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第九話:満室

 昔、私が知人から聞いた話。


 知人の幼馴染のAさん(女性)は、夏休みに関西に旅行する予定をたてていた。

 その日の夜、ガイドブックであれこれ悩んでから、とあるホテルを選んだAさんはさっそく予約窓口に電話をした。時刻は8時頃だったが、すぐに落ち着いた女性の声で応答があった。


「お電話ありがとうございます、ホテルPでございます」

「あの、○月○日に一泊する予約をお願いしたいんですが……」

「○月○日でございますね、予約状況を調べますのでそのままお待ちください」

 ほんの少し無音になり、すぐに返事があった。

「誠に申し訳ございません、○月○日は満室となっております」

「ああ、そうなんですか。わかりました」

 仕方ないなと諦めたAさんは礼を言って電話を切り、別のホテルに電話をしてそこで予約を取った。


 数日後。

 Aさんが下宿の部屋で、友人とお酒を飲んで盛り上がっていた時。

 何気なくAさんが、今度の旅行でホテルPに泊まりたかったけど満室で予約が取れなかったんだよねーという話をすると、友人はぎょっとしたような顔でAさんを見た。

 Aさんが狼狽えて「え、何どうしたの?」と聞くと友人は声をひそめて言った。


「あんた、本当にホテルPに電話したの?」

「うん、間違いないよ。ほらガイドブックのここに載ってるでしょう」

 AさんがガイドブックのホテルPのページを差し出すと、友人の顔が引きつった。

「……そのガイドブック、古いよ」

「え?」

「ホテルPは、何年か前に廃業してるよ」

「廃業? ええだって、電話で女の人に満室って言われたんだよ!!」


 その後、半泣きのAさんから知人の元に電話があり、知人が「うん、確かにホテルPは廃業してるよ。あのホテルは営業中から怪談話の多いところだったからねー。建物はまだ残ってるから何かで満室だったんだろうねー」と応答して余計におびえられて、恨まれたのであった。

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