いつものように艶やかな黒髪が揺れるのをヒヨノは見ていた。腰まで伸ばされた緑の黒髪は真っ直ぐに流れている。明原
美子はくるりと振り向くと、はぁぁぁっとため息をついた。
「本当にヒヨノは私が居ないと駄目ね。」
と美子は言うと、ヒヨノの制服のリボンのねじれを直してあげる。
ヒヨノは申し訳なさそうに
「ごめんね」
と呟いた。
美子は少し怪訝な顔をして
「そういうときは、ありがとう、よ!」
と叱咤した。
「ご、ごめんなさい…あっ…ごめんじゃなくて...えっと…」
ごもるヒヨノに美子はまたため息をつくと
「もういいわ」
と言って前に向き直りツカツカと廊下を歩いていった。
ヒヨノは顔を真っ赤にして、急いで美子の後を追った。
同じようなやり取りを幼なじみである美子とヒヨノはもう何百回、何千回と繰り返しているのかもしれない。それくらいいつものやり取りだった。
美子はヒヨノを鈍臭い手のかかる幼なじみだと思っていた。ひょこひょこ私の後をついて回る、私が居ないと駄目な、幼なじみ。私が居なかったらきっといじめられっこだったに違いない。プリントの束を持たせたら床にばらまいちゃうような、先生に頼まれた物を指定の教室に運ぶ際、教室を間違えちゃうような。そんな子。私が居ないと独りぼっちになってしまう、そんな子。そう思っている。
ヒヨノも私が居ないとなんにも出来ないから陰で金魚のフンと呼ばれようとも、構わず私に付いてくる。私しか居ないちょっとかわいそうなヒヨノ。でも、幼なじみなんだから、いつでも私が居て、助けてあげられる。
小さい頃、公園の砂場で砂まみれになったヒヨノを助けて起こし、砂をほろってあげて手を繋いで帰ったあの日から、ずっと、一緒に過ごしてきた。