「オラァ!!」
俺は棍棒を振り上げて襲いかかってきたオークの腹に蹴りを食らわす。オークはそのモンスターの群れに吹っ飛んで、いくらかのモンスターを巻き込んで倒れた。
俺はそこに飛び込んで、戦斧を横薙ぎに振るいモンスター達を殺す。
〔MP +81〕〔MP +75〕〔MP +103〕〔MP +76〕
〔MP +95〕〔MP +111〕〔MP +96〕〔MP +89〕…
革の装備を身にまとったホブゴブリン数体が映画館の入口へ行くのが見えた。
「そっち行ったぞ!!」
「はい!!」
棍棒と盾を持った元ドワーフのカレンと近接系スキルを持つ眷属達が応戦する。
モンスターたちが唸り声を上げながら、映画館の入口へ押し寄せる。
カレンを先頭に、眷属たちは迅速に動き、侵入を阻止するべく迎撃態勢を取る。
「こっちは任せてください!」
カレンが盾を構え、迫るホブゴブリンの攻撃を受け止める。その隙に他の眷属が横から棍棒を振り下ろし、一撃で仕留めた。
そして後ろから魔法系スキルを持つ眷属達が放った、氷の塊や岩が飛んできてホブゴブリン達に直撃し、ホブゴブリンがよろめきながら後退したところを、近接組が逃さずに棍棒でトドメを刺していく。
追加で奥からホブゴブリン、オークの集団が迫ってきている。
「ちっ、無駄に数だけは多いな」
1階のスケルトン達はある程度働いたが、まぁ雑魚だし相手も数が多かったから大した意味はなかった。2階にもスケルトンを召喚しといたんだが、そいつらも同じだ。
それで3階に辿り着いたホブゴブリンが俺達を見つけ、雄叫びを上げてこの状況だ。もう戦い始めて2時間近くになる。
どうやらホブゴブリンとオークの群れのようで、かなり数がいる。
俺が魔力を多めに影に渡らせていると、カイが俊敏な動きでホブゴブリンとオークの集団に突っ込んでいく。
そしてカイは自身のスキルである毒液を付着させたナイフで、奴らの革装備の隙間から切り傷を付けていく。
すると後ろにいるハルカが水の塊を上空に浮かべた、そしてカイが戻ってくると、カイはその水の塊に口から毒液を放った。
水の塊と毒液が混ざり合う、そして毒水の塊と化したものをホブゴブリンとオークの集団へ放った。
毒水の塊が広範囲に広がり、ホブゴブリンとオークの集団に降り注ぐ。
「グギャァァ!!」
「ゴブォォ!!」
悲鳴と咆哮が入り混じる。傷口や目などに触れた毒が瞬く間に広がり、ホブゴブリンとオークたちの体力を奪っていく。
奴らはのたうち回りながら、次々と膝をついた。
あれはこの戦いの中でカイとハルカが編み出した連携技だ、中々に凶悪だと見ていて思う。
すると影小鬼達が大勢這い出てきた。
「噛み殺せ」
命じると、影から這い出た小鬼たちが一斉に毒に侵されたモンスターたちへと襲いかかる。
強靭な顎で次々とホブゴブリンとオークを殺していっている。
だが奥からまた追加で迫ってきている。
俺は右手で炎を生み出して左手から魔力を放出して炎をコーティングし、小さい炎の球体を創る。
そしてそれを遠くから迫ってくるホブゴブリンとオーク達へ放った。
炎の球体は先頭を走っているオークに直撃すると、小規模な爆発が起き、炎が周囲にばら撒かれる。巻き込まれた者は炎に包まれて転げ回る。
「ギャァァ!!」
「ゴブォォ!!」
火は瞬く間に燃え広がり、辺りを紅く染め上げた。
俺はその隙を見逃さず、さらに炎を手に生み出す。そして次なる炎の球体を作り出し、燃え盛る敵のど真ん中へ投げ込んだ。
ボンッ!!
再び爆発が起こり、残っていたモンスターたちが次々と倒れていく。
〔MP +73〕〔MP +101〕〔MP +99〕〔MP +106〕
〔MP +89〕〔MP +95〕〔MP +113〕〔MP +80〕…
爆炎に包まれたホブゴブリンが最後の断末魔を上げ、ついに戦場は静寂を取り戻した。
俺は戦斧を肩に担ぎ、周囲を見渡す。
「…とりあえず終わったか、ハルカ!毒水を1階にやってくれ」
「はい!」
ハルカは毒水を浮かび上がらせて1階へ落とした。俺も壁や床に燃え移った炎を魔力で集めて消した。
「皆、無事か?」
「はい!」
「問題ありません!」
眷属たちは戦利品を回収しつつ、次なる襲撃に備えて警戒を続けていた。
「よし、戦利品を回収したら一旦休憩だ。レベル上げれたら上げとけよ。足らなかったら魔晶石を使え」
「「「了解!」」」「ギギ!」
そうしてモンスター達がドロップしたものを回収していった。
ホブゴブリンとオークがドロップしたのは、魔晶石(小)とオークの肉が一番多かった。
魔晶石はゴブリンが落とす"極小"の1つ上の"小"だ、1つにつき50MPで交換できる。オークの肉は豚バラのブロックに近いな、色もまともで美味しそうだ。
他にも奴らが持っていた棍棒や革の装備も落とし、そしてスキルの書もドロップしていた。それも2つもだ。
1つは"土の傀儡"というゴーレムを召喚して戦わせるスキルで、2つ目は"疾風脚"という使用すると風を纏い一時的に素早くなるスキルだ。
土の傀儡はハルカに、疾風脚はカイに渡した。
最初は眷属が俺に渡してきたんだが、疾風脚は俊敏が低い俺が使ってもあまり意味がないし、土の傀儡も影の小鬼と若干役割が被るから攻撃手段に乏しいハルカにやった。
二人とも喜んでいたな。
そんなこんなで映画館入口で座って休憩タイムだ。各々飯を食ったり仮眠したりしている。
部屋の片隅には魔晶石を大量に置いていて、レベルを上げたいやつが使えるようにしている。今回だけでも300以上手に入ったからな。俺が100貰ったので、200ぐらいは置いてあることになる。
新しくなった眷属達は今回が初めての戦闘だったが、結構上手く戦えていた。やっぱりハーフデーモンになったことで恐怖を感じづらくなっているのがデカいな。
そんな眷属達も今はレベル3まで上がっている。俺も2つ上げれて今はレベル8だ。
俺は座って千里魔眼を使用する。
視界を移動させ、ショッピングモール内をくまなく探すがモンスターは見当たらない。
次は外に視界を移動させ、上空から周囲を眺めると、ホブゴブリンとオークの集団が見えた。この建物を目指しているようだが、その近くには前に遭遇した黒獣の群れがいる。
(これはかち合うな…)
しばらく眺めていると、予想通り戦闘が始まった。
まず黒獣がホブゴブリンとオークを見つけると襲いかかった。
黒獣は素早く間合いを詰め、鋭い爪でホブゴブリンの喉元を裂いた。
血飛沫が上がり、ホブゴブリンが悲鳴を上げて倒れる。
その声に反応するように、他のホブゴブリンとオークも武器を構え、黒獣の群れに向かって突撃した。
棍棒が振り下ろされるが、黒獣はしなやかに身を翻し、次々と回避していく。
ホブゴブリンとオークの力任せの攻撃に対し、黒獣は連携を取るように的確な動きで敵を仕留めていく。
オークの腹に喰らいつき、そのまま引き裂く個体もいれば、背後に回り込み首筋に噛みつく個体もいる。
戦況は明らかだった。黒獣の動きは洗練されており、ホブゴブリンとオークの集団は徐々に数を減らしていく。
だが、オークたちもただやられるだけではない。怒りに駆られた一体が咆哮を上げ、黒獣を思い切り叩きつけた。
地面に叩きつけられた黒獣は、しばらくもがいた後、動かなくなる。
ホブゴブリンとオークも死力を尽くして抵抗し、黒獣の数も減っていっている。
とはいえ明らかに黒獣のほうが優勢ではある…が、ホブゴブリンとオークはただ数が多い。
数体殺されては1体殺してを繰り返して黒獣の数を着実に減らしていっている。
(これは漁夫の利チャンスか)
俺は視界を戻して立ち上がる。
「ちょっと出てくる。しばらくは何も来ないだろうが警戒は怠るな」
「「「はい」」」「ギギ」
ふむ、いつもより覇気が無い。やはり疲れは溜まっていっているな。
そう思いながら俺は屋上に上がっていった。
屋上に上がると雲一つない綺麗な空が俺を出迎える。
奴らが戦っている方を見ると、まだ戦闘は続いていているが、数はかなり減っていっているな。
俺はいつも通り炎の球体を創り出していく。あれぐらいの量だと黒樹倒したぐらいの大きさで倒せるか。
俺はゆっくりと炎を魔力で包み込み、徐々にその規模を拡大させていく。
(あとは投げるだけだな)
戦場では、すでに勝敗が決しつつあった。
ホブゴブリンとオークは数を大幅に減らし、黒獣も半分以上が倒れている。
互いに疲弊し、動きも鈍ってきた。
(今だな)
俺は炎の球体を持ち上げ、黒獣とホブゴブリン、オークたちが入り乱れる戦場へと投げ放った。
ゴォォォォッ!!
球体は一直線に飛び、地面に激突すると爆発を起こし、炎が四方へと拡散した。
黒獣もホブゴブリンもオークも、爆発に巻き込まれた者は悲鳴を上げながら炎に包まれる。
地面に燃え広がる炎に、黒獣たちは本能的に後退しようとしたが、巻き込まれる。戦場は一瞬で地獄と化した。
もがき苦しみながら燃え尽きていくモンスターたちを見下ろしながら、俺は肩の力を抜いた。
「よし、終わりだな」
黒獣もホブゴブリンもオークも、もう動くものはいない。
俺は屋上から飛び降りると、焼け焦げた死骸の中からドロップ品を回収し始めた。
すると遠くから、重量のある足音が聞こえた。
足音がする方を見ると、4mはありそうな一つ目の巨人、サイクロプスが全力疾走で俺の方へ走ってきていた。
俺は咄嗟に翼を広げ飛び上がると、それを見たサイクロプスが建物に手を突き刺して無理矢理に屋根まで登った。
そして膝を曲げて力強くジャンプすると、空中にいる俺の足を掴んで地面へ投げた。
「グォっ…」
力任せに投げられた俺はバランスが取れずに背中から落ちる。
上から落下して踏みつけようとしてくるサイクロプスが見えた。俺は転がってそれを回避する。
痛みを堪えながら即座に立ち上がると、サイクロプスが顔に笑みを浮かべながらゆっくりと歩いていた。
それを見た俺は屈辱と怒りが沸き上がってくるのと同時に、久々に楽しめそうな戦闘の予感に笑みを浮かべた。
「下等生物が…」