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ep05:キャラクタ

 午前の授業を終え、昼休みになった。私の学校は学食が評判で、お弁当を持ってくる人はごくわずか。眞白もその一人だった。


「あ、悠真は弁当なのか。飯食ったら、また話そうな!」


 学食に誘うつもりだったのか、春人と仁が声をかけてきた。私が弁当の包みを持っているのに気づくと、そう言って教室を出ていった。


 眞白は私の時と同じように、一人で食べるのだろうか。それが気になって、弁当を選んだという理由もある。


 眞白はカバンから弁当を取り出すと、周りをキョロキョロと見回した。いつも、眞白以外はグループで食べているが、白石しらいし千尋ちひろが今日は一人で食べるようだ。いつも一緒に食べている友人が休んでいるからだろう。


「ねえねえ、よかったら一緒に食べない?」


 眞白は席が二つ離れた、千尋に声をかけた。今となっては他人事ひとごとなのに、私の心臓がドクンドクンと脈を打つ。


「え……? う、うん、いいよ」


 まさか、千尋も眞白に声をかけられるとは思わなかったのだろう。驚いた顔でそう言うと、眞白の席までやってきた。


 そして眞白は、私にも一緒にご飯を食べようと声をかけてきた。



***



「なんか、今日の桜庭さん雰囲気が全然違うね」


「えっ!? ど、どんなところが!?」


 昨日までの眞白と違いすぎていないか、眞白自身も気にかけているのだろう。食い気味に、そう千尋に問いかけた。


「アハハ、そういうところとか。今まで大きい声とか聞いたこと無かったもん」


「そ、そうだよね。ちょっと今までは大人しくしてたっていうか……っていうか、名字じゃなくて眞白って呼んでくれたらいいよ。私も千尋って呼んでいい?」


「もちろん。——実はね、眞白ちゃんいつも一人でお昼食べてたじゃない? 誘ってみようかって沙耶さやと言ってたとこなんだ。——今日は声かけてくれてありがとう」


 沙耶とは、千尋の仲の良い友だちだ。私もこの二人のことは気になっていた。勇気を出して声をかけていれば、こんな簡単に近づけたんだ……


「どうしたの悠真? 神妙な顔しちゃって」


 ふいに眞白が問いかけてきた。


「い、いや、なんでもないよ。なんか、良い瞬間に立ち会えたなって」


「ハハハ、なにそれ。なんだか先生みたい。——わ、私も悠真くんって呼んでいいかな?」


「もちろん。俺も千尋、眞白って呼ぶようにするよ。よかったら、これからも一緒にお昼ご飯食べようよ」


 無邪気に喜ぶ眞白とは対照的に、千尋は顔を真赤にさせていた。



***



「えーっ!! なになに? あんたたち、悠真とご飯食べてたの?」


 学食から帰ってきた彩奈が大声で言った。そう言われた千尋はタジタジになったが、眞白はケロッとしている。


「私も明日からお弁当にしてもらおうかな。明日香もそうする?」


 彩奈は隣にいる明日香にそう言った。 


「そうしなよ。私たち明日からも一緒に食べるから、彩奈も一緒に食べればいいじゃん」


 ま、眞白……いくらなんでもそれはキャラが違いすぎる……早めに、私の正体を明かすべきだったか……


「桜庭……あんた、ちょっと今日おかしいよね? もしかして、悠真に気に入られようと思って、キャラ変とか考えてんの?」


 彩奈が苛立ちをあらわにした。きっと、名前を呼び捨てられたことも気に入らないのだろう。


「ちょ、ちょっと、眞白いいか? 話がある」


 私は眞白を連れて、中庭へと向かった。

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