俺、佐藤ヒロキはいつも通りの一日を終え家に帰り着き、静かなアパートのドアを開ける。
仕事から解放される瞬間のこの感覚は、何度経験しても変わらない。
スーツを脱ぎ捨て、シャワーを浴びて汗を流す。
温かいお湯が疲れた身体を癒してくれる。
風呂から上がると冷蔵庫からビールを取り出し、手慣れた手つきで缶を開ける。
プシュッという音と共に、黄金色の液体がグラスに注がれる。
「今日は一段と疲れたな…」
テレビをつけ、何気なくニュースを見ながら晩酌を始める。何も考えず、ただ無心に飲むこの時間が好きだ。
ちびちびと飲みながら、いつものように夜が更けていく。
やがて、眠気が訪れた。
ベッドに潜り込み、明日の仕事のことを考えつつ、ゆっくりと目を閉じた。
『これより、世界のアップデートを開始します。一時的に行動が不能となりますのでご注意ください。繰り返します。これより、世界のアップデートを…』
「うお!!なんだ!?」
突然、頭の中で女の機械音声が大音量で響き渡り、俺は思わず飛び起きる。
その瞬間、全身を突き刺すような激痛が襲った。
「いだだだだ!!な、何なんだよ…!」
突然の痛みに驚き、身体を丸める。骨が軋み、筋肉が引き裂かれるような感覚が全身を駆け巡る。
そして、激しい痛みに襲われた俺は意識を失ってしまった。
「ん……寝てたか」
寝起きにしては妙に頭が冴え渡っている。随分と気持ちよく眠れたらしい。
俺はいつもの癖で枕元にあるスマホを取ろうとすると、妙に肌色が悪い自分の腕が見えた。
「は…?」
いや、肌色が悪いなんてものじゃない。俺の腕が灰色になっている。
バッと上半身を起こすと、自分の部屋着がボロボロに破けていた。
掛け布団をどかすとズボンも同様に破けていて、変わらず灰色の肌が見える。
「夢でも見てんのか…いや、待てよ。確か寝る前…いや倒れる前に…そうだ、世界のアップデートがどうたらこうたらって…」
俺はスマホでカメラを起動し、内カメにする。
そこには、黒毛の山羊頭があった。
「え………え?」
俺は自分の顔をペタペタと触る。画面に映る山羊頭も同じように動く。
片目を閉じたり、頭を振り回してみたりする。もちろん画面に映る山羊頭も同じように動いている。
「え、えぇ〜…」
どうやら俺は、山羊頭の化け物になってしまったようだ。
ただ恐ろしいことに、今の姿に驚くほど違和感がない。この姿が当たり前のように感じる。
まるで今までもこの姿だったかのような気さえしてくる。
「…不思議だな」
それからしばらくスマホで調べていると、思ってたよりも大事になっているようだった。
まず人類の進化。
どうやら俺以外の人間も進化しているようで、ハイヒューマンという人間の上位種や
エルフ,ドワーフ,獣人など様々な種族へと進化をしたみたいで、その中でもハイヒューマンが一番多いみたいだ。
今のところ俺と同じような種族は見つけれていない。
次に、この世界に人を襲うモンスターが大量に現れた。
現在自衛隊の駐屯地や学校などでバリケードを築き、避難しているらしい。
どうやらモンスター達は銃器の効き目が薄いらしく、バットやらナイフやらで攻撃したほうが効くらしい。
そしてモンスターを倒すと光になって消え、色々ドロップする。
というか完全に逃げ遅れた、普通にまずい。何で俺だけ1週間も気絶してるんだよ。
最後に、メニューと言うと半透明のウィンドウが現れてメニューが見れる。
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〔所持MP 1000〕
〔ステータス〕
〔アイテムボックス〕
〔ショップ〕
〔掲示板〕
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こんな感じだ。
まずMPはモンスターポイントの略で、モンスターを倒すことで手に入れることができるものだ。
MPはショップやレベルアップで使用する。相手に送って取引に使うことも可能だ。
次にステータス、名前の通り自分のステータスを見ることができる。
俺はこんな感じだ。
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〔Lv.1〕次のレベルまで500MP
〔名前:佐藤ヒロキ〕
〔種族:悪魔〕
〔攻撃:F−〕〔防御:G+〕〔俊敏:G〕〔魔法:F〕
〔種族スキル〕
[眷属化][契約]
〔スキル〕
[火魔法Lv.1]
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という感じだ。薄々感づいてたが、やっぱり悪魔だった。
いやまぁ山羊頭の人型とか悪魔そのものだもんな。
それはともかく、"眷属化"は他の生き物を眷属にできるスキルだ。
眷属になった者はハーフデーモンとなり、攻撃と魔法が上昇する。
そしてその者が獲得したMPを10%自動で徴収することができる。
さらに眷属は主である俺からの命令に逆らうことができなく、危害を加えることもできない。
眷属化が発動する条件は、俺が眷属化のメリットとデメリットを説明して眷属になるかを聞き、それに肯定をして俺が展開した魔法陣の上に立つことで眷属化が発動する。
何故ここまで詳しいのか自分でも分からないが、こういうスキルがあると自覚した瞬間から使い方とそれを行使したら何が起こるのかが分かった、不思議なもんだな。
次は"契約"だ。
このスキルを発動すると、紙とペンが現れる。
そして紙に契約内容を書き、フルネームを署名することで契約が開始する。
契約を破った際のペナルティは好きに決めることができ、決めなかった場合は契約を破ろうとする直前に全身に激痛が走ることになる。
そしてこのスキルは俺に関係しない他人同士の契約にも使用できる。
次は"火魔法"、火を生み出して操り攻撃することができる。
以上。
次にアイテムボックスだが、これは片手で持てるものだったらいくらでも入れることができる便利機能だ。
ショップは様々なものが買える。武器や防具、水など本当に色々ある。
掲示板は世界中で繋がっている情報共有システムだ。
かなり使えるのだが、あくどいことに使っている連中もいるらしく頼りきることはしない方が良さそうだ。
とまぁこんな感じだな。
とりあえずの目標は近くのスーパーやコンビニで物資を回収することだ。
それでどっかの避難所にでも行ければいいが、この見た目だから受け入れてくれるかも分からない。
何なら見かけた瞬間に襲われる可能性もあるからな。
あと1つ切実な問題がある。それは着れる服がないということだ。
進化した際に身長が爆上がりして、なおかつ筋骨隆々とした身体になってしまうという。
おかげで服とズボンがサイズが合わなくなってしまった。
さすがに俺の俺を晒して歩くのは悪魔になったと言えど抵抗はあるので、最悪毛布でも腰に巻いていこうと思うのだが…
「いや待てよ、ショップがあったか。"メニュー"」
俺はメニューを開き、ショップを選択してズボンを探す。
〔半ズボン〕200MP
〔長ズボン〕500MP
「あった!!けど高いなぁ」
できれば武器を買いたいのだが…武器はいくらだ。
〔木の棍棒〕1000MP
〔鉄のナイフ〕1500MP
〔鉄の剣〕3000MP
〔鉄の斧〕4000MP
「木の棍棒で1000…!?くっそ、フル◯ンか素手か…いや一応包丁があるが、さすがに危ないよなぁ…」
クソ、どうする……
1時間後
そこには毛布を腰に巻き付けて棍棒を片手に持つ悪魔の姿があった。
毛布の上から紐を巻き付けて落ちないようにする素敵な工夫も見受けられる。
「はぁ…それじゃあ行くとするか」