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第22話 契約

モンスターの大群との戦闘が始まってから約1時間、空から竜の息を放っていると、大宮駅避難所の防衛組が見えてきた。

俺がヘイトを買ったから攻め込んでくれたみたいだな。


(…大詰めだな。降りるか)


彼らを竜の息に巻き込んでもまずいので、俺は上空から降りて戦斧を横薙ぎに振るい、モンスター達をまとめて殺す。

元々力が強かったのもあるが、鬼の身体による身体能力向上も相まって、戦技を使わずとも破壊力がある。


ホブゴブリンが跳びかかってきたので頭を掴んで地面に叩きつけて頭蓋を砕く。オークが棍棒で殴りかかってくると、棍棒を片手で受け止めて腹に蹴りを入れてモンスターの群れに吹っ飛ばす。

多数を相手にしていて思うのは、如何に相手を巻き込みながら倒せるかが重要だと戦っていて思う。ただ一体一体殺すだけじゃ効率が悪い。


巨大カブトムシが突進してきたので、角をヘッドロックするような形で掴んで遠心力をつけて振り回し、近くにいたモンスターたちへ投げ飛ばす。

衝撃でモンスターが吹き飛び、十数匹まとめて巻き込まれて転がった。

トロールが巨大な棍棒を振り下ろしてきたので横にステップして避け、跳び上がり戦斧を頭上から振り下ろして真っ二つにする。


すぐに周囲にいるモンスター達が襲いかかってくる。俺は片足に衝撃強化で魔力を集中させて地面を強く踏み抜いた。

ドォォォォン!!

辺りに轟音が響き渡るのと同時に強い衝撃が地面に伝わり、周囲のモンスター達の体勢が崩れる。

それと同時に猛攻をしかける。


俺は戦斧を振り上げ、体勢を崩したモンスターたちを片っ端から薙ぎ払う。

勢いよく振り回した戦斧がリザードマンの胴を両断し、オークの首を刎ね飛ばす。

転倒したホブゴブリンが必死に立ち上がろうとするが、その前に俺は蹴りを叩き込んだ。


「ギャアァァ!!」


ホブゴブリンの体が宙を舞い、後ろにいた金属蜘蛛の群れに激突する。

すかさず左手から炎を放出して、蜘蛛ごと焼き尽くした。

雑魚を殺す度に、高揚感が身体中に巡る。


「ああ…雑魚を直接殺すのはいいな。これなら最初から駅側で暴れるんだった……いや、それじゃ効率が悪いか」


戦場を見渡すとモンスターの勢いが鈍っているのが分かる。避難所の防衛組は勢いづき、次々と敵を仕留めていく。


「いけえええ!!押し切るぞ!!」


誰かの叫び声が響く。


(よし…もうひと押しだな)


俺は影に魔力を送り込み、影小鬼を追加で30体ほど召喚する。


「モンスターを殺せ」


影小鬼が一斉にモンスターへ襲いかかる。俺も戦斧を構えて突撃する。モンスターたちは阿鼻叫喚の悲鳴を上げ、戦場は一気に制圧されていった。

そしてついに最後のトロールが俺の戦斧で両断され、光に包まれて消滅した。


「ふぅ…終わったな」


戦斧をアイテムボックスにしまって、一息つく。そして影に魔力を多めに送り、影小鬼を大量に召喚した。


「落ちてるものを全て拾って種類ごとに分けて集めろ」


そう言うと影小鬼は走ってドロップ品を集めていく。

防衛組がこちらにやってきた。


「よー!ヒロキ、昨日の今日で助けてもらっちゃって悪いな!」


ハッハッハとマサノリが笑いながら言う。


「まぁ近いからな。お前らも災難だったな」


「ああ、本当にな。小規模な群れかと思ったら見たこともないぐらいの大軍だったからさすがに焦ったぜ…にしても便利だなヒロキのスキル」


マサノリがドロップ品をかき集める影小鬼を見てそう言う。


「そうだろう…まぁ間に合ってよかった。それで、そっちの爺さんが…亜門だったか?」


「おお、自己紹介がまだだったな。俺は亜門ソウスケだ。助けに来てくれて助かったぞ」


亜門は朗らかに笑いながら俺に手を差し出してきた。

俺もその手を握り返し、軽く握手を交わす。


「俺は佐藤ヒロキだ。空から少し見たが、あんた相当強いな」


「ハッハッハ、年季が違うからな。まあ、そっちの方がよほど化け物じみていたが」


亜門は目を細めて俺を見つめる。

仙人という種族の特徴なのか、どこか人間離れした気配を感じる。

だが、それ以上に視線の奥にある鋭さが印象的だった。


「おっと、それよりも報酬は何がいい?」


「報酬?そうだな……魔晶石半分とスキルの書は全部俺にくれ」


「む、スキルの書か。まぁそれだけ貢献したし、構わんが一つ条件がある」


「なんだ?」


ソウスケが近寄り、俺の背中を押して離れた場所に移動すると小さな声で話しかけてくる。


「お前さん、魔力で何か"面白いこと"をしていたな?それを教えてくれんか」


「…! よく気付いたな」


「フッフ…観察魔眼というスキルがあってな。それよりも教えてくれよ、俺はまだまだ強くなりてぇんだ」


ソウスケが少年のような満面の笑みを浮かべながらそう言った。


(生粋の武闘家ってわけか)

「いいぞ。ただ、契約を結ぼう」


「契約?」


「ああ」


俺は契約のスキルを使って、紙とペンを出現させた。


「マサノリからでかい拠点を作る話は聞いたか?」


「聞いたぜ。悪くねぇ話だわな」


「ああ。その前におそらくどっかの仮拠点で集まると思うが、それまでこの力は他言無用で頼む。それが契約だ」


「…その心は?」


ソウスケは鋭い眼光をこちらに向けてくる。


「あくどい連中に早い段階でこの力の情報が漏れるのを避けたいだけだ。俺達が先にこの力を熟練させて優位性を保ちたい。

掲示板に書かれちまったら拡散も早いだろう」


「ふむ……そうだな。それじゃあ、ウチの連中にも同じ契約内容で教えてもらってもいいか?」


「いいぞ。自衛隊の連中にも同じ内容で教えようかと思っていたからな」


俺は紙に契約内容を書く。


《契約内容》


1. 佐藤ヒロキが教える魔力の応用技術について、許可なく第三者に口外しないこと。


2. 魔力の応用技術は、大規模拠点が安定するまで掲示板などの外部へ情報を流さないこと。


3. 佐藤ヒロキの許可なく、この技術を他者に教授しないこと。


4. 契約と力の存在自体は話して良いが、内容に関しては口外しないこと。


「こんなところか。それじゃ空いてるスペースにフルネームを書いてくれ」


「なるほどな、悪くねぇ。いや、むしろありがたい話だな」


ソウスケは満足そうに頷き、契約書にサラサラとサインをする。すると、契約書は燃えて消えた。


「契約成立だな。それじゃあ教えよう」


俺はソウスケの肩に触り、魔力を流し込んでソウスケの魔力を激しく動かした。


「うおっ!なんだこりゃあ…」


「これが魔力だ。

これで"強力な攻撃をしたい"や"攻撃の威力を軽減したい"などと考えながら魔力を身体の一部や装備に集中させて、その魔力を集中させた箇所でその行動をすると効果が発動する。

まぁ、あんたの場合は実演した方が早いだろう」


俺は指先に衝撃強化で魔力を集中させて、ソウスケの肩を軽く小突いた。

するとソウスケの肩は強く押されたように軽く仰け反った。


「…!! わっははは!!こりゃスゲェ!!なるほど、確かにこの情報が漏れるのは遅らせなきゃいけねぇな!」


「そうだろう?今のは"衝撃を強化したい"と想像して魔力を集中させた。ちなみにこの技術の名は"戦技"だ」


そうしてソウスケに、攻撃強化などの短く理解できる名称を付けたほうが反射的に出しやすい、などの細かい技術を教えていった。

ソウスケは楽しそうに戦技を試していた。試しで攻撃強化を拳に込めて地面を軽く殴ると、小さな亀裂が広がった。


「ハハハッ!こりゃすげぇな!!」


「まぁ、慣れればもっと応用できる。"どうしたいか"を強くイメージするのがコツだ」


「なるほどな…!! こりゃ奥が深い」


ソウスケはすっかり戦技に夢中になっている。

やはり武道を極めた者にとって、新しい力の習得は楽しくて仕方がないのだろう。

すると自衛隊と大宮避難所の戦闘員達が気になってこちらにやってきた。


「おいおい、なに面白そうなことしてんだ?」


「僕のヒロキ様取らないでくださいよぅ」


「いつからヒロキさんはお前のもんになったんだよ」


そして自衛隊や戦闘員達にも契約にサインさせて契約が成立すると、魔力の応用技術を教えていった。

皆試していくうちにこの有用性に気付くのと同時に危険性にも気付いた。


「なるほど…確かにこれは強力だわ。安易に広めちゃいけねぇな」


「そうだな…ヒロキさん、戦技を教えたい人がいたらヒロキさんのとこに連れてきて行けば良いですか?」


ユウトが質問してくる。


「もちろんだ。その時にも契約は結んで貰うがな」


「はい。それじゃあ、その内また行くことに…」


「ヒロキ様ー!この戦技ってのも魔法の応用に使えるのも面白いですね!」


そう言ってサクラが俺の脚にしがみついて来る。


「ああ…眷属になってから問題はなかったか?」


「特に何も!凄く強くなった気がしますし、排泄もしないので"楽"です!」


「…?そうか、問題がないなら良い」


サクラと話し終わると、軽く模擬戦をしているソウスケが目に付いた。


「ほれほれぃ!ちゃんと防がなきゃ吹っ飛ぶぞ!」


「いだだだ!なんでそんなに元気なんだよ不老ジジイ!」


「ハッハッハ!新しい技を覚えたからには、使いこなせるようにならんとな!」


ソウスケは豪快に笑いながら、戦技を駆使して避難所の戦闘員たちと模擬戦を繰り広げていた。

先ほど教えたばかりだというのに、すでに戦技をある程度使いこなしているあたり、やはり武道の達人は吸収が早い。

すると、サクラから強い欲情が伝わってきた。


「スンスン…ハァハァ…♡ヒロキ様の匂いが凄く濃い…」


サクラは俺の脚を強く抱きしめて、匂いを嗅いで息を荒くしながら、とある場所を脚に擦り付けてきた。

俺は中指に衝撃強化で魔力を集中させてサクラの額を軽く弾いた。

パシィィン!

サクラは弾かれた額を抑えて軽く仰け反った。


「いった!」


「堪え性の無いやつだな、お前」


「うぅ…こんな体にしたのはヒロキ様ですよ!」


「人聞きの悪いことを言うな、望んだのはサクラ…いやそれも人聞きが悪いな」


そんなことを話していると、影小鬼がドロップ品を集め終わったようだ。俺は12冊のスキルの書と大量の魔晶石を半分回収した。


「それじゃあ俺は戻るぞ」


「おう!またな!」


「たぶん近いうちにショッピングモールの方に行くと思うからよ。よろしくな!」


「ああ、それじゃまた…」


「あのぅ…僕ヒロキ様に着いていきたいんですけど」


そうサクラが言い出した。神崎は少し悩ましそうな顔をする。


「うーん…正直サクラが抜けるの痛いんだよなぁ。仮集合拠点でヒロキさんと合流するまで頑張ってくれないか?」


「えぇ~僕は今すぐヒロキ様に着いていきたいんですぅー」


「サクラ」


俺はしゃがんでサクラの耳元に口を寄せて囁いた。


「サクラ、合流まで頑張れ。そうすれば"ご褒美"をやる」


「あっあっ…頑張りますぅ♡」


「いい子だ。それじゃあな」


俺は目にハートを浮かべているサクラの頭を軽く撫でて、翼を羽ばたかせて飛び上がった。

サクラには合流までに色んな場所でハーフデーモンになることのメリットを見せつけてもらいたいからな。

そうすれば合流して人で賑わったときに眷属になりたがるやつもそれなりに増えるだろう。

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