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第16話 自衛隊

《自衛隊員 神崎ユウト視点》


「いやーあの馬鹿共から離れただけでここまで肩が軽いとは、もっと早く"夜逃げ"するんだったな」


「夜逃げ言うな、まぁ同意見だけど」


ドワーフの岩城マサノリがそう呟いて思わず突っ込む。

実際、あの無能達には随分と足を引っ張られた。飯が足りないだの、仮設トイレが臭いだの、口開けば文句ばかりで何もしない。

この状況ではただの役立たずだ。


「ちっ、あいつらがいなけりゃ救えた命がもっとあったのに…」


「そうだな…まっ、とりあえず今ある避難所に物資を届けれただけ良しとしようや」


俺は隣で運転する岩城マサノリの言葉に小さく頷いた。


「そうだな…それにしても、どこも物資がギリギリだな」


彼らが訪れた避難所はどこも余裕があるとは言えない状況だった。モンスターの脅威に晒されながら、食料や水をなんとかやりくりしている。

それでもあの無能どもを見捨てたことで機動力は大幅に上がった。これからはもっと効率的に支援を行えるはずだ。


「次はどこに向かうんだ?」


「大宮の避難所の予定だが…ん?」


マサノリが何かに気付いた。


「どうした?」


「前方、オークの群れがいるな」


「何?おぉ、マジだな『前方にモンスターだ。止まれ』」


俺は前を確認して、他の隊員達へ無線を入れて止まる。

道の向こう側に、屈強なオークたちが整列し、その中心には異様な巨体を持つオークが鎮座していた。

まるで王を守る親衛隊のような雰囲気を醸し出している。


「ん、なかなか強そうだな。これ以上増える前に駆除しといた方が良さそうだ」


「ああ、いっちょやったるか『あいつらぶっ殺すぞ!』」

『ぶっ殺すだぁ?』『それでも自衛隊ですかぁ?』


後方の車両から次々と自衛隊員たちが降り、戦闘態勢を整える。

俺達も降りて、武器をアイテムボックスから取り出した。俺はショップで買った鉄の剣を、マサノリはメイスを取り出した。

すると、怖気と共に視線を感じて空を見た。だがそこには何もなかった。


「ユウト?どうかしたか?」


「いや、おそらく"感覚強化"が反応したんだと思うんだが…」


「ふーん…?まぁ警戒しておくに越したことはないだろ」


「ああ」


そう話していると、オーク達が突撃してきたことで戦闘が始まった。魔法部隊が次々と魔法を放っていくが、奴らの勢いは収まらない。

するとエルフのサクラが土魔法で岩の巨人を創り出してオーク達へ突っ込ませた。


「いけー!僕のゴーレム!!」


「はは、なーにがゴーレムだよ」


マサノリが笑いながら言う。

だがあの"ゴーレム"は中々のもので、あの質量から繰り出される攻撃は相当な破壊力がある。屈強なオーク達も為す術なくやられていく。


するとふんぞり返っていた肥満のオークが腕を上げて人差し指を立てると、大きな氷塊が瞬く間に出来上がり、そしてそれをゴーレムに放った。

念の為か、アイリが俺達の前に結界をはってくれている。


ドォォォォォン!!


氷塊がゴーレムに直撃すると、ゴーレムは衝撃に耐えきれずバラバラに崩れ落ちた。


「ああー!僕のゴーレムがー!!」


「言ってる場合かよ…にしてもなかなかの威力だな」


ゴーレムがいなくなったことで突進していたオーク達が勢いづいた。

すぐそこまで接近してきたので俺達近接部隊は身構える。


「さーてと、俺の出番だな」 


マサノリがそう言って最前線に出る、そして片足を大きく振り上げて、地面に叩き付けた。

地面に亀裂が入るのと同時に前方へ大きな揺れが発生する。

あれはマサノリがスキルの書で手に入れた"地響き"というスキルだ。

地面を強く踏みつけることで大きな揺れを一時的に発生させて行動不能にさせる。地面に立っている生き物には強力なスキルだ。


「しゃあ!突撃ぃぃ!!」


マサノリの言葉と共に、揺れのせいで体勢を崩しているオーク達へ攻撃を開始した。

俺は鉄の剣を構え、ぐらついているオークの首元を狙って切りかかる。


「オラァ!」


刃がオークの首筋に深く食い込み、オークは叫ぶ間もなく崩れ落ちた。周囲にいる仲間たちも、次々とオークを仕留めていく。

背後からは火球や氷の矢が放たれていき、突進してきたオークたちに直撃する。

炎に包まれたオークが悶絶し、氷の矢に胸を貫かれたオークはその場で動かなくなった。


オーク達は体勢を立て直して攻めてくるが、大幅に数を減っているので劣勢だ。

だが敵の隊列の奥で、あの巨体のオークが不気味に笑っていた。


(…嫌な予感がする)


すると、奴が両腕を振り上げた。次の瞬間、奴の目の前に氷柱のような尖った氷がいくつも生み出された。


「氷魔法だ!アイリ!」


「もうやってるよ!」


俺の叫びにアイリはそう答える。そしてすぐに結界が目の前に展開された。

そしていくつもの尖った氷が結界によって防がれ、そして結界は消えた。残ったオークたちが襲ってきたのでその対処をする。


結界は有用なスキルだが燃費が悪く、強度を上げるにも維持するにも相当な魔力を消費すると、俺と同じハイヒューマンのアイリが言っていた。

巨体オークを見ると、未だに両腕を上げながら、こちらを不気味な笑みで見ている。


(なんだ?奴は何故両腕を上げている?)


すると、頭上から違和感と怖気を感じ取った。上空を見ると、そこには巨大な氷塊が浮かんでいた。


(これか…!!)


「全員退避!! アイリ!上だ!!」


「…!」


「グヒャヒャヒャ!!」


巨体オークの不愉快な笑い声と共に氷塊が落下してきた。

俺の声に他の隊員は上を一瞬確認すると、急いで後方に退避していく。


アイリも複数の結界を展開するが、咄嗟のことで強度が足りず、その圧倒的質量に容易く突破されていく。

結界を維持しているアイリをマサノリが担いで全力で走って退避していく。


「どうだ!?」


「ダメかも…」


アイリが鼻血を垂れ流しながら言う。


(クソ!皆が逃げるまでに耐えてくれれば…)


そう思ったその時、頭上で轟音が響いた。


思わず見上げると、氷塊が巨体オークの方へ飛んでいっていた。

巨体オークと護衛のオーク達は悲鳴を上げることもなく氷塊に押し潰された。


そして、空から筋骨隆々とした山羊頭の悪魔が蝙蝠のような翼を羽ばたかせて降りてきた。

こちらをジッと見つめてくると、俺は今までに感じたことがないほどの強い怖気を感じた。


(なんだ…なんだこいつ…! 絶対に勝てねぇ…!!)


スキルの感覚強化がこいつの強さを感じ取らせてくる。

いや、マサノリも睨みつけてはいるが冷や汗を流している。おそらくこの場にいる誰もが同じことを考えているだろう。


すると、悪魔が口を開いた。


「こいつのドロップ品は貰うぞ?」




《佐藤ヒロキ視点》

「こいつのドロップ品は貰うぞ?」


俺がそう言うが、自衛隊員たちは答えずに沈黙している。


(なんだ?まさかドロップ品が欲しいのか?いやでも助けてあいつを殺したのは俺だぞ。何で黙っているんだ?)


頭が疑問に埋め尽くされ考えていると、小柄な1人のエルフの隊員が何かを思い出したかのように喋りだした。


「あっ!悪魔か!! ヒロキさんですよね?!」


「そうだが…」


「ほら!皆さんにこの前話したじゃないですか!新しい種族の悪魔が発見されたって!」


その隊員がそう言うと、他の隊員たちはハッとした顔をする。

そして俺もハッとした顔をした。


(そうだった、俺化け物みたいな見た目だったな)


「すまない、驚かせてしまったか。そこの人が言った通り、俺は元人間の悪魔だ。名前は佐藤ヒロキという」


俺が自己紹介をすると、ドワーフの隊員が前に出てきて頭を軽く下げる。


「いや!こちらも助けてくれた恩人に対して警戒してしまって本当にすまない! 新手のモンスターかと思っちまった」


「いや、俺もこの姿に慣れてきて自分の見た目が化け物だってことに忘れてたよ」


そうして自衛隊との交流が始まった。

どうやら自衛隊たちは各所の避難所へ物資を届けているらしく、今回も大宮避難所に物資を届けるためにここを通りかかったと。そしてあのオーク達と遭遇したという話だった。

俺もここの近くにあるショッピングモールを仮の拠点としていることを話した。


「そうか!あそこに何人ぐらい居るんだ?」


「今は30人弱ぐらいだな」


「結構いるんだな、物資は足りてるのか?なんだったら分けるが」


「いや、大丈夫だ。ここら一帯の物資とショッピングモールに残ってた大量の物資を根こそぎ回収したからいくらか余裕はある」


「ほう!そうなのか。なら大丈夫か」


自衛隊員のドワーフ、マサノリは感心した顔をする。

他の隊員たちはドロップ品を集めていっている。ついでに氷塊の近くで肥満オークのドロップ品も探してくれている、お詫びだとか言っていたな。


「だが人が増えれば、いずれ物資も足りなくなるかもしれないな」


マサノリが腕を組みながら言う。


「ああ…今は豊富にある物資でも、今年は越えられるだろうが、来年は怪しいだろうな」


「だよな………まぁヒロキには話してもいいか。実は自衛隊で他の避難所からも人を集めて、でかい拠点を作ろうって話があってよ」


「ほう、いいじゃないか」


「だろ?そんで不安要素の物資なんだが、平原に目付けてんだよ」


まぁそうだろうな。あそこならモンスターも大量だし、資源も多い。畑を耕すのに最適な土地でもあるだろう。


「それで?」


「探索するにしても、もし平原に住み着くにしても強いやつはいくらでも欲しいからな。もし準備が整ったらヒロキとその眷属たちも来てくれるか?」


「あぁそんなことか、もちろん良いとも。そろそろ安定した拠点が欲しいと思っていたところだ。どの辺りに作るとか話は出てるのか?」


「第一候補はもちろん平原だが、もしかしたら他の避難所から人を集める仮の拠点として、あのショッピングモールが選ばれるかもしれんな。平原からもそれなりに近いし、中も広いだろ?」


「ん、まぁ…そうだな」


頭の中に毒水まみれになった1階が浮かぶ。

いや、いざとなれば大量の甘いお菓子を対価にハルカには頑張ってもらうとしよう。


すると小柄なエルフの隊員が、先端に真珠のような白い宝玉が付いている黒い金属の杖を持ってきた。

なかなか長いようで、両手で抱えながら持ってきている。


「見つかりましたよー。たぶんこれがあのオークのドロップ品じゃないですかね?」


「おぉ、悪いな」


「いえいえー」


俺はエルフの隊員から杖を受け取った。立ててみると、俺の首ぐらいまで長さがあった。

するとエルフの隊員が話しかけてくる。


「ヒロキさんって他の人のことハーフデーモンにできるんですよね?」


「あぁ、眷属化だな。それがどうした?」


「いや、僕も悪魔になってみたいなーって」


「ふむ?俺は別に構わないが…」


チラッと横にいるマサノリを見る。マサノリは片手で頭を軽く押さえて溜息を吐いた。


「ハァ〜…ったく、俺も別に構わねぇけどよ…」


「やった!それじゃヒロキさん、お願いします!あっ、僕の名前は白木サクラです!」


「…それじゃあ眷属化によるメリットとデメリットを説明する。

まずメリットはステータスの攻撃と魔法、素の身体能力が向上する。暗視ができるようになり、排泄をしなくなる。

デメリットは、俺に危害を加えることができなくなり、命令にも逆らえなくなること。

そして獲得したMPの10%が自動で俺に徴収される。

以上だ。眷属になるか?」


「なります!」


「そうか」


俺は地面に赤い魔法陣を出現させる。


「この魔法陣の上に立てば、眷属化が発動する」


「はい!」


サクラがジャンプして魔法陣の上に立った。サクラの容姿が変化していく。

肌は灰色に、瞳は金色に、そして頭から黒く捻れた角が生えてきた。


「うわぁ~、すっごい高揚感だぁ…それと、忠誠心かな。ヒロキさんに尽くしたいような感じが…」


サクラがこちらを向いて固まった。そういえば美的感覚も変わるんだったか。


するとサクラから好意と欲情を今までで一番強く伝わってきた。次第にサクラのとある部分がテントを張っていく。


(こいつ、男だったのか。ここまで小柄だとエルフは分からんな)


「あ"っっ…これやっばい」


そう言ってサクラは白目を剥いてビクンッビクンッと震えながら気を失った。

マサノリは嫌そうな顔をして問いかけてくる。


「眷属化すると毎回こうなるのか?」


「いや、こいつが特殊なだけだ」


思わず若干早口で答えてしまった。


そうして何とも言えない空気のまま解散となった。自衛隊は大宮の避難所に向かう途中だったからな。

俺もショッピングモールへ戻っていった。




《自衛隊員 神崎ユウト視点》

「いやぁ、一時はどうなるかと思ったな」


「ああ。協力できそうな人だったな」


最初遭遇したときはどうなるかと思ったが、全然話せる人だった。


「…にしても、随分強そうだったな。もし敵だったら全滅だった」


「そうだな………一之瀬さんとどっちか強いかね」


「さぁな、あの人もハイヒューマンの癖に人間辞めてるからなぁ…進化する前でも化け物だったのに」


そんな談笑をしながら大宮に向かっていった。

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