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第6話 虫人

次の日、俺達は無事夜を乗り越えた。


1日過ごして気付いたのだが、悪魔とハーフデーモンは排泄をしないらしい。

さすがに1日たってもトイレを催さないのでおかしいと思い、眷属達にも聞いたが同じだと言っていた。

これ眷属になるメリットのなかで一番大きいだろ。この状況下じゃ特に。


そんなことを思いながら、朝食を終えた眷属達を集め、今日の行動について説明する。


「それじゃあ、俺はスーパーとその付近にある物資を回収してくる。

お前らはハルカをリーダーに住宅街にある物資を片っ端から回収、モンスターを討伐してMPを稼げ。魔晶石も自分達で使い積極的にレベルを上げていけ。

常に周囲を警戒して、油断をするな。昨日みたいにゴブリンで遊ぶのも控えるように」


「「「はい!!」」」


ハルカとは体育館で出会った日に女性達の前に出て積極的に俺と話していた元エルフだ。

周りもよく見ていたのでリーダーに最適だと判断した。


「それじゃあ行ってくるな」


「「「お気をつけて!!」」」


…なんだか忠誠心がとんでもないことになってるが、まぁ良いだろう。

そう思いながら俺はスーパーへ向かって歩き出した。




数分歩いて気付く、そういえば翼が生えたんだと。


「……試してみるか」


俺は少し足を止め、背中の翼に意識を集中させた。


(どうやって動かせばいいんだ?)


手足のように動かそうとしても、感覚が掴めない。

だが背中の筋肉の動きを意識してみると、翼がピクリと反応した。


「おっ…」


ゆっくりと翼を広げてみると、思っていた以上に大きい。これなら飛べるかもしれない。


「いけるか…?」


俺は軽く地面を蹴り、翼を羽ばたかせてみた。


バサッ!


「おおっ!?」


ふわりと身体が浮いた…が、バランスが取れずにすぐ着地する。


「なるほど」


中々難しいが、上昇や滑空なら可能そうだ。移動手段として使えるかもしれない。


「よし、練習しながら行くか」


そう思い、翼を使って練習しながらスーパーへ向かった。





《スーパー前》


「さて、問題は中に何がいるか…」


俺は建物を見上げる。窓ガラスは割れ、入口の自動ドアも歪んでいる。モンスターがすでに侵入している可能性は高い。


「慎重にいくか」


俺は鉄パイプを握りしめ、ゆっくりと中へ足を踏み入れた。


中は静かだが、生臭い匂いが充満している。

俺は周囲を警戒しながら、さらに奥へと進んでいった。

中はかなり荒らされていて、食べ物が地面に散らばっている。


「思ったより酷いな」  


棚は倒され、パックの飲料や菓子類が無惨に踏みつぶされている。

だが缶詰やカップ麺などの保存食はかなり残っていたので回収していく。


「まだ使えそうなものはあるかね」  


俺は足元に散らばる食料を確認しながら、慎重に進む。

シャンプーやボディソープなどの日用品はまだまだ大量に残っていた。

日用品があるということは、まだ人は来てないみたいだな。

あとから来る者には悪いが、早いもの勝ちだ。全て持っていくとしよう。


あらかた回収し終えると、裏へ向かった。

そこにはまだ開梱されていない段ボールがいくつもあった。


「これは、大当たりだな」


思わず呟いて、回収していく。


俺はアイテムボックスに次々と段ボールを詰め込んでいく。缶詰、インスタント食品、ペットボトルの水、日用品など様々だ。

これだけの物資があれば、当分は困らないだろう。


「さて、十分に回収できたし、次へ向かうか」


そう思った瞬間


「ギギ……ギィィ…」


微かな鳴き音が倉庫の奥から響いた。


「隠れてたか」


俺は鉄パイプを構え、ゆっくりと音のする方へ足を踏み出した。


鳴き声が聞こえた方まで行くと、そこには人型の虫がいた。

俺はすぐさま鉄パイプを振り下ろそうとすると、虫は怯えたように両手で防ごうとする。

妙に人間じみた怯え方に思わず手を止め、声をかける。


「お前、もしかして元人間か?」


「!?ギギィ!」


その人型の虫は驚いたあと、勢いよく首を縦に振った。


まさか虫に進化しているやつがいるとは思わなかったな。喋れもしない生物に進化してしまうとは不憫なやつだ。


「ふむ、一緒にくるか?」


「ギギ!」


虫人間はまた勢いよく首を縦に振る。


「そうか。ちなみにMPは使ったか?」


「ギギィ?」


俺は眷属達に説明したのと同じように説明していった。

虫人間はメニューをいじっている。


「ギギ…」


虫人間は腕をじっと見つめた後、俺の方を見上げて再び首を縦に振った。終わったみたいだ。


「よし、じゃあ一緒に来い」


俺は虫人間を連れてスーパーを後にした。

まだまだ外は明るい。帰るには少し早いが、まぁ良いだろう。


「さて、帰るか」


俺はスーパーを後にし、体育館へと戻る道を歩き出した。




《体育館》


まだ誰も帰ってきておらず、体育館の中は静かだった。


「ふぅ、一息つけるな」


「ギギ」


「そうだ。お前の名前とステータスの内容を教えてくれないか?」


「ギギ!」


俺がペンとノートを渡すと、虫人間はスラスラと書いていく。

少し立って書き終わり、見せてもらう。


虫人間の名前はカイで、種族は虫人というらしい。

初期スキルは"毒液"という口から毒を吐き出すスキルで、ステータスは俊敏だけが非常に高い。

種族スキルは"危険察知"と"雑食"で、"危険察知"は自身の危険を察知できるスキルで、雑食は基本何でも食べれるスキルだ。


「なるほど……うん、お前俺の眷属になるか?」


「ギギ?」


カイは首を傾げる。俺は眷属化についての説明をする。

メリットとデメリットを話して眷属化の条件を整えていく。


「…で、どうだ?眷属になるか」


「ギギッ!」


カイは力強く頷いた。それを見た俺は眷属化を使い赤黒い魔法陣を地面に展開する。


「さぁ、魔法陣の上に立て」


「ギギ…」


カイは恐る恐る魔法陣の上に立った。すると見た目が今までよりも光を吸収するような黒い外殻へと変化した。

瞳は赤く光り、背中には小さな羽が生えていた。


「ギギ…!」


カイは自分の手を見つめ、次に羽をバサリと動かしている。

完全に飛ぶことはできないようだが、若干体を浮かせることで俊敏性を高めることができるようだ。


「どうだ、力の変化は感じるか?」


「ギギ!」


カイは嬉しそうに頷いた後、床を蹴って素早く動いてみせた。滑らかに、微かな音で移動している。

俊敏性に特化した能力は戦闘でも有用だろう。




そうしているうちに、体育館の入り口から足音が聞こえてきた。


「ヒロキ様、戻りました!」


ハルカを先頭に、眷属たちが帰還したようだ。全員無事なようで安心する。


「おかえり。そっちはどうだった?」


「物資の回収も順調でしたし、ゴブリンを40体ほど討伐しました!」


「ほう、まだそんなにいたのか」


俺は頷きながら、彼女たちの表情を見た。誰も疲弊していないどころか、充実感すら漂わせている。

戦闘に適応し始めているようだ。


「えーっと、ヒロキ様。その虫…?」


「新しい仲間だ」


俺はカイの肩を叩く。カイは少し緊張した様子で前に出た。


「名前はカイ。元人間で、種族は虫人だ」


「えっ、人間だったんですか!?」


「…驚きました」


眷属たちは少し戸惑いながらも、すぐに受け入れる様子を見せた。


「カイも眷属になった。喋れないが、これからは一緒に戦う仲間だ」


「ギギ!」


カイが元気よく鳴くと、眷属たちは微笑んだ。


「よろしくお願いしますね、カイ」


「…ギギ!」


そうして、虫人であるカイが仲間に加わったのだった。

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