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第4話 モンスターというもの

「さてと、中はどんなものかな」


ゴブリン達に汚されていないと良いが。

まずは校舎から探索してみる。中はひどく荒らされている、わざわざ掃除するのも面倒くさいからここに住むのはないかもしれない。


「これは…」


2階に上がると、人の死体がいくつも転がっていた。

ゴブリン達に殺されたのだろう。あちこちに血の跡が広がり、壁や床には乱暴に引き裂かれた服や荷物が散乱している。


「…ここ、避難所だったんだよな」


バリケードの残骸、割れた窓ガラス、そして無惨な遺体。

ここに逃げ込んだ人間たちは、ゴブリンの襲撃に耐えられなかったらしい。


「ふむ…」


俺は顎下を触りながら、遺体に視線を向ける。腐敗は進んでいない。

つまり、襲われたのはそれほど前ではないみたいだ。


「…一応生存者がいないか探してみるか」


そう言い、校舎内の探索を再開した。





「ま、さすがにいないわな」


隅々まで探してみたが、校舎内には生存者はいなかった。

次は体育館の方へ行ってみる。一応あそこからもゴブリンが出てきていたから、綺麗ではないだろう。


俺は1階に降り、体育館へ向かう。

体育館の扉まで行くと、あまりにも濃い異臭がした。

中に入ると、そこには紐で拘束された女性達の姿があった。


「なるほど…」


おそらくは、ゴブリン達が繁殖するためのものだろう。やけに数が多いと思っていたが…

女性達は俺のことをジッと諦めたような表情で見ている。


「あ…あー、俺は今はこんな姿だが、元人間だ。今拘束を解く」


そう言い俺は女性達の拘束を解いていく。


「…ありがとうございます」


「…いや、早く来れなくて悪かったな」


俺は手早く女性たちの拘束を解きながら、彼女たちの様子を確認する。

疲労困憊で意識が朦朧としている者もいれば、怯えて震えている者もいる。

だが、幸いにも今すぐ命の危険があるような重傷者はいないようだった。


「外に水道があったか、ちょっと待ってろ」


俺は外に行き、バケツに水を入れていくつも体育館の中に入れていく。まだ水道が生きててよかった。

そしてアイテムボックスから持っているタオルと衣服を全て出す。


「これ、好きに使ってくれ。俺は外で待ってる」


そう言って俺は外に出て、近くにあるベンチに腰掛ける

しかし、どうしたものかと考える。近くの避難所に送り届けると言っても、移動にはそれなりに危険が伴うだろう。


救助隊か何かに来てもらうのが一番楽なのだが、この状況だ。

自衛隊も避難所の防衛やらでいっぱいいっぱいだろう。


「どうしたもんかね…」


「あの…終わりました」


中にいた女性が話しかけてきた。


「ん、着替え足りたか?」


「はい」


「そうか」


俺は立ち上がって体育館の中に入る。中の臭いは相変わらず最悪だったので、俺は体育館の窓を全て開けた。

体育館の中に春の気持ちのいい風が吹く。俺は女性達の方を見る。


「とりあえず、自己紹介だな。俺は佐藤ヒロキだ。

えーっと、そうだな……これからどうしたい?」


我ながら適当な質問だ。だが重要なことではある。

するとエルフの女性が話し出した。


「私…私は…あいつらをグチャグチャにして殺してやりたいです…!!」

「私も…あいつら…!」

「殺してやる…」


「お、おお」


唐突に晒け出した女性達の殺意に少し驚きながらも、納得する。

しかし、とても美しく純粋な殺意だ。俺は自然と女性達に提案していた。


「そうだな。それじゃあ俺の眷属にならないか?」


「眷属…?」


エルフの女性が俺の言葉を繰り返す。他の女性たちも戸惑ったように顔を見合わせている。


「簡単に言うと俺の仲間になるってことだ。ただし普通の仲間とは違う。

俺の眷属になれば、お前たちはハーフデーモンになる。つまり、悪魔の力を一部得ることができるんだ」


「悪魔の…力?」


「ああ。具体的には、ステータスの攻撃と魔法が上がる。

まぁ単純な強化だな」


俺は淡々と説明する。


「デメリットは?」


エルフの女性がすぐに尋ねてきた。賢い。

まぁどちらにせよ説明することにはなるんだが。


「フフ…まず俺に絶対服従になることだ。命令には逆らえないし、俺に危害を加えることはできなくなる。

まぁ無理に従わせるつもりはないし、お前たちを奴隷扱いするつもりもないとは言っておく。

ただ、俺の指示が必要な場面では従ってもらうことになる。

そしてもう1つは君達が獲得したMPの10%が自動で俺に徴収される。

これが俺にとって一番のメリットだ」


俺の言葉を聞き、女性たちは考え込む。


「…その力を得れば、ゴブリンどもを殺せますか?」


「まぁ単純に強くなるからな、殺しやすくはなるだろう」


俺がそう言うと、エルフの女性の目が燃えるように輝いた。そして、他の女性たちもそれぞれ決意を固めたような表情を見せる。


「やります……!」


「私も……!」


「私も!」


次々と声が上がる。俺はゆっくりと頷き、右手を差し出した。

俺が眷属化のスキルを発動すると、地面に赤黒い魔法陣が浮かび上がる。


「お前たちがこの上に立てば眷属化は成立する。そうすれば、お前たちは俺の眷属になれる」


エルフの女性が真っ先に踏み入れ、魔法陣の上に立った。

すると、彼女の身体が淡く輝き始めた。


「っ…!」


光が収まると、彼女の肌は灰色になり、瞳は金色に変化していた。

そして頭には特徴的な捻れた黒い角が2本生えていた。


「あっははは!!これが、これが悪魔の力…」


彼女は自分の手を見つめ、力がみなぎるのを感じているようだった。

他の女性たちも次々に魔法陣に踏み入れ、同じように変化していく。

そして皆もれなくハイテンションになっていった。


(ふむふむ、精神の変化か。一応ポジティブな方向に変化…してるよな?

それに彼女達と精神の繋がりを感じる…ん?)


何か、背中が熱く…

そう感じたその瞬間、背中からTシャツを突き破ってコウモリのような翼が生えてきた。

俺は破けたTシャツを脱ぎ捨てる。


「ビックリした…眷属が出来たからか?」


「素敵…」


声が聞こえた方を見ると、エルフだった女性がウットリとした顔で俺のことを見ていた。

いや、この人だけじゃない。この場の全員がそうだった。


(なんだ…?美的感覚が歪んだのか?)


俺は軽く咳払いをする。


「んっんん…それじゃあ今後の予定を決めようか」


「「「はい!!」」」


……なんかだいぶ従順になっちゃったな。眷属化の影響は思っていたよりも大きいかもしれない。


「ま、とりあえずは生活環境を整えようか。ここの掃除を始めよう。まずは体育館の清掃からだな」


俺は周囲を見回す。ゴブリンどもがいたせいで、この場所は相当に荒れ果てている。

臭いもひどく、何よりこのまま寝泊まりするには衛生的に最悪だ。


「床にこびりついた汚れは水と雑巾で落とせるか…ホースでもあるかね」


などと考えていると、俺の眷属となった元エルフの女性が手を挙げた。


「私、水魔法が使えます!」


「ほう?」


彼女が手をかざすと、水が勢いよく出て汚れを流していく。


「いいね。それじゃどんどん汚れを流していって」


「やってみます!」


彼女が床に向かってその様子を見ていた他の眷属たちもそれぞれ自分の力を試し始めた。


「私、力が強いです!」


「私も!バリケードの残骸を片付けてきますね!」


彼女たちは予想以上に能力を伸ばしていた。

眷属化の影響で身体能力が強化され、戦闘だけでなく作業にも大いに役立ちそうだ。


「これなら思ったより早く片付きそうだな」


俺も手伝いながら、改めて眷属化の影響について考える。


1. 能力強化(主に攻撃,魔法,身体能力の向上)


2. 精神の変化(主への従順さの増加,性格の一部変化)


3. 眷属との精神的な繋がり

(眷属の感情が薄く伝わる,眷属のいる場所が何となく分かる)


特に3番目の要素が気になる。

言葉にせずとも、彼女たちの「主人に尽くしたい」という感情がうっすら伝わってくるのだ。

先程まではただの他人だったと言うのに、この急激な変化は少し不安だが…


「まぁ悪い影響はなさそうだし、とりあえずはいいか」


とりあえず彼女たちの様子を見守りつつ、体育館の清掃を続けた。





数十分後、体育館は見違えるほど綺麗になっていた。


「ふぅ、やればできるもんだな」


「はいっ! これで少しは快適に過ごせそうです!」


「寝るスペースも確保できましたし、生活の拠点にはなりますね」


眷属たちは満足そうに頷いている。


「とりあえずここを仮の拠点にするとして、まずその辺の家から寝具を調達するとしようか。

ついでに道中モンスターがいたら戦闘も積極的に経験しておこう」


「「「はい!」」」


「うん。ところでみんなMPって使ったかな?」


武器になりそうなものは外にいくらでもあるから、出来ればレベルを上げたいが。


「いえ、私は使ってません」


「私もよく分からなかったので…」


「私も…」


どうやら皆使っていなかったみたいだ。


「それなら良かった。それじゃあメニューからステータスを開いて…」


そうしてレベルアップをしてもらい、メニューの使い方も教えていった。

ここにいるのは俺を除いて12名で、ハイヒューマンが7人、エルフが2人、ドワーフが1人、獣人が2人だ。今はハーフデーモンになっているが。


ハイヒューマンは初期スキルがバラバラで、その初期スキルに応じたステータスとなっている。

種族スキルは"自己回復"というスキルだった、傷を癒すのを早めるらしい。

容姿は普通の人間と何ら変わらない。


エルフの初期スキルは魔法で、属性はバラバラだ。ステータスは魔法と俊敏が高い。

種族スキルは"魔力の源"というスキルで、魔力量が増量され魔力の回復を早めるスキルだ。

容姿は尖った耳に美形という典型的なエルフだ。


ドワーフの初期スキルは"強打"というスキルで、打撃の威力を高める。ステータスは攻撃と防御が高い。

種族スキルは"頑丈"で防御を上昇させるスキルだ。

容姿はガタイの良い人間という感じだ、身長は小さくない。


獣人の初期スキルは近接系のものが多く、ステータスは攻撃と俊敏が高い。

種族スキルは"脚力強化"で俊敏を上昇させるスキルだ。

容姿は狼のような耳を付けた人間だ。


そしてハーフデーモンになってもこれらのスキルは引き継がれる。

さらに驚いたのが、ハーフデーモンも種族スキルとして"眷属化"を覚える。



あれ?こいつら俺より強くね?

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