目が覚めた瞬間、俺は見知らぬ森の中に立っていた。
いや、正確には「立たされていた」。
「……ん? なんだここ?」
見渡す限りの緑、鮮やかすぎる草木、風に揺れる木々のざわめき。すべてがやけにリアルで、ゲームの中とは思えないほどの臨場感だった。
「まさか、異世界転生……ってやつ?」
そんな馬鹿な。俺はただ、いつものようにネトゲをプレイしていただけのはず。
「エターナル・クロニクル」——通称エタクロは、自由度の高いファンタジーMMORPGで、俺はそこで複数のオリキャラを育成していた。
「……ま、まさか。いや、そんなわけないよな?」
しかし、そんな考えを打ち砕くように、俺の視界の端にシステムウィンドウが現れた。
──《固有能力:キャラ変身》が発動しました──
「……嘘だろ?」
驚く俺の前に、懐かしいキャラクター選択画面が浮かび上がった。
そこには俺が育て上げた最凶の5人——オルバ、エレン、ヘンリー、ギャベル、オーレリアの名前が並んでいる。
「……試してみるしかねぇよな」
俺は躊躇いながらも、最も扱い慣れたキャラクター、剣士オルバ=レグルスを選択した。
──《キャラ変身:オルバ=レグルス》──
次の瞬間、俺の体は眩い光に包まれた。
気づけば、身に纏っていた普段着は重厚なプレートアーマーに変わり、腰には大剣が収まっている。
鏡はないが、感覚的に分かる——俺の姿はオルバそのものになっていた。
「マジかよ……!」
剣を軽く振るうと、空気を裂く鋭い音が響く。強さもスピードもゲームで操作していた頃のままだ。
「これは……面白くなってきたな」
こうなったら、思いっきり楽しむしかない。
そう決めた矢先——
「キャアアアアア!!」
突如、森の奥から悲鳴が響いた。
「……早速イベント発生かよ」
俺は迷うことなく、大剣を携えて声のした方向へ駆け出した。
叫び声の主は、若い女性だった。
彼女はボロボロの服を纏い、巨大な狼のような魔物に追い詰められていた。
「クソッ、もうダメ……!」
魔物が今にも飛びかかろうとした瞬間——
「間に合ったな!」
俺は猛スピードで駆け寄り、大剣を振り下ろした。
ズバァン!!
一撃。
それだけで、魔物は真っ二つになった。
「え……?」
女性が目を見開いて俺を見つめる。
魔物の断末魔も響かぬまま、大地に沈んでいった。
「大丈夫か?」
俺は剣を収めながら、彼女に手を差し伸べた。
「す、すごい……あなた、一体……?」
「通りすがりの冒険者だよ」
格好つけてそう言うが、実際は俺も異世界に来たばかり。
でも、これくらいなら問題ない。
「とりあえず、安全な場所まで行こうか」
彼女は戸惑いながらも、俺の手を取った。
森を抜けると、小さな村が見えてきた。
「あなた、村まで送ってくれるの?」
「まぁな。せっかくの異世界だし、色々見て回りたいしな」
俺はまだこの世界のことを何も知らない。
けど、《キャラ変身》を使えば、どんな状況でも対応できるはずだ。
「よし、しばらくはこの世界を楽しむとするか!」
——こうして、俺の異世界冒険譚が幕を開けた。