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第14話 毒水

「ん…」


俺が目を覚ますと、眷属達はすっかり体力が回復して元気を取り戻したようだった。

右腕を軽く振るが痛みはない、ハルナはしっかり治してくれたみたいだな。

するとハルカが駆け寄ってくる。


「おはようございます。お体の調子はどうです?」


「ああ、問題ない。俺が寝てからどれほど経った?」


「8時間程度ですね。屋上に3人交代で見張りをしてますが、今のところ何事もないです」


「そうか」


千里魔眼を使って軽く見渡したが何もいないようだった。夜になったから活動をしなくなったのか。


俺はアイテムボックスからカセットコンロとガスボンベ、そしてオーク肉のブロックをいくつか取り出す。

折りたたみの小型テーブルと調理用具一式も取り出した。

小型テーブルの上にまな板を置き、オーク肉を串焼き用に切り分けていく。

そしてアイテムボックスから串をいくつか出した。


「暇なやつ肉を串に刺していってくれないか」


「はーい!」「やります!」「ギギ!」


大きな皿に切り分けた肉を置いていく。眷属達は肉を串に刺していく。

そして全て切り終わるとカセットコンロにガスボンベをセットし火をつけフライパンを乗せる。


串に通したオーク肉を乗せて焼いていく。味付けは塩胡椒だ。この空間にオーク肉のいい香りが充満してきた。

俺は10本ほど出来上がると、アイテムボックスから焼肉のタレや塩などの調味料を適当に置く。


「これで適当に焼いて味付けをして食べててくれ。俺は屋上にいる奴に持っていく」


「分かりました!」「いただきます!」


俺は出来上がった串焼きを持ち、屋上へ向かう。階段を上がりドアを開けると、眷属たちが景色を眺め見張りをしていた。


「ご苦労さま。軽食だ」


「わぁ、ありがとうございます!」


見張り役の3人は嬉しそうに串を受け取り、その場でかぶりつく。


「うまっ…!いいっすねこれ」


「ああ、オーク肉なんだが美味いか?」


「はい!全然臭みもないし、普通に豚肉みたいです!」


眷属たちは夢中で肉を頬張っている。俺も一本手に取り、かぶりついた。


(おぉ、これは美味い)


噛んだ瞬間に肉汁が口の中に溢れる。焼き加減もちょうどよく、シンプルな塩胡椒の味付けが肉の旨味を引き立てている。

普通の豚肉と何ら変わらないな。


「異常はなかったか?」


「はい、特に動きはありませんでした。モンスターの気配もありません」


「そうか。引き続き警戒を頼むな」


「了解です!」


俺は食事を終えた見張りたちを残し、再び千里魔眼を使用する。視界を上空へ移動させ、周囲を確認する。


ショッピングモール周辺は静まり返っており、モンスターの群れも確認できない。ひとまずしばらくは安全のようだ。

俺は視界を戻すと、見張りたちに声をかける。


「それじゃ、よろしく頼むな」


「はい!」「ごちそうさまでした!」


戻ると眷属たちが食事を終え、談笑していた。


俺は他の避難所の状況が気になるので、座り込んでメニューを開いて掲示板をチェックする。

スレッド一覧を流し見しながら、避難所の状況が分かるものを探す。



《さいたま市避難所の現状 Part8》


ーーーーーーーー


215.飯村タケシ

大宮の避難所、他から人が来すぎてる


216.鈴木ヒロム

分かりやすく戦力が集中してるし、どこの避難所も限界なんだろ


217.伊藤サオリ

動ける人が来てくれれば嬉しいんだけどねぇ

正直ただ食料消費するだけの人が来ても厳しいわ


218.萩原サトル

特に何もしてないのに偉そうに命令してくる人な

いい加減ああいう人は追い出したほうが良いと思うんだけどな


219.佐藤ヒロキ

他も大変そうか?


220.立川ハルト

お、悪魔さん。

もうどこもめちゃくちゃだよ


221.尾崎キイチ

あの避難所からは離れたんでしょ?


222.佐藤ヒロキ

ショッピングモールに移動した。

結局ホブゴブリンとオークの群れに襲われたがな。


223.飯村タケシ

うわぁそっちも大変だなぁ。こっちは金属みたいな甲殻に覆われてる蜘蛛が大量発生してるんだよねぇ。

仙人の爺さんがいるから何とかなってるけど


224.伊藤サオリ

あの人高齢なのに率先して動いてて凄いわ


225.佐藤ヒロキ

仙人?


226.立川ハルト

種族が仙人のお爺さんだね

大宮の避難所を仕切ってる人


227.伊藤サオリ

元々色んな武術極めてた人だから凄い強いんだよ


228.佐藤ヒロキ

へぇ、そんな人もいるんだな


229.尾崎キイチ

不老のスキルを貰って歳を取らなくなったけど元々高齢だったからあまり意味がなかった悲しい人でもある


230.黒木マリン

佐藤さんのところはどんな感じです?


231.佐藤ヒロキ

こっちは300程度のオークとホブゴブリンの群れの襲撃だった

夜なのもあるだろうが、今はだいぶ落ち着いたな。


232.立川ハルト

やっぱりどこも規模が大きいなぁ

というかよく捌き切れましたね


233.佐藤ヒロキ

まぁ俺のとこは全員眷属で戦えるからな

そういえば、オークはオーク肉という豚肉と何ら変わらない肉をドロップしたが、他はどうだ?


234.飯村タケシ

こっちは金属蜘蛛の脚w

でっかくて肉厚だし、ほぼ蟹みたいな味で美味かったな

殻は結構硬いから何かしらの素材にできそうって話が出てる


235.黒木マリン

こっちは緑区の避難所ですけど木のモンスターが沢山出ましたね。

ドロップ品はサッカーボールぐらいはありそうなリンゴでした、甘くて美味しかったですよ


236.佐藤ヒロキ

やっぱり食料になりそうなのが多いな


237.立川ハルト

そう考えると平原は食料が多そうですね

そういえばヒロキさん都内の政治家たちが集まってた避難所が解散したの知ってますか?


238.佐藤ヒロキ

??

解散?


239.立川ハルト

はい、解散です

自身を守ることばかり命令してくる連中に呆れて、自衛隊はその人たちを置いて別の避難所の支援に行ったそうですよ


240.佐藤ヒロキ

ほう、いい傾向じゃないか。

これで他の避難所も楽になるといいな




俺はスレッドを閉じて、一息ついた。

ようやっと自衛隊も守るべき者がそこにいないことに気付けたらしい。


そういえばサイクロプスからの獲得MPがあったな、レベルでも上げるか。

メニューからステータスを選択する。

ーーーーーーーー

〔Lv.8〕次のレベルまで8000MP

〔名前:佐藤ヒロキ〕

〔種族:悪魔〕

〔攻撃:D−〕〔防御:E〕〔俊敏:F+〕〔魔法:D〕

〔種族スキル〕

[眷属化][契約][千里魔眼]

〔スキル〕

[火魔法Lv.4][影の小鬼Lv.3]

〔ユニークスキル〕

[鬼の身体]

ーーーーーーーー


鬼の身体がどんなものかまだ検証してなかったな。

まぁいい、レベルを上げよう。


〔MPを消費してレベルを上げますか?〕

〔はい〕〔いいえ〕


〔はい〕を選択する。


ーーーーーーーー

〔Lv.9〕次のレベルまで12000MP

〔名前:佐藤ヒロキ〕

〔種族:悪魔〕

〔攻撃:D−〕〔防御:E+〕〔俊敏:E−〕〔魔法:D+〕

〔種族スキル〕

[眷属化][契約][千里魔眼]

〔スキル〕

[火魔法Lv.4][影の小鬼Lv.3]

〔ユニークスキル〕

[鬼の身体]

ーーーーーーーー


次のレベルまで12000か、当たり前だがどんどん増えていくな。

さてと、明日の朝までに色々と対策しておくか。


「カイ、ハルカ、1階を毒水まみれにしようか」


「はい?」「ギギ?」





1時間後、1階は地獄絵図となっていた。


1階のフロア全体が薄い紫色の毒水で満たされている。床に広がるそれはわずかに蒸気を上げ、不気味にゆらめいていた。

そしておまけと言わんばかりにスケルトンが大勢いる。


「…見事なもんだな」


俺はカイとハルカの共同作業の成果を見下ろしながら、満足げに頷く。


「これで侵入しようと試みるやつは多少は痛い目を見るはずだ」


「ギギ…」


ハルカは腕を組んで満足気に頷いた。カイは少しお腹を擦っている。

どうやら口から吐き出す毒液は嘔吐するときの感覚と似ているらしく、ハルカに応援されながら出していた。


「カイの毒液と私の水魔法、相性バッチリですね」


「ギギ!」


「まさか短時間でここまで広げられるとは思わなかったな」


カイが毒液を吐き出し、それをハルカが水魔法でさらに拡散させていく。結果として、1階のほぼ全域が毒の池と化した。

一応外の非常階段か屋上から安全に侵入できるが、そこからだったら対応しやすいので悪くない。


俺たちは毒水がしっかりと浸透していくのを確認しつつ、1階の状況を改めて見回した。


「…これ、うっかり降りたらやばいな」


「ですね。迂闊に足を踏み外さないように気をつけないと」


一応、階段やエスカレーターの入り口部分には障害物を置いて、簡単には降りられないようにしてある。


「じゃあ、そろそろ戻るか」


俺たちは毒水の効果を再確認した後、慎重に3階へと引き返した。これでショッピングモールの害悪度は格段に上がったはずだ。

問題は、このままこの拠点を維持し続けるか、それともさらなる安全な場所を探すべきか。


(…少し探してみるか)


俺は眷属たちの様子を確認しながら、次の行動を考え始めた。

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