軽い訓練を終えた次の日、千里魔眼を見たが特に脅威は見つからなかった。
俺は早朝から眷属達を集めた。
「どうやら、とりあえずの脅威は無くなったようなので物資集めを再開しようと思う。
現在俺を除いて27人いるから、10人のグループを2つ作って行動しろ。
1つのグループのリーダーはハルカ、もう一つはカレンがリーダーでやれ」
「はい!」「了解しました!」
2人からいい返事が返ってくる。
ハルカはいつも通りで、カレンもリーダーにすることにした。頭は回らないが周りをよく見ているし、単純に眷属の中で一番強いからな。
「それで余った7人は残り組で、基本屋上で見張りか訓練をしといてくれ。
グループの決め方はお前らに任せるが、戦力が片方に偏らないようにしろ。
それと、俺が新しく発見したモンスターを共有する」
2mはありそうな猪、棍棒を持った人型のトカゲ、人の顔を持つ1mはある蝶々、緑色のスライムなど説明していった。
「とまぁこんな感じだ。攻撃手段は分からないから初見の相手は様子見を優先しろ。探索を終了するタイミングは各自に任せるが、夕方前には帰ってこい。
そしてどこに探索しにいくか残り組に教えておいてくれ。
とにかく警戒を怠らず、油断をするな、いいな?」
「「「はい!!」」」「ギギ!」
「それじゃあ俺は少し離れたとこまで物資を回収しにいってくる」
そう言って俺は屋上まで行った。
先に物資が回収されていても面倒なので、避難所が無く、できたこともない西区辺りまで行くことにした。
俺は跳躍強化で両足に魔力を集中させ、斜め上に向けてジャンプした。
「うおおっ!!」
鬼の身体で身体能力が向上していることが組み合わさったことで、とんでもない勢いで跳んだ。この一飛びで70mは軽く跳んだ気がする。
俺は飛行強化で翼に魔力を集中させる、そして羽ばたいた。
「あっははは!すっげぇ!!」
跳んだときの速さを保ったまま飛べている。移動に便利なのはもちろんだが、何より楽しい。
凄い早さで切り替わる景色を楽しみながら、西区を目指していった。
《西区》
西区に到着した俺はスーパーやドラッグストアなどを千里魔眼を使って見てみる。
(思ったより物資が残ってるな、もうこの辺りに生存者はいないらしい)
スーパーやドラッグストアの棚にはまだ非常食や水、日用品がいくつも並んでいる。
まずは一番近いドラッグストアから向かうことにした。
俺は跳び上がり、1分も経たずにドラッグストアの入口前に着いた。店内へと足を踏み入れる。静まり返ったスーパーには人の気配はない。
日用品、薬、飲み物、菓子、調味料、食料などを片っ端から回収していき、在庫で置いてあったものも全て回収した。
そして次のスーパーへと向かった。
スーパーの入口前に着くと、俺は戦斧を取り出した。先ほど千里魔眼で見たときにやけに大きい熊を見つけたからだ。俺が見たときは眠っていたが。
俺は新しく考えた戦技、消音を使いながら中に入る。
消音は、発生する音を無くす戦技だ。片足に魔力を集中させて一歩進むと、消音の効果が発動して足音が出ない。
戦技の性質上、常時発動はできないので、歩くたびにこれをやる必要がある。中々面倒だが戦技の練習だと思えば悪くない。
俺は寝ているでかい熊の元まで辿り着いた。丸まってはいるが立ち上がったら4mは余裕でありそうだ。
さっさと終わらせるために、攻撃強化で戦斧に魔力を集中させて、そして戦斧を振り下ろした。
ドガァァァン!!
戦斧は熊を軽く貫通して、地面に直撃し、轟音が響いた。
熊は一瞬身体を震わせると、光に包まれていった。
〔MP +1500〕
「お、結構貰えるな」
光が消えると、そこには大きな毛皮が落ちていた。
俺はそれをアイテムボックスに入れると、物資回収を再開した。
3時間後…
「…もう終わってしまった。やはり移動が速いのは強いな」
まだお昼にもなっていないが、この辺りにあったスーパーやコンビニ、ドラッグストアの物資は回収し終わってしまった。
(このまま帰るのも手だが、もう少し範囲を広げて探索するか?)
俺は千里魔眼を再び使い、西区のさらに遠くを見渡す。建物はほとんど無人で、目立ったモンスターの群れも見当たらない。だが、一つだけ気になる場所を見つけた。
少し離れた場所に、コンテナがいくつもある廃工場があった。外には車両が放置されており、建物の中には何かが蠢いている。
しばらく考えたが、せっかく来たのだから確認だけでもしておこうと決めた。時間も有り余っているし。
俺は跳躍強化を使い、素早くその工場へと向かった。
《西区 廃工場》
工場の屋上に降り立ち、千里魔眼で内部を探る。
中には大勢の金属蜘蛛がいた。掲示板でも情報があったが、この辺りにもいたようだ。
千里魔眼でしばらく確認したが、人間もいなく使えそうな物も無さそうなので建物ごと燃やしてしまうことにした。
俺はいつも通り、炎の球体を創り出していく。
巨大な炎の球体を創ると、それを入口から中へ放った。すぐに飛び上がり、"長持ち"で魔力を放出して右手から炎を噴射する。
そして工場を外側から燃やしていった。
〔MP +103〕〔MP +95〕〔MP +230〕〔MP +88〕
〔MP +96〕〔MP +72〕…
「結構獲得MPはバラバラだな」
そう言いながら燃え盛る工場を眺める。炎はどうも見ていて飽きない。修学旅行のキャンプファイヤーを思い出すな。
「ああ、炎に色を付けるなんて面白いかもしれないな」
ふと思いついた俺は、緑色にしたいと考えながら魔力を放出して、地面に向けて炎を出した。すると見事に炎が緑色になった。
「なかなか綺麗だ。完全に遊びでしか無いが」
イメージとしては冥界の炎だとかそんな感じだな。
俺は様々な色の炎を出して試してみた。
〔MP +111〕〔MP +81〕〔MP +96〕〔MP +94〕
〔MP +87〕〔MP +123〕…
「…随分いたんだな」
まだまだ表示が止まらないポップアップに少し驚く。
色付きの炎で遊びながらポップアップが止まるのを待っていると…
「ギシャァァァア!!」
「ん…おお、女王か?」
耳障りな鳴き声が聞こえて振り返ると、そこには大きな肉のブロックを咥えている金属蜘蛛がいた。狩りの帰りだったのだろう。
大きさは中にいる蜘蛛と比べ物にならないほど大きい、横幅は5mぐらいは余裕でありそうだ。
すると女王金属蜘蛛が咥えていた肉を落として、口から毒液を吐いてきた。
横に跳び避けると、女王金属蜘蛛がすぐに跳びかかり噛みつこうとしてきた。
俺は左手に衝撃強化で魔力を集中させて、掌底打ちを放つ。
掌底打ちが直撃した女王金属蜘蛛が吹っ飛んでコンテナに衝突した。
体勢を崩した女王金属蜘蛛に一気に近付く、その間に戦斧へ攻撃強化で魔力を集中させ、そして女王金属蜘蛛に振り下ろした。
戦斧は女王金属蜘蛛の甲殻を叩き割り体を貫通して地面に直撃した。そして光に包まれていく。
〔MP +1400〕
「明らかにオーバーキルだな。戦技に慣れるためではあるんだが」
ユニークスキルの"鬼の身体"の影響でただでさえ身体能力が上がっている。そこに戦技が合わさったときの破壊力は尋常ではない。
光が収まると、そこには大きな金属蜘蛛の脚が8本落ちていた。俺はそれをアイテムボックスへしまった。
しばらく経つと、火も消えてポップアップも表示されなくなった。
所々崩れ落ちて、風通しがよくなった工場に入る。中には金属蜘蛛の脚が数え切れないほど落ちていた。
俺は自身の影に魔力を多めに送って、影小鬼を40体ほど生み出した。
「金属蜘蛛の脚を俺の目の前に集めろ」
そう命令すると、影小鬼は走っていって次々と金属蜘蛛の脚を目の前に置いていく。それを俺はアイテムボックスに入れていった。
30分ほどで回収し終わった。影小鬼のおかげでかなりの時間短縮となった。俺は影小鬼を影に戻して工場を出る。
「まだ昼過ぎぐらいか、まぁ戻るか」
そう決めて跳び上がり、翼を羽ばたかせた。
《ショッピングモール 屋上駐車場》
俺は屋上駐車場に着地する。すると残り組の眷属達が駆け寄ってきた。
「おかえりなさい!」「お疲れ様です」
「ああ、何事もないか?」
「はい!時々モンスターを遠くで見かけるぐらいでした」
「そうか。それじゃ続けてくれ」
「はい!」
そう言うと、各々見張りや鍛錬をし始めた。
俺は金属蜘蛛の脚2つと調理器具、そして小さめのブルーシートを取り出す。金属蜘蛛の脚は痩せ型の成人男性の脚ぐらいかそれ以上だな。
金属のような甲殻を包丁の腹で軽く叩くが、金属同士がぶつかった音がする。
(これ金属そのものなのか?)
そう思いながら金属蜘蛛の脚をブルーシートの上に乗せて、白い身が見える付け根のとこから、中心にあるスジのような硬い部分をつまんで一気に引っ張ると、白い身がズルンと取れた。
一旦身をブルーシートの上に乗せて、甲殻をぽいっと近くに投げておく。
もう一個も同じように白い身を取り出すと、長く白い身の一部をまな板を乗せて、中華包丁で20cmほどに切り分けていく。
そして切り終わると、それを45Lのゴミ袋に突っ込んで結んで、アイテムボックスに保管しておく。それを3回ほど繰り返してしまい終わる。
俺は金属蜘蛛の甲殻を持ち、考える。
(これ溶かして1つの塊にしたいな)
俺は地面に金属蜘蛛の甲殻を置き、"高温にしたい"と考えながら魔力を放出し、炎を出して熱していく。
ジジジ…
金属の表面が赤熱し、少しずつ柔らかくなっていく。
さらに魔力を送り込み、温度を上げていくと、ついに甲殻の一部が溶け始めた。溶けた金属はドロリとした液状になり、地面に垂れる。
一旦炎を止めて、様子を見る。溶けた金属はすぐに冷えて固まり、小さな塊になった。
(ふむ…加工しやすい形にすればそれっぽい武器ぐらいは作れるか?)
この金属蜘蛛の甲殻、かなりの強度がある。加工さえできれば使い道がありそうだ。
何より、モンスターの素材から武器を作るという行動自体が楽しかった。