ショッピングモールに戻り、見張りに声をかけて映画館入口に行くと、レンとハルカがまだ起きていた。どうやら俺のことを待っていたようだ。
「どうしたんだ?2人して」
「いえ、モンスターが大量発生したと聞いてハルカさんと少し掲示板にて調べていたんですよ」
「叩き起こされました…」
ハルカがしょぼしょぼとした目を擦っている。
「何か分かったのか?」
「はい。どうやら見沼区で確認されていたドラゴンが久喜市へと移動したみたいで、そのドラゴンが通りかかった場所にいたモンスター達が怯えて逃げ出すところを目撃されているらしいんですよ」
「なるほど、逃げ出したモンスター達が……しかしあそこまで大宮駅に集まるか?2000以上はいたぞ」
「ふわぁ…もしかしたら行き場を失ったモンスターは人が多い地域に逃げ出すのかもしれませんね。現に春日部避難所も大勢のモンスターに襲われたようですし」
春日部避難所もかなり人がいる避難所だ。そのトップは種族が鬼の女性だったはず。
「そうか……わざわざ調べてもらって悪いな。もう休んでいいぞ」
「はい」「おやすみなさいです」
レンとハルカが去っていく。そして何故か、ハルカから葛藤が伝わってきた。
(何かあったのか…?)
そう思いながらも、俺はひとまず休むことにした。
翌朝
全員朝食をとった後、屋上駐車場で魔法や戦技の練習をしていると、ハルカが考え込んだ表情を浮かべていて、未だに葛藤が伝わってくる。
俺はハルカに声をかけて、手招きをした。
「ハルカ、来い」
「は、はい」
2人で映画館入口まで移動する。
「それで、何があったんだ?」
「…! ごめんなさい。心配させちゃいましたか」
「謝らなくていい。何があったんだ」
「…昨日、掲示板を見てたら、ゴブリンに捕まってるから助けてっていうコメントを見かけたんです。大阪の人だったんですけど…」
「…なるほど」
時々、掲示板のスレッドには助けを求めるコメントが書き込まれることがある。それ自体が罠の可能性もあり、普通助けに行くことはあまりないそうだが。
「ハルカは、どうしたいんだ」
「…できたら、手に届く範囲でも良いので、そういう人たちを助けてあげたいです」
「ふむ……まぁ大阪はさすがに遠すぎるが、遠征か」
俺も考えなかったわけではない。ハルカ達を助けたように、他の人間も助けたら眷属にできるだろうからな。
しかし、長い間拠点を空けることになると眷属達で対応できないモンスターが現れたときに全滅の可能性があるからできなかった。
「…お前はまだ弱い。それは分かるな」
「……はい」
「だから、これを使え」
俺は魔晶石(小)を500個と白宝玉の杖を出した。
「え…」
「小が1つで50MPだから、25000か。これでいくらかレベルを上げられるだろう。
そしてこの杖には魔法を強化する効果と、白の加護という味方に防御効果のあるバリアをはることができる。
遠征のときは眷属達でも戦い慣れてるカレン、マナミ、カイは絶対に連れて行け。その間他の眷属達は拠点で鍛錬でもさせる。
しばらくはそこらにいるモンスター達で戦闘訓練をしてもらうことになるがな」
「どうしてここまで…」
「他の眷属達もそうだが…ハルカは俺の眷属であり、家族だ。親愛なる家族のやりたいことを応援しない奴なんていないだろう?」
ハルカは驚いたように俺を見つめていた。目を見開き、口をわずかに開けたまま、しばらく言葉を発しない。
「家族……ですか?」
「ああ」
ハルカは少し震えた声で「ありがとう…ございます」と呟いた。
「…頑張ります。必ず、ヒロキ様の期待に応えられるように」
「その意気だ」
俺は彼女の頭を軽く撫でると、ハルカは一瞬驚いた顔をした後、少し頬を赤らめながら小さく頷いた。
そして、ハルカは手から魔力を放出すると大量にあった魔晶石を全て回収した。俺は驚いて動きを止める。
「ちょ、ちょっとまて。今のどうやったんだ?」
「え?あぁ、"アイテムボックスに入れたい"と想像しながら魔力を放出するとまとめて取れるんですよ。大きいものは入れられないですけど」
「なんと…盲点だったな」
2人で屋上駐車場に戻ると、俺は現在の所持MPを確認した。
〔所持MP 779030〕
とんでもない量になったなと見ていて思う。さすがにあの数のモンスターをまとめて殺せたのは美味すぎた。
おそらくは大宮避難所の防衛組は4時間も戦っていたと言っていたから俺と同じくらい、もしくはそれ以上のMPを獲得しているだろう。
俺はステータスを開く。
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〔Lv.9〕次のレベルまで12000MP
〔名前:佐藤ヒロキ〕
〔種族:悪魔〕
〔攻撃:D−〕〔防御:E+〕〔俊敏:E−〕〔魔法:D+〕
〔種族スキル〕
[眷属化][契約][千里魔眼]
〔スキル〕
[火魔法Lv.5][影の小鬼Lv.5][竜の息Lv.2]
[鑑定魔眼Lv.1]
〔ユニークスキル〕
[鬼の身体]
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お、火魔法と影の小鬼が並んだか。確かに影の小鬼は結構使ってたからな。
俺はとりあえずレベル16まで上げた。その際にかかったMPはなんと418000。
現在のステータスがこれだ
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〔Lv.16〕次のレベルまで130000MP
〔名前:佐藤ヒロキ〕
〔種族:悪魔〕
〔攻撃:B〕〔防御:C+〕〔俊敏:C−〕〔魔法:A-〕
〔種族スキル〕
[眷属化][契約][千里魔眼]
〔スキル〕
[火魔法Lv.5][影の小鬼Lv.5][竜の息Lv.2]
[鑑定魔眼Lv.1]
〔ユニークスキル〕
[鬼の身体]
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ステータスは大幅に上昇して、魔法に関してはついにAに突破した。そして次のレベルまで130000だ、とんでもない。
残りの30万ちょっとのMPはスキルの書に使った。60冊買えたのでハルカに渡して、眷属達に配らせた。
どうやらショップで買えるスキルの書にはレア度があるようで、何回も出てくるスキルもあれば、なかなか出てこないものもある。
竜の息と戦の咆哮は出なかったので、おそらくレア度が高いものだったのだろう。逆に怪力、鑑定魔眼はわりと出た。
他にもドワーフの初期スキルの強打、新しいスキルの念動力という周辺にあるものを動かせるスキルや、感覚強化という自身の感覚を強化するスキルもあった。
そしてモンスターからドロップした12冊のスキルの書は、俺が持っておくことにした。少し特殊なスキルがいくつもあったからだ。
スキルの書が配られている眷属達は喜んでいる。大宮避難所の援軍に行った甲斐はあったな。