「そうか……君の気持ちが分かってないのに、勝手ばかり言ってすまなかった。君にしか分からないこともあるだろうにね……」
リュエルの言葉に、私は静かに首を横に振った。
「私がいなくなることが、お母さんにとって一番辛いはずなのに、私はそれを選んでしまった……本当に酷いよね、私って……」
泣き続ける私の背中を、「もう大丈夫だよ」とリュエルは笑顔でさすってくれた。
***
「ところで……例えば……例えばだよ? また、私たちが入れ替わったりすることって出来るの? 私は眞白に戻って、リュエルが悠真の身体で生きていくって感じで」
「ハハハ、どうしたの? もしかして、眞白に戻りたくなった?」
「い、いや、そうじゃなくて。そもそも、どうやって私の身体に入ることが出来たんだろうって」
「ああ……それはね、この時代でいうと何だろう……プログラムかな? 一番近いと思われるのは」
「プログラムって、パソコンなんかで使うプログラムってこと?」
「そう、そのプログラム。僕たちの世界では、ほとんどのことがそのプログラムで出来るようになってる。君たちの世界でも、AIが幅を利かせるようになってきているだろ? ——でもね、それが出来るのはルーメア人の間だけ。今の僕は、ただの地球人だから」
じゃ、私は死ぬまで東雲悠真として生きていくことになるのか。
「それにしても、よく飛び降りようとした私を見つけることが出来たね。偶然、近くを通ったの?」
「いろいろな所を飛び回ったさ。君を見つけるまで、20年ほどかかったからね」
「にっ、20年もっ!?」
「そうさ。命を与えてくれそうな人って、大病を患っていたり、事故に巻き込まれた人ばっかりでね。でも、その人たちの身体を貰ったとしても、長くは生きられないしさ。——初めてだったんだよ、君みたいな人を見つけたのは」
リュエルはそう言うと、ベンチから立ち上がった。
「じゃ、そろそろ僕は塾に行ってくる。——そうそう、それと、お互いこんな話し方をするのは今日で最後にしよう。これから僕は眞白という女性として生きていくし、君は悠真という男性として生きていって欲しい。僕たちの秘密に気づかれることなんてきっとないけど、面倒は出来るだけ少ない方がいいから」
「うん分かった、そうする。——あ、一つだけ聞いておきたいことがあったんだけど」
リュエルは「ん?」と首を傾げた。
「リュエルって、ルーメア人としては男性の区分なんだよね……?」
「あ、ああ……そうだね。身体は無くなったとはいえ、性別だけは今も存在してるから。——それがどうしたの?」
「ほっ、ほら、私って女の子じゃん? その、身体のこととか、色々……」
「ああ、そういう事か。まあ、僕たちはもともと身体がないから、男女どちらになろうと、身体自体にはめちゃくちゃ興味はある……そっ、そういう事か! だ、大丈夫、君が心配になるようなことはしないから! じゃ、塾行ってくる!!」
リュエルは慌てて自転車にまたがると、大急ぎで公園を出ていった。
そんな乗り方をすると下着が見えると、後でLINEを送っておかなくては。