次の日、俺はネズミの肉とにらめっこしていた。ただウネウネと黒い根が動いているだけの戦斧なんぞ後回しだ。
昨日掲示板で見た『そろそろドロップ品からも有用なものを探さなきゃいけない』という話に俺も強く共感した。
ちなみに眷属達はすでに物資集めとMP稼ぎに行っている。
俺はまな板と包丁、そしてネズミ肉を出して1cm幅に切り分けていく。
色は悪いが、臭いは悪くない。アイテムボックスの中に入れて2日ほど経っているが状態は悪くなっていない。
アイテムボックスの中は時間が止まっているのかもしれないな。
ネズミ肉を切り分けた俺はフライパンを取り出して、集めていた枝に火を付ける。
そしてフライパンに肉を並べて、火の上にフライパンを固定する。肉が焼ける小気味よい音が聞こえ始めて、肉の良い香りが漂う。
匂いが臭くないというだけで中々に期待できる。
焼けたネズミ肉に塩を軽くふりかけ、そのままトングで掴んで口に運んだ。
咀嚼すると味わったことのない肉の旨味が口に広がる、強いて言うなら牛に近いだろうか。
1枚目、2枚目と止まらないぐらいには全然いける。塩でこれとは中々食用として悪くない。
塩の味付けをしたネズミ肉を食べ終わると、また新しく並べる始めた。そして
俺は焼肉のタレを取り出した。
ある程度焼けてフライパンに焼肉のタレをぶっかけると、焼肉のタレと肉が混ざり合った良い匂いが鼻の中に猛突進してきた。
火が通ったのを確認して口に運ぶ。
「…これはうまい」
ネズミ肉に焼肉のタレの濃厚な味が絡み、塩だけの時とはまた違うコクが出ている。肉の歯ごたえも悪くない。
俺は黙々と肉を焼き、試しに醤油や胡椒などで味付けを変えながら食べてみる。
もはや、ただ食事を楽しんでいるだけになってしまっているが、気にしない。
「うん、ネズミ肉は普通に食えるな」
これなら眷属たちにも食わせられる。今後、肉の供給源として活用できそうだ。
ただ未だに1匹しか見つけられてないのが少し気になるところだな。
「さて、次はこれだ」
俺は試しに、昨晩手に入れた黒い根の絡みついた戦斧を取り出した。
持ち手の部分は動いていないが、斧刃に絡みついている部分が僅かに蠢いているのだ。
正直中々に気持ち悪い、何なのだろうか。
俺は戦斧を握り、軽く振ってみる。昨日感じた重量と変わらない。
「試してみるか」
そう考えた俺は、近くにある適当な廃材へと戦斧を振り下ろした。
ズバンッ!!
「…おお」
戦斧は廃材を叩き割ったが、まぁ斧だったらこれぐらいは普通に出来るだろう。
ましてやこの体になってから力も増しているんだ、これぐらいは出来なきゃ困る。
しかしここまでウネウネと主張しといて、何も効果がないなんてことがあるのだろうか。
(…待てよ、魔力があったか)
手から戦斧に魔力を渡らせようとする。すると黒樹が魔力を吸収した。これは当たりだったようだ。
どんどん吸収させていくと、戦斧全体から黒いモヤが出てきた。
(ん、スキルか?)
根を伸ばして鞭のように攻撃できる"黒樹鞭"というスキルと、
スケルトンを大量に召喚する"スケルトン召喚"スキルの使い方が頭の中に流れ込んできた。
どうやらこの武器に付与されているスキルみたいだ。魔力を注いで完成する武器だったんだな。
というか最初に触った段階で教えてくれても良いだろうに、変なところで親切じゃない。
俺は校庭に行き、魔力を注いで黒樹鞭を発動させると、斧刃に絡みついていた根の一本が急成長して5mほどまで伸びて前方を横薙ぎに振るい、そしてすぐに元に戻った。
注ぎ込む魔力によって長さも変わるようだ。
再度魔力を注いで、次はスケルトン召喚を発動させる。
すると地面に2mほどの紫色に光る魔法陣が現れ、そしてそこから1体のスケルトンが召喚された。
召喚されたスケルトンは召喚された魔法陣の周辺をウロウロと歩いている。
少し経つと、またその魔法陣からスケルトンが召喚された。
スケルトン召喚は30秒おきにスケルトンが召喚される。
魔法陣は3つまで出せて、それ以上出そうとすると一番古い魔法陣が消える。
そしてこの魔法陣は30体召喚すると消える、だが魔法陣は消えてもスケルトンは消えない。
しかも命令も従うのでそこそこ使えそうだ。
「もしかしてあいつ、近付いたら根っこで攻撃するタイプだったのか?俺あいつの上空から倒しちゃったもんな」
少し悪いことしたなと一瞬考えたが、よくよく考えるとあいつは害を与えてきたモンスターだった。
悪いもクソもない。
黒樹の戦斧の検証が終わった俺は、ステータスを開いた。
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〔Lv.4〕次のレベルまで2000MP
〔名前:佐藤ヒロキ〕
〔種族:悪魔〕
〔攻撃:F+〕〔防御:F+〕〔俊敏:F−〕〔魔法:E−〕
〔種族スキル〕
[眷属化][契約]
〔スキル〕
[火魔法Lv.2][影の小鬼Lv.2]
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お、影の小鬼がレベル2になったか。火魔法は変化無しと、まぁそこまで使ってないからな。
それで所持MPが…
〔所持MP 7621〕
「7000?随分あるな……あぁ、昨日の眷属達が獲得してた黒樹のMPも10%分回収されてるのか」
MPも溜まったことだし、レベルを上げることにする。
〔2000MPを消費してレベルを上げますか?〕
〔はい〕〔いいえ〕
俺は〔はい〕を選択する。
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〔Lv.5〕次のレベルまで3000MP
〔名前:佐藤ヒロキ〕
〔種族:悪魔〕
〔攻撃:E−〕〔防御:F+〕〔俊敏:F〕〔魔法:E〕
〔種族スキル〕
[眷属化][契約]
〔スキル〕
[火魔法Lv.2][影の小鬼Lv.2]
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ふむ、いつも通りだな。もう一度上げるか。
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〔Lv.6〕次のレベルまで4000MP
〔名前:佐藤ヒロキ〕
〔種族:悪魔〕
〔攻撃:E〕〔防御:E−〕〔俊敏:F〕〔魔法:E+〕
〔種族スキル〕
[眷属化][契約][千里魔眼]
〔スキル〕
[火魔法Lv.2][影の小鬼Lv.2]
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「お…」
新しい種族スキルだ。頭にスキルの情報が流れ込んでくる。
どうやら遠方を障害物を無視して見渡せるスキルのようだ。
試しに眷属達がいる方へ使ってみると、視界がドローンの映像のように動いていく。
かなり自由に見ることができ、目まぐるしく視界が変わる。
そして眷属達を発見することができた。物資を漁るものと周囲を警戒するもので分かれているみたいだ。
ふむ、真面目にやっているようで何よりだな。しばらく周囲を見渡して危険もないようなので一旦魔眼を切る。
スケルトン達がいる校庭に視界が戻ると…酔った。画面酔いに近しいものを感じる。
「これは慣れが必要だな…」
俺は少しよろよろと力無く歩きながら体育館へ戻った。