそう言うと、遠征に出た眷属たちは安堵の表情を浮かべる。ハルカが新しく眷属にした女性たちを見渡しながら、一歩前に出た。
「お前たちが新しい住人だな」
女性たちはまだ緊張している様子だったが、一人が勇気を振り絞って口を開いた。
「は、はい。ヒロキ様…ですよね?」
「ああ。一応、今はここの拠点を仕切っている」
俺はそう言いながら、改めて彼女たちを眺めた。
全員まだ不安そうな表情をしているが、まぁ致し方ない。
主の、そのまた主がこんな化け物だったんだからな。
「まずは休もうか、話は明日でも良い。ハルカ、全員分の寝床を用意してあげてくれ」
「わかりました。それじゃあ行きましょうか」
そう言うと、ハルカ達は奥のスクリーンがある大部屋へと向かっていった。
「さてと…」
俺はあの全身鎧を装備していた男のことを考える。
今のところ、俺のショップには鎧なんてものはない。レベル16の今でもだ。
俺を越えるレベルだと言われてしまえば終わりなのだが、あの装飾がある鎧がショップで出るとは考えづらい。ドロップ品という線もあるが。
まぁ、突如現れたモンスターが蔓延る様々な謎の土地、建造物を考えると…
「異世界の人間なんだろうなぁ…」
敵対的じゃないことを願うばかりだ。
翌朝
新しくやってきた眷属達が目を覚ますと、皆に紹介した。
「今日からやってきた仲間達だ。皆色々教えてやってくれ」
「「「はい!」」」「ギギ!」
そうして眷属達が新しくやってきた者達に話しかけていく。俺は一歩引いて、新しい眷属たちと既存の眷属たちが交流する様子を眺めていた。
昨日まで一般人だった彼女たちは、まだ完全には状況を飲み込めていないようだが、それでもハーフデーモンとなった影響か、怯えきっている様子はない。
むしろ既存の眷属たちが気さくに話しかけることで、少しずつ緊張が解けていくのが分かった。
新しくやってきた眷属は全員で14人、既存の眷属も合わせると41人だな。
ハルカに全員のスキルと元々の種族を聞いてきてもらうと
ドワーフ3人
エルフ2人
獣人2人
ハイヒューマン7人
そして近接系スキルが9人の、魔法系スキルが5人という結果だった。
とりあえず近接組が戦技を使えるようにするためにも、皆に魔力を動かしてもらい、魔力の存在を自覚させた。
近接組はカレンとマナミが、魔法組はハルカとレンが筆頭に魔力の応用方法を教えていっている。
「ん?」
すると、遠くに"空中"を蹴りながらこちらに走ってくる妖怪爺さんが見えた。
大宮避難所の仙人、亜門ソウスケだ。
「おぉーヒロキ!!遊びに来たぞー!!」
手を振りながらソウスケが走ってくる。
そして音を立てずに俺の目の前に着地した。
「3日ぶりか?避難所の方は大丈夫なのか?」
「おう。ヒロキが教えてくれた戦技のおかげで他の戦闘員達も大幅に強くなったからな。昨日まで訓練漬けよ」
クツクツと楽しそうに笑う。
「空中を走っていたのも戦技か?」
「ああ。"空中を走りたい"と想像したら出来た。名前は"空歩"だ。かっけぇだろ?」
「悪くない。翼がある俺には考えつかなかったな。応用も利きそうだ」
「空中で回避出来るし、攻撃をしかけることもできるからな。そんでそっちにいる人達は、ここの住人か」
ソウスケが眷属達に目を向ける。
「そうだ。昨日新しく入ってきた者たちに魔力の応用を教えているところだな」
「ってことは、全員戦闘員なのか?」
「そうなるな」
「ほう、羨ましいこったな。うちの住人は非戦闘員ばっかでなぁ」
溜息を吐きながらソウスケは言う。
「そういう人らには何をやらせているんだ?」
「まぁ、掃除とかの雑用だわな。人が足りすぎて暇なやつが大半だが。食料は前回の襲撃で手に入ったから足りてはいるんだが」
「ふむ…雑用は必要だが、いすぎても問題だな」
「まぁな。避難所ってのは安全であることが前提だから、戦えない奴が集まるのは当然なんだが…」
ソウスケは腕を組み、空を仰ぎながら唸る。
「戦力にならん奴らが増えると、いざってときの負担がデカくなる。かといって、無理に戦わせてもすぐ死ぬだけだ」
「ふむ……避難所の住人は何人いるんだ?」
「今は200人ぐらいだな。そっちは?」
「41人になった」
「こっちも随分いるな。こっちとは状況が違うから、比べても仕方ないが…」
ソウスケはチラッと、こちらを気にしながらも魔力の応用方法を練習している眷属たちを見る。
「なるほどな。やっぱり戦える奴が多いと、こうも雰囲気が違うか…」
「避難所の住人たちは鍛える気はないのか?」
「そりゃあ試してはいるさ。だけど戦う意志のある奴は本当に少ねぇな」
ソウスケは苦笑する。
「命を守るために戦うってのは、普通の人間にはそう簡単に受け入れられるもんじゃないんだよ」
「まぁ、だろうな」
俺も納得する。元々一般人だった奴らが、急に戦えと言われて戦えるわけがない。
「戦う意思のない奴らをどうするか…それが今の避難所の課題ってわけか」
「おう。まぁ、その話をしに来たわけじゃねぇんだけどな」
ソウスケはニッと笑うと、俺の肩をぽんと叩いた。
「ヒロキ、今から手合わせしねぇか?」
「…なるほど、そのために来たのか」
俺も自然と笑みがこぼれる。
「力を試したいってところか?」
「まぁな。俺もだいぶ戦技の応用に慣れてきたから、実戦で試してぇんだよ」
「いいだろう。それじゃあ下の駐車場でやるか」
「おう!」
俺とソウスケは屋上から飛び降りる。俺は翼を羽ばたかせて着地し、ソウスケは音を立てずに着地する。
「ルールはどうする?」
「ん?そうだな…怪我しすぎてもいけねぇし、スキルは無しで良いだろう」
「わかった」
お互いの間に沈黙が流れる。
「開始の合図は」
俺がそう言うと、ソウスケが殴りかかってきた。俺が腕で防ぐと、ソウスケは満面の笑みを浮かべて言う。
「今からだ」
「まったく、手癖の悪いジジイだな」
防いだ腕がジワジワと痺れ、俺は口角を吊り上げる。まず手始めに衝撃強化で片足に魔力を集中させて地面を踏み抜く。
その直前にソウスケは跳び上がり、空中を蹴って殴りかかってくる。それを腕で防ぐと軽く後ろに吹き飛んだ。
(衝撃強化か)
吹き飛んでいる最中にもソウスケがこちらに向かってくる。
俺は風量上昇で翼に魔力を集中させて、大きく羽ばたかせる。すると突風が辺りに吹き上がった。
「むっ!」
ソウスケは突風にあてられ後方へ吹き飛んだ。俺は力強く地面を蹴り、拳を構えてソウスケに迫る。
近付いて右ストレートを打つと、ソウスケは俺の右腕を下から蹴り上げて軌道をズラした。
その直後に左手で殴りかかると、ソウスケはそれを避けつつ俺の手首を掴んで腕十字固めをキメようとしてきた。
俺は腕に力を入れてそれを防ぐ。ソウスケはキメるのが厳しいのを分かるとすぐに離して距離を取った。
「やっぱり無理か。タイミングは良かったんだが」
「ハハハ。さすがの身のこなしだな、見ていて楽しいぞ」
「なに、もっと楽しませてやるよ」
「ほう、それはそれは…楽しみだな」
俺は笑いながら構えを取り直す。ソウスケもニヤリと笑い、わずかに膝を曲げて重心を落とした。
ほぼ瞬間移動のような速度で距離を詰めてきた。
「っらぁ!」
鋭い拳が俺の顔面に向かって突き出される。俺は紙一重でかわしつつ、肘をソウスケの脇腹に叩き込んだ。
直撃するが手応えが悪い、威力減衰だな。この早さで対応できるとは。
ソウスケはとっさに俺の腕を両手で掴み、そのまま肩を支点にして体を旋回させる。
(投げる気か!)
俺は力尽くでそれを止め、逆にソウスケの腕を掴んで地面に叩きつけようとした。
ソウスケは体が空中に浮き上がり逆さになりながらも、空中を蹴り勢いのある膝蹴りを放ってきた。
それを見た俺は手を離して避ける。
「やっぱりヒロキ、お前さん強ぇなぁ!」
「そっちこそ、老人とは思えん動きだ」
「ハッハッハ!まだまだ若いもんには負けられねぇよ!」
ソウスケは拳を握りしめ、一気に踏み込んできた。
俺も拳で殴ろうとすると、ソウスケは直前で拳を引っ込め体を素早く回転させて蹴りを腹に放ってきた。
ソウスケの脚が俺の腹に深くめり込む。何らかの戦技を使っているらしい。
俺は痛みを我慢して無理矢理ソウスケの首を掴み、力任せに持ち上げて地面に叩きつけた。
「ぐぇっ…くっそ、降参だ」
その言葉を聞いて手を離した。俺は痛みを感じる腹を擦って笑いかける。
「最後に良い一発を貰ってしまった。最後の戦技はなんだ?」
「いてて…貫通しやすくなる戦技だ。俺は貫通特化で想像してる」
「おいおい。殺すつもりだったのか?」
「バカ言うな。死なねぇと思ったから使ったんだよ」
俺が手を貸すと、ソウスケは手を掴んでゆっくり起き上がり、肩を回して苦笑する。
「いやぁ、お前ぐらいの身体能力だとガッツリ間合いに入っちゃダメだな」
「ハハハ。いや、久々に楽しめたな。しばらく後になるだろうが、合流したら治療できるやつ何人か置いて、スキルありで手合わせしよう」
「おぉ!そりゃ良いな!より合流が楽しみになってきたぜ」
そうしてしばらく話をすると、ソウスケは「そろそろ帰らないと怒られちまう」と言って帰っていった。
実力のある人間との戦いは中々に悪くない経験だったな。