「それじゃあ鉄パイプやらの武器も持ったことだし、行こうか」
「「「はい!」」」
そうして俺達は住宅街に向けて歩き出した。
住宅街へと足を踏み入れると、荒廃した光景が広がっていた。
割れた窓、崩れた塀、放置された車。至る所に生活の痕跡があるが、人の気配は感じられない。
俺は周囲を見渡しながら慎重に進む。
とはいえ、まだ探索されていない家には食料や生活用品が残っている可能性が高い。
「まずは適当に漁れそうな家を探そうか」
「了解です!」
眷属たちは生き生きとした表情で頷く。
彼女たちは以前の恐怖や無力感から解放され、今は明確な目的を持って動いているように見える。
やる気に満ちた表情を見ると、眷属化の影響がある程度良い方向に働いているようだ。
「じゃあ、あの家にするか」
俺は比較的ダメージの少ない一軒家を指差す。
玄関のドアは閉まっているが、鍵がかかっているかは分からない。
俺が軽くドアノブを回してみると…
「お、開いたな」
鍵がかかってなかったようで、問題なく開いた。
中に入ると、リビングには誰もいなかった。
「それじゃあ俺は食料関係を探すから、お前たちは生活用品を探してくれ」
「わかりました!」
眷属たちはすぐに動き出し、それぞれ部屋を調べ始める。
俺もキッチンへ向かい、戸棚や冷蔵庫を開ける。
「お、缶詰発見」
手に取ったのはツナ缶、果物の缶詰など。
「こっちも米やインスタント食品があるな」
アイテムボックスに詰め込みながら、俺はふと周囲の音に耳を澄ませた。
「……ん?」
かすかに、外から物音が聞こえた。何かが動いている音。
俺は窓の隙間から外を覗き込んだ。そこには
「アイツは、ゴブリンじゃないな」
住宅街の路地に現れたのは、全身を黒い毛に覆われた獣のようなモンスターだった。二足歩行で、鋭い爪を持ち、目は真っ赤に光っている。
「初見だな。強いのか分からん」
その獣は鼻をひくっと動かすと、勢いよくこちらに顔を向けた。
そして完全に俺と目が合った。俺は窓から距離を取って鉄パイプを握りしめる。
「お前らは家から出てろ!!」
「は、はい!」
眷属たちは急いで部屋から出ていく。
獣は間髪入れずに窓を突き破って襲いかかってきた。
咄嗟に鉄パイプで獣を殴りつける、少し怯んだが構わずに襲いかかってきた。
獣は俺に覆いかぶろうとするが、手から炎を出して牽制する。
炎を見た獣は飛び避けた。その隙に自身の影へ魔力を送る。
影から数体の影小鬼が現れた。
「あの獣にしがみついて動きを阻害しろ!」
そう命令すると、影小鬼たちは獣に向かって走っていく。
獣は影小鬼の1体に噛み付くと、その噛み付かれた影小鬼は獣を抱き締めるような形でしがみついた。
他の影小鬼たちも足や体にしがみつく。俺は影小鬼を引き剥がそうと暴れている獣に手を向ける。
「じゃあな」
そして勢いよく噴き出した炎で影小鬼ごと獣を燃やし、獣は火だるまになった。
家に燃え移ったのを見て俺は急いで家から出た。
外に出ると眷属達がゴブリンの集団と戦っていた。どうやらまだ残っていたやつが騒ぎを聞きつけてやってきたみたいだ。
様子を見るに眷属達が優勢みたいだ。
ゴブリンの手足を折って動かせなくしたり、魔法で水をゴブリンの顔に纏わせて溺れさせたり、わざと弱めに殴り続けて少しでも痛めつけようとしたり…
軽く拷問する余裕まであるようだ。トラウマでも発症するかと懸念していたが、大丈夫みたいだな。
俺は楽しんでいる眷属達に声をかける。
「楽しむのも良いが、さっさと終わらせろ」
「あ、すみません!」
「ご無事で良かったです!」
眷属達は晴れやかな笑顔をこちらに向け、次々とゴブリンを始末していく。
地面に落ちている魔晶石を見る限り20匹ぐらいはいたみたいだが、問題ないみたいだな。
少し経つと無事戦闘は終わった。そして眷属達がこちらに駆け寄ってくる。
「上手く戦えたみたいだな」
「はい!もう凄く楽しくて」
「ヒロキ様もご無事で良かったです。それでこの水晶?はどうしますか?」
そういえば、まだ説明してなかったな。
「ああ、それは魔晶石と言って、ショップでMPに変換できるものだ。ゴブリンだと1つ10MPとかだな」
「へぇ!あっ、じゃあヒロキ様が使ったほうが良いですね!」
そう言って眷属達は魔晶石を集めて俺に渡してきた。
「良いのか?」
「はい!どうせ私達で分けたところで大したMPにはならないですし」
「…それもそうか、ありがとう」
俺は受け取った魔晶石をアイテムボックスへ入れていった。
「さてと、それじゃあ次の家に行こうか」
「「「はい!」」」
そうして俺達は日が暮れるギリギリまで寝具やらの物資を回収していき体育館へ戻った。
眷属達は手に入れたマットレスを並べていっている。俺の寝る場所は壇上になった。
とりあえずはそこそこの物資が手に入った。日用品をそこそこの数を手に入れたのは大きいが、それでもここには13人もいるから一月持つかも怪しい。
「やっぱり明日にはスーパーに行くかな」
缶詰を食べている眷属達を眺めながら、俺はそう呟いた。