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第24話 鍛冶

屋上駐車場の端で、皆が魔法や戦技の練習をしているのを眺めながら、俺はついにアイテムボックスから初心者鍛冶屋セットを取り出した。

すると目の前に金床、鍛冶用トング数個、でかいハンマーと小さいハンマー、石積みの鍛冶炉、金属のヤスリとタガネ、砥石、鉄の幅広い水槽が綺麗にセットされて出現した。

初心者セットというわりにはだいぶ充実している。


俺は1mほどある金属蜘蛛の脚の甲殻を取り出した。金属蜘蛛の脚の甲殻を手に取り、その硬質な表面を指で叩く。金属そのもののように硬く、そして重い。

とりあえず、この甲殻の形を加工しやすいように整えることにした。


(どうやるんだろうな。とりあえず鍛冶炉に入れて熱すれば良いか?)


俺は鍛冶炉の中に金属甲殻を入れて、高温強化で魔力を放出して、炎を金属甲殻に当てる。

最近気付いたが、魔法のときも簡単に効果を略して想像したほうが楽なことに気が付いた。炎の球体のときは"火球作成"とかでも想像できるしな。


魔法を主に使う眷属達にも同じことを伝えたが、何人かも同じ結論に至っていたようだ。賢い。

そんなことを考えながらボーッと炎を当てていると、金属甲殻が全体的に熱されて赤く変色してきた。

俺は鍛冶用トングで熱された金属甲殻を取り出して、金床の上に乗せる。そしてデカいハンマーで叩きつけた。

カキンッ

甲高い金属音が鳴るとだいぶ窪んだ、というか中の身があった空洞が叩いたから潰れた感じだな。


何度も打ちつけると、とりあえず中の空洞は潰せて、形は歪だが平らにはなった。だが冷めてしまったので、また鍛冶炉に入れて炎を出して熱する。

再び金属甲殻が赤熱するのを確認すると、俺は再びトングで取り出し、金床の上に置いた。


「もう少し形を整えるか」


あまり強く打ちつけてもいけないので、今度は力の加減を意識しながらハンマーを振るう。


カンッ カンッ


打ちつけるたびに、甲殻は少しずつ均一な厚みに変わっていく。時々トングで掴んで横に立てて打ちつける。


(…意外とちゃんと鍛冶してる感じがするな)


手探りだが、こうして少しずつ形が変わっていくのを見ると、思っていた以上に鍛冶の作業は楽しい。

あと悪魔なのと鬼の身体の効果もあるだろうが、肉体的に疲労を感じないのも楽しく感じる要因の1つだろう。


また冷えてしまったので鍛冶炉に入れて炎を当てる。そして赤熱したらトングで取り出して、少し伸びてきてしまったので2つのトングを使って半分に折りたたむ。


「…このぐらいだとショートソードとかその辺の武器になるか?」


しかし、これだと持ち手部分を作るのは難しいな。これは剣身部分にして、持ち手は別の金属甲殻で作るか。

俺は折りたたんだ金属甲殻を少し打ちつけると、再び鍛冶炉に入れて高温強化で熱を加える。

しばらくして真っ赤に熱せられた金属を取り出し、金床の上に置いた。今度は少し細かい調整をするため、小さいハンマーを使いながら形を整えていく。


カンッ カンッ カンッ


徐々に金属の塊が剣の形になりつつある。左右比も均等な気がしなくもない。俺は熱されている金属の塊を水槽に入れて一気に冷やした。


「次は持ち手の部分か」


俺は新たに別の金属蜘蛛の甲殻を取り出し、同じように鍛冶炉で熱する。

赤熱して取り出し、また空洞を潰して平らにする。


そして先程と同じような流れで形がある程度整ったら、タガネを上からハンマーで叩きつけ、金属の塊を三分の一ほどにカットした。


残ったのは水槽に入れて冷やしてからその辺に置いておき、短くなった金属の塊はまた熱すると、2つのトングを使って捻っていく。

そうすることで円柱形になる……と思うのだが。


何度も捻じると細長くなってきたので、折り曲げてまた捻っていく。そしてある程度円柱形になってくれたのでハンマーで叩いて形を整えていった。


持ち手部分は捻じったことで強度が増し、適度に太さも確保できた。まだ完璧な円柱とは言えないが、握るには十分な形状だろう。


(これを剣身にくっつけなきゃいけないわけだが、持ち手の先端に溝を作って剣身に挟み込む感じにすればいけるか?)


俺は持ち手部分をトングで取り、剣身に接続するための深めの溝を作ることにした。

鍛冶炉で再び熱してから、タガネを使いながらハンマーで慎重に溝を刻んでいく。


カンッ カンッ カンッ


少しずつ金属が削れていき、先端を2つに分けることが出来た。

だが少しだけ2つに分かれたところの形が崩れたので、余っていた平らの金属の塊を2つに分かれた先端の間に挟んで軽く打ちつけて形を整えた。


剣心と持ち手を鍛冶炉に入れ、剣身の根元部分と持ち手の先端を熱する。

トングを2つ使って赤熱した剣身と持ち手を取って、持ち手の2つに分かれた先端に剣身の根元を差し込んだ。


軽く叩いて接着させてから接合部分を中心に炎を当てる。

赤熱してからもしばらく当て続け、そして取り出して軽く打ち付けていく。そして隙間なく一体化したのを確認して、水槽に入れて一気に冷やした。

剣を持ち上げて、本気で振り下ろして急静止してみるが壊れる様子はない。


(結構上手くいったな)


俺は最後の仕上げをすることにした。剣全体を鍛冶炉で軽く熱し、最後の形を整えるためにヤスリと砥石を使うことにした。

まずはヤスリで粗削りしながら刃の部分を薄くしていく。


ギリギリッ ギリギリッ


金属の粉が舞い、徐々にエッジが効いた形になっていく。そこまで鋭くはないが、これで攻撃してもそこそこダメージを与えれそうだ。


次に砥石を取り出し、刃の部分を慎重に研いでいく。研ぐことに関しては包丁で経験があるからそれなりにできる、さすがに規模は違いすぎるが。


シャッ…シャッ…


砥ぐたびに刃は鋭くなり、やがて鏡のように光を反射するほど滑らかになった。


「これで完成だな」


かなり無骨なデザインのショートソードだが、悪くない。何よりなかなかの達成感がある。


(初めてだが、結構それっぽい形になるもんだ)


そう考えると、俺はもっと色々と作りたくなってきた。だがアイテムボックスにある金属蜘蛛の脚はまだ身が詰まっている。


俺は魔法と戦技の練習をしている眷属達に目を向けた。ちょうど今は昼頃。俺は立ち上がり、眷属達に近付く。


「昼飯にしようか…」








「もうむり…」「う、動けん…」「ギギ…」


2時間後、そこには大量に積み上がった金属甲殻と、満腹で座り込んでいる眷属達がいた。

まぁ色んな調味料を使って味変をしたから良いだろう。

たぶん。

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