「彩華っ!!」
目が覚めると、そこは見たこともない場所だった。
ただ、真っ白な空間だけが広がっている。
床も天井も壁もなく、ただひたすらに白いだけの不思議な空間。
立っている感覚はあるはずなのに、下を向いても何かが敷いてあるとか置いてあるとか、そういうのではない。
なんだここは……。
「俺は……ロスト、したのか……?」
真っ白な空間で自分のことだけはっきりと見える違和感に頭を混乱させながらも、確かに自分がしっかりと存在していることに安心感を覚える。
指先から消えていく瞬間と感触は普通に生きていたら、まず味わえないものだろう。
それにしても、彩華は無事なのか……?
彩華がロストに襲われて、必死に手を延ばして……。
それであの時、確かに消えたはずだ。なのに……どうして? まさか、死んだとか……? いや、でも、さっきの声は……?
混乱する俺の前から、コツ、コツ、という足音が聞こえた。
ふと、顔を上げると、そこには一人の女性がいた。
その女性は俺を見ると、にっこりと微笑んでくれた。
綺麗な女性だと思う。
透き通るような銀髪に、整った顔立ちをしている。
歳は二十代前半といったところだろうか。
服装はこの世の物とは思えないほど神秘的で、どこか神々しさを感じる。
この人は一体……誰だ?
いや! まずはそれよりも!
「すみません! 彩華は.……俺の幼馴染を知りませんか!?」
「わっ!? え、えっと.……。確か、貴方と一緒に消えた女性、でしたよね?」
「そうです! 俺の大切な幼馴染なんです! お願いします、知ってたら教えてください!」
俺は女性に向かって頭を下げていた。
一緒に消えたはずの俺がこうして生きているんだ。
彩華は絶対に生きているはずなのだ。
だから!
「ちょ、ちょっと落ちついてください.……」
「早くしないとあいつが危ないかもしれないんですよ!」
「わ、わかりました……。じゃあ、とりあえず説明させていただきますね」
「お願いします!」
俺は勢いよく返事をした。
とにかく情報が欲しいのだ。
「単刀直入に言いますと、私は女神と呼ばれる存在です」
「……はい?」
……いきなり何を言っているのかわかんねぇぞ。
「まぁ、信じられないのも無理はないでしょうね……」
「いえ、そういうわけでは……。えーと、つまり、あなたが神様ってことですかね」
俺は彩華を助けたい一心で冷静さを欠いていたのかもしれなかった。
「はい」
……まじかよ。
俺、神様に会っちゃったよ。
「まあ、神と言っても見習いからの成り上がりでしかない私が、女神の名乗っていいのか甚だ疑問なんですが.……」
「いやいや! 十分すごいですよ! だって、ほら! こんな状況で、しかも目の前にいる人が本物の女神様なんて、もう信じるしかありませんし!」
「そっ、そうなんですか!?」
俺の言葉に驚いた様子の女神様。
「そうですよ! めっちゃ女神っぽいです! アニメやゲームに出てくる女神とイメージぴったりですって!」
「そ、そうですか? えへへ.……。じゃあ、神様らしく分かりやすく説明致しますね!」
「よろしくお願いします! 彩華を助けられるなら何でもやりますよ! ……あ、ちなみに俺は相原宅人と言いまして……」
それから数分後、ようやく落ち着きを取り戻した俺は改めて話を聞くことにした。
「貴方方の世界には、ロスト――【消失性災害】、というものがありますよね?」
「え、ええ。ありますが」
「それが、【災害】ではなく、【誰かによって】行われたものなのです」
……どういうことだ?
「簡単に言えば、神々の退屈による暇潰しです」
「……はい?なんすかそれ?」
「例えばの話なんですけど、既存の物語に自分の考えたキャラクターを投入したらどうなるのか。発展するのか? はたまた崩壊するのか? 神々は自分達が生み出した世界に大きすぎる一石を投じて、退屈を凌いでいるのです」
「なんじゃそりゃ……。そんなことのために、世界から人を消しているっていうのか?」
「端的に言うとそうですね。でも、これはあくまで一例で、他にも理由はあると思います。……そして今回、そのロストに選ばれてしまったというのが貴方達.……いや、彩華さんという訳なんですよ」
「何で彩華が選ばれたんだ?」
「わかりません。神々は無作為に人を選んでいるそうなので。本来であれば、ロストに巻き込まれたら、すぐに消滅してしまうのですが。万が一、近くに誰かがいても安全措置が働き、ロスト対象者に触れられないようになっているんです」
安全措置……?
「っ!? あのデカイ耳鳴りみたいな音か!」
「そうです。それに、彩華さんはロストに巻き込まれても一瞬で消えずに意識を保られていました。それがあったからこそ、貴方が割り込むことが出来たのでしょう」
「彩華は無事なのか!?」
「は、はい。一応は。神々の考えはろくでもないものばかりですが、外道ではありません。異世界でもやっていけるような強力な魔法やスキル、卓越した身体能力を得られることが出来ます。ただ、かなり危険な状態であることに変わりはないので、早急に手を打たなければなりません」
「彩華はどこにいるんだ? 彩華は無事なのか? 彩華は今どこなんだ? 彩華は大丈夫なんだな? 彩華は……彩華は……」
「ちょ、ちょっと待ってください。落ち着いてください」
「落ち着けるかよ! 彩華が大変なんだろ! 早く助けないと!」
俺は必死だった。
大切な幼馴染が、俺の目の前で消えてしまったんだぞ?
「落ち着いて下さいっ! 彩華さんは無事です。ちゃんと生きてます!」
「ほんとか!? よかった……。本当に良かった…….」
俺は安心してその場に座り込んでしまった。
「ええ、本当に。貴方が居てくれて、本当に良かった」
女神様も安堵した様子で微笑んでいた。
「貴方がロストに割り込んでくれたおかげで、貴方をこちらの空間へ呼び出すことが出来たのです」
「えっ? どういう意味だ? 俺は彩華を助けようとして、一緒に消えてしまって……」
「本来なら、安全措置とはいえ、【ロスト対象者に触れる】という神々のルールを破ることなど出来るはずもないのですが、貴方は彩華さんを助けるために、そのルールを破ってくれたのです」
女神様の言っていることがよく分からない。
俺に分かるように説明してくれ。
俺の願いが届いたのか、女神様がゆっくりと話し始めた。
俺は女神様の説明を聞いていくうちに、驚きのあまり言葉を失っていた……。
女神様が言うには、彩華を助けるためには、まず【異世界】に行かなければならないらしい。
しかも、一つの世界ではなく、複数の異世界を。
これは女神様でも、無数にある世界から一人を見つけることは出来るには出来るが、それ相応の時間が掛かり、仮に見つけたとしても、細やかな取捨選択は出来ないのだそう。
神々が無作為に人や異世界を選んでいるのも、その理由があるからだそうだ。
俺達が普段生活している世界は【現世】と呼ばれ、俺達の住むこの地球は【アース】と呼ばれているそうだ。
俺達は、俺達が住む世界のことを、それぞれ【日本】、【地球】と呼んでいる。
そして、俺がいる場所こそが、【現世と異世界の狭間】なのだと。
【異世界】と【現世と異世界の狭間】と【現世】は、互いに干渉し合うことはない。
しかし。
「俺がルールを破ったから、女神様が呼ぶことが出来た……?」
「そうです。貴方が彩華さんを救うため、自らを犠牲にしてくれたからこそ、私は貴方をここに呼べたんです」
「そっか……。それで、彩華を救う方法はあるのか?」
「あります。些細なこととはいえ、神々のルールを破ることが出来た、貴方にしか出来ないことが」
すると、女神様は俺の手を両手で包みこむように握ると、
「貴方には、【
真剣な眼差しでそう言った。