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第3話 初めての異世界

消失ロスト帰還支援者リターン……?」


「はい。消失帰還支援者ロストリターンとは、その名の通り、消失してしまった人を取り戻す人のことです」


「消失した人を地球へ戻すために支援する人……って感じですか?」


「はい。消失帰還支援者ロストリターンになる為の条件は二つ。一つは、ロストに巻き込まれた人に触れること」


「触れれば、いいんですか?」


「はい。そしてもう一つは、ロストに巻き込まれた人に対する強い想いを持つこと」


「強い、想い?」


「その人を助けたいと強く願うことです」


「そんなことだけで?」


「はい。ロストに巻き込まれた人は、基本的に意識を刈り取られたように声をあげることもなく消滅するのが普通なのですが、稀に意識を保ったままの人がいます。そんな人は、必ずと言って良いほどに、何かしらの強い感情を持っています。それは怒りであったり悲しみであったりと様々ですが、その人達は皆、特別な力を持っていることが多いんです」


「特別な、力……」


「現世では、使えないものですけどね」


「彩華は、特別だった、というわけか……」


「そうなんです。ロストに巻き込まれても意識を保つことが出来るのは、とても稀なんです。だから、彩華さんのようにロストに巻き込まれても、意識を保ち続けることが出来たのはとても珍しいんです」


「なぁ、女神様」


「なんでしょうか?」


「俺はどうしたらいいのでしょうか? 消失帰還支援者ロストリターンになって、どうやったら彩華を救えますか?」


 俺に迷う余地は無かった。


 彩華が無事だと分かった今、俺がやるべきことは決まっていた。


 彩華を助けるためなら、俺はなんだってやる。


 たとえそれが、どんなに危険なことだとしても。


 俺の言葉を聞いた女神様は、俺の手を握ったままだった手に少し力を込めると、俺の目を見つめてこう告げた。


 俺の運命を決める言葉を。


 女神様は、俺の目をじっと見ながら、俺の問いに答えた。


「貴方には二つの選択肢があります。一つ目は、この場で私の加護を受けて、私から与えられた能力を使って、異世界へと行く道。二つ目は、ここで何もせずに、元の世界に帰ってもらう道。貴方が決めてください」


 俺は、彩華を助けられるなら何でもするつもりだ。


「俺は、彩華を救いたい」


「.……分かりました。では、貴方に与えましょう。 【消失ロスト帰還支援者リターン】の能力を」


「ありがとうございます!」


「いえ、礼を言うのはこちらの方です。彩華さんを.……消失した方を救えるかもしれないのは、貴方しかいないのですから」


 女神様はそう言うと微笑んだ後、真剣な表情になった。


「これから貴方に授けるのは、【帰還術式】。貴方に与えられる専用スキルです」


「【帰還術式】……。それで、彩華を地球に戻せるんですか?」


「はい。ロスト被害者には、それぞれ強力なスキル等が与えられます。しかし、それは本来では得ることが出来ないはずのもの。必ず、肉体とのズレ、漏れ出てしまう力というものがあります。それに介入、分解し、その力を利用するのが、この術式というわけです」


「え、えっと.……。つまり?」


「この【帰還術式】を使えば、ロスト被害者を地球に戻すことが出来ます」


「本当ですか!? それなら.……」


 彩華を助けられる。そう思っていたが。


 女神様は申し訳無さそうな顔をしていた。


「すみません.……。本当はもっと強力なスキルをお渡ししたいところなんですが」


 女神様曰く、強引に割り込んでしまったため、本来なら与えられるスキルを与えられることが出来ないとのこと。


「なんだ、そんなことですか」


 女神様は不思議そうな顔をしていた。


 無理もないだろう。


 これから異世界に行くというのに、戦うためのスキルを与えられない、と言ってるのだ。


 普通なら受け入れられるはずもない。


 でも!


「彩華を助けられるチャンスを得ることが出来たんです。それだけで、今の俺には充分です!」


「本当に、よろしいのですね?」


「はい。彩華さえ助けられれば、後は俺の自己満足ですから」


 俺の言葉を聞いて、女神様はクスッと笑った。


「貴方は面白い人ですね。私は、貴方のような人は好きですよ」


 すると、俺の体が光り始めた。


「.……そろそろ時間みたいです。ここに長居をしすぎると、貴方の存在が保てなくなってしまうかもしれません」


 ここはそれほどまでに不安定な場所なんです、と女神様は自嘲気味に笑う。


「彩華さんが行った世界を特定することは叶いませんが、貴方との縁を探り、絞り混むことは出来ました」


 そう言うと、女神様は、空中にスクリーンのようなものを展開してきた。


「これらは、貴方と縁が強い者が飛ばされてしまった世界。.……縁が強いと言っても、『近い期間にロストにあった同じ日本人』という条件でしか絞れないので、かなり多いと思いますが」


 そこには、色々な世界の地図が表示されていた。


「その中から、貴方と一番関わりが深いと思われる世界をピックアップしました」


 その数は、十一個ほど。


「これらの世界の中から、彩華さんを探していただきます」

「わかりました」


 俺はすぐに返事をした。


 もちろん答えは決まっている。


「どの世界でも構いません。彩華を見つけ出すことが出来れば、彩華は助かるんですね?」

「はい。きっと」


 女神様は力強く肯定してくれた。


「では、準備はいいでしょうか?」


「はい。お願いします」


 女神様が手を前にかざすと、俺の周りに魔法陣が出現し、徐々に光を放ち始める。


「長い間この空間に留まると、存在が保てなくなり、適当な世界へ飛ばされてしまいます」


 女神様が両手に何やら力を込めると、俺を包んでいた光が、魔方陣へと吸い込まれ、より強い輝きとなった。


「私の力で指向性を持たせ、十一の世界のどれかに飛ばさせていただきます。――貴方の無事を願っています。どうか、ご武運を。宅人様」


「ありがとうございます。女神様もお元気で」


 俺がそう言うと、女神様は笑顔を見せた。


 そして、次の瞬間に俺の姿は完全に消え去った。


 .……消えるというのに、先ほどのような嫌な感覚は、一切しなかった。


 ――目を開くと、俺は今、森の中にいた。


「ここが、異世界……?」


 俺は周囲を見渡す。


 森とは言っても、日本のように鬱蒼としたものではなく、木々の間から木漏れ日が差し込み、地面は芝で覆われているような、綺麗な景色の森だった。


 まるで、どこかの自然公園に迷い込んだかのような感じだ。


 だが、明らかに違う点がある。


 それは、空気だ。


 自然豊かな場所特有の澄んだ空気ではなく、薄暗い洞窟の中に入った時のような、重苦しい雰囲気を放っていた。


「とりあえず、この場から移動しよう」


 このまま留まっていてもしょうがないと思い、歩き出そうとしたその時だった。


「グルルルル……」


 一匹の狼が、茂みをかき分けて出てきた。


「嘘だろっ!?」


 俺は驚きの声を上げる。


 狼なんて、日本にいた時でも出くわしたことねぇよ!


『あー。あー。宅人様? 聴こえていらっしゃいますか?』


 この声はっ……!


「女神様っ!?」


『あ、繋がりました! 宅人様、身体に異常等はございませんか?』


 「ええ! すこぶる元気です! 三秒後にはご飯にされてるかもしれま……あっぶね!?」


 涎でぎとぎとになった牙を剥き出しにして飛びかかってきた狼を寸でのところで回避して、芝生の上に転がる。


『宅人様っ! 大丈夫ですか!?』


「な、なんとか。女神様、こいつが異世界の魔物ってやつですか?」


 狼は獲物が自分の食事を滞らせたことにご立腹なのか、唸りをあげてまたこちらに飛びかかろうとしていた。


『はいっ。その魔物モンスターの名は中級魔狼ハイウルフ初級魔狼ウルフが成長し、より強い力を得た個体で、初級冒険者殺しとも言われる恐ろしい魔物です!』


「なるほど……。それで、どうすれば倒せるんです?」


『無理です!!』


「へぇっ!?」


『私の加護で身体能力は多少上がっているとはいえ、戦闘スキルも無し、戦闘経験もない宅人様ではハイウルフのご飯にされてしまいます!』


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 慌てて叫ぶ。


「じゃあ、なんでこんなところに飛ばしたんですか!!」


『うぅ……。申し訳ありません。私にも分からないんです。ただ、縁の強い世界の中で、最も貴方が行きやすい場所を選んだ結果が、この森だったんです……』


 女神様は心底申し訳なさそうに言う。


「そっかぁ……」


 ははっと乾いた笑いが溢れた。


『……でも、もしかしたら』


 と、先程の弱々しい装いから一転、

力強い口調で話し始めた。


『【帰還術式】の応用でなんとかなるかもしれません……!』


「本当ですか!?」


 女神様に失礼かもしれないが、最早藁にもすがる思いだ。


中級魔狼ハイウルフなら初級魔法が使えるはず……。』


「初級魔法?」


「とりあえず今は逃げてください!」


「分かりました!」


 俺はその場から全力で離脱する。


 現世含めても初めての逃走劇が始まってしまった。


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